第8話 筆記試験
教室中の空気が凍る。茫然としていた試験官もさすがは教師、すぐに切り替える。
「代わりの魔晶石を取ってくるから、しばらく待機するように。」
そう言い残して教室を出て行った。
「びっくりしちゃったね、魔晶石が割れるなんて災難だったね。」
レイが近寄ってくる。
「割れるのって珍しいことなのか?」
「うん、たまに聞くけど、寿命が数十年あるらしいからね。いやー、あと一人分もってくれたらよかったんだけどね。」
なかなかに運が悪いな。まあこればかりは仕方ないか。窓から教室の外をぼんやり見て過ごした。
そうこうしている内に新しい魔晶石が運ばれてくる。
「では改めて魔力を測定する。」
試験官の指示通りに魔晶石に手をかざす。指示外のことは一切していない。にもかかわらず、またしても大きな音をたてて魔晶石は砕け散った。
「災難……だね?」
レイが慰めるように言う。試験官はまたしてもほかの魔晶石を取ってくると言い教室を出て行った。
「試験妨害するなよ。」
ボソッとした独り言、けれど俺に確実に聞こえる音量の声がする。あからさまな嫌味だ。しかし試験の時間割が遅れているのは事実。何を言われても仕方ない。それに嫌味も悪口もう前世で耐性がついている。だがレイは違った。
「その言い方はないだろう!!アランだってわざとしてるわけじゃないんだから!!」
「どうだか。魔力量の少ない妖魔族のことだ。どうせ落ちるなら妨害してやろうって魂胆かもしれねぇ。」
オーク族だろうか。いかにも『魔族』といった感じの風貌をしている男が言う。俺のことは妖魔族にしか見えてないみたいだな。少し安心する。
「ここはさまざまな魔族が協力することを理念に設立された学校だ。種族差別は許されないぞ!!」
「それは建前だろ。一番強い奴を決めて次の魔王を決めるための場所だろ?なぁみんな?」
同意を求めるようにあたりを見回す。反論する者はいなかった。
「何事だ。みな着席しろ。」
タイミングよく試験官が魔晶石を片手に帰ってくる。なにやら空気が悪くなっていたので助かった。
指示通りに魔晶石に手をかざす。そして、またしても魔晶石は砕けた。
これ以上の遅延はできないとのことで筆記試験に移ることを試験官から告げられる。対応は追って通知されるらしい。
レイを除く教室中の全員から白い目で見られつつ、筆記試験に臨んだ。
まずい……予期せぬごたごたのせいで一夜漬けした記憶が消し飛んでしまった。第一問では初代、53代目、74代目、そして現職である82代目の魔王の名前が問われている。今朝の段階では全員覚えていたはずなのだが。初代以外は思い出すことができない。
試験妨害っていわれてもこれじゃあ俺が一番被害にあってるよな……これじゃあ実技試験満点でも合格点に届かないだろ。
一縷の望みをかけてそのあとの問題にも目を通す。第二問、古代文字だろうか、そもそも問題文から全く読めない。第三問、主要施設のある都市の名前を問われている。問題文で与えられた名称の施設がどのようなものかすらわからないので詰み。
いや、これマジで詰んだっぽいな……今のうちから言い訳考えとこうかな。
最終問題である第四問は別紙に記載されていた。暗号の問題のようだ、問題文に数字の羅列とその訳が載っていて、その下に数字の羅列が与えられている。これは考えたら解けそうだ。幸いなことに残り時間はほぼ全部残っている。分からないながらもなんとか第四問だけ解き終えた瞬間に試験終了が告げられた。
実技試験に関しては対応は協議するとのことでその場は帰らされた。ルージュたちになんて話せばいいんだろうか。
「お疲れ!!お昼一緒に食べていかない?」
レイが話しかけてくる。人と話して一旦試験のことを忘れるのも手だな。誘われるままに学園を後にした。
「ここのパンケーキすっごくおいしいんだよ!」
レイが看板を指さしながら言う。学園から少し離れた裏通りの店だ。昼時だがそんなに客はいないようだ。窓際のボックス席に座る。
「ボクはこれ頼むけど、アランは何にする?」
メニュー表を見せられる。正直どれも同じに見えてしまう。
「俺も同じやつで。」
「お金持ってないのにどうやって払うのかな~」
座席越しに後ろから声を掛けられる。振り向くと、にやにやしているテレシアが目に入る。ジュドーは不機嫌そうな顔をしている。ルージュの姿もある。3人もこの店に来ていたのか。
「こっちはわざわざ試験終わりの時間に迎えにいってやったんだぞ。それは無視して優雅に昼食とはいいご身分だな。」
「ボクが誘って、試験はボクたちのところだけ延長してて、」
レイがかばってくれる。現金をもってないのはすっかり忘れていたが、それ以外は悪くないよな、うん。
「もしかして……レイ……じゃない……?」
ルージュが顔をのぞかせて、消え入りそうな声で言う。
「ほら……前に……族長会議のつきそいのときに……にいっしょにあそんだ……エルフ族のレイだよね……?」
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