第7話 実技試験
その日は宿屋に泊まった。魔族学校の受験者が多かったためか空き部屋が少なく、俺とジュドーは同じ部屋で泊まることになった。ジュドーとシングルの部屋に二人きりだ。非常に気まずい。
「おまえさ、何考えてこんなことやってんだよ?そんだけ強かったら何でもできるだろ?」
ジュドーがこちらをにらみながら言う。
「俺が望むのは平穏な生活だよ。君らと利害が一致した。それだけのことだよ。」
「まぁいいや。明日までに歴代魔王全員分の名前を覚えておくんだぞ。ぼくはベッドで寝るからお前は床で寝ろ。」
そう言い放つとジュドーは布団にくるまってしまった。
床で十分な睡眠をとれるはずもなく、次の日の朝、睡眠不足を感じながら起床した。
ジュドーにパンを渡され手早く朝食を食べる。そうこうしているうちに起床したルージュとテレシアも部屋に来る。
「おはよう!今日は入学試験か。アラン頑張ってね!」
快活だが完全に他人事感が滲み出ている挨拶が飛んでくる。
「テレシアも気を抜かずに頑張ってくれ。」
「ん?私たちは今日は試験受けないけど?」
「アランは知らないのか。ぼくら三人は族長推薦だから1次試験は免除されてるぞ。」
ジュドーから説明される。怪訝な顔をしているのを察してくれたのかテレシアが補足する。
「推薦は試験よりずっと前に手続きが締め切られるのよね。だからアランは試験を受けないといけないってわけ。ま、私は100回受けて100回とも受かるけどね。」
「わ……私は……アランのこと……応援……してるよ……」
「いや、別に私も応援してないなんてことはないわよ。」
「いいからちゃんと普段通りやれ。それで十分のはずだ。あと試験会場はここを出て右にずっと進んだところにある大きな建物だから。集合時間まであと30分くらいだからそろそろ行ったほうがいいぞ。」
こうして一人で魔族の街をさまよう人間、という奇妙な状況が出来上がった。
宿屋を出て右、たぶん迷うことはないだろう。昨日宿屋に着いたのは夜だったから人通りも少なかった。しかしこうして街を見回してみると異形の者がたくさんいる。ここは魔族領なんだなぁと改めて実感する。
「あのさ!ちょっといい?」
背後から声をかけられる。緑色のマントを羽織りフードを深くまでかぶっているが長い耳が飛び出でている。エルフ族というやつか。
「魔族学校ってどこにあるか知ってる?」
俺もちょうど目的地が同じだ。
「俺も今日そこで試験なんだけど、一緒に行く?」
「助かるよ~、ボクもう1時間は歩いてるんだけど、全然つかなくてさ。もしかしたら迷ったんじゃないかなって心配になってたんだよね。」
いや、それは迷ったかも、じゃなくて迷ってるんだろ。天然か?
まっすぐ道を歩いていくだけなので、当然、迷ったりトラブルに巻き込まれるなんてことはなく目的地に着いた。
「ありがとう!!もしかしたら試験に間に合わないんじゃないかって不安におもってたんだよね。お互い試験頑張ろう!」
それは危なかったな。おそらく俺がいなかったら間に合ってはいないからな。もっと感謝してほしいものだ。
明後日の方向に行こうとする同行者を制御しながらなんとか受付のところまで来た。受付順に番号が割り振られる。
「わあ!ボクら番号となりだね!すごい偶然!」
「連番……なんじゃないか?」
本当にこいつは大丈夫なんだろうか……
案内係に従い試験が行われる教室に行く。連番なので同じ教室だ。
教室は30席ほどしかない小さなものだった。俺らが最後の二人のようだった。
ほどなくして試験官が来る。獣人族というものだろうか、顔が完全に犬だ。
「私がこの教室を担当する試験官だ。試験の内容は把握していると思うが、一応説明しておく。まずは実技として魔力を測定する。そのあと1時間の筆記試験を行う。質問があるやつは手を挙げろ。」
誰も手を上げない。みんな事前に知っているんだろうか。
「よし、じゃあ魔力を測定していく。受験番号の順に前に出て魔晶石に手をかざせ。」
受験者たちが順々に魔力測定をしていく。手をかざすだけで水晶のような石に数字が浮かび上がっている。不思議な道具が魔族領にはあるんだな。
俺がこの教室で最後のようなので少し時間ができた。そういえばまだ名前を聞いていなかったな。
「俺はアランだけど、君の名前は?」
「ボクは……レイだよ。」
ためらいながらの答えが返ってくる。
そこから会話が途切れ、しばらくしてレイの順番が回ってくる。その次が俺だ。
レイが手をかざすと92という数字が浮かび上がる。周りの受験生を見てる限り平均は100ちょいくらいのようなので少し低めかもしれない。
「次の受験者用意しろ。」
試験官から声がかかる。言われた通り魔晶石に手をかざす。
と、同時に魔晶石が砕け散った。
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