第6話 出発

「なにをぼーっとしている。」

 突然のことに驚きを隠せない。どういうことだ?


「僕がお前に座学を教えるようにとルチア様から言われた。」

 ジュドーが続ける。

「その……昨日は悪かった。まさか剣術も魔術も並外れたレベルにあるだなんて考えもしなかった。自分が一番強いと思っていたよ。だけど次に勝つのは僕だからな。隣の部屋で待ってるから早く来い。」

 話が分かるやつということなんだろうか。そう言うと食堂から出ていった。



 手早く朝食をすませ隣室に向かった。ジュドーは遅かったな、とでも言いたげな顔をしている。


「まず始めに聞いておきたいんだが、座学っていうのは1日で学び終わるものか?」

 説明に入ろうとするジュドーを遮り聞く。


「そんなわけがないだろう 舐めてるのか?」

 一層不機嫌そうな顔になる。


「魔族学校は次世代の魔王候補、つまりは族長を育てるための教育機関だ。魔族学校を好成績で卒業し族長に就任。そして魔王になる。これが一般的な魔王へのルートだ。そんな学校が簡単なはずがないだろう?」

 一息に言った後ため息をつく。

「でも安心しろ。実技と座学の比は7対3だ。合格ボーダーが75パーセント前後なのを考えるとまあ問題なく受かるだろう。だが100点満点の座学でだいたい20点くらいは取らないといけない。わかるか?」

 なるほど。それなら何とかなりそうに聞こえるな……ん?


「その計算だと実技はほぼ満点取るのが前提になってないか?」

 おかしいだろ。王立学校で学んだが、魔族は魔力量が人間の5倍はあるんだろ?そのなかのえりすぐりのエリートをふるい分ける試験で、満点は厳しいだろう。


「当たり前だろ。時間がないんだ、ぐずぐず言ってないで早く始めるぞ。」

 仕方なくその日はそれぞれの魔族の特徴、歴代魔王の名前を覚えさせられた。歴代魔 王の直近50人ちょっとを覚えたくらいであたりは暗くなっていた。過去の魔王の名前は毎年必ず数名分出題されているらしく重要な得点源らしい。


 ルージュが部屋に入ってくる。

「あの……竜車が来たみたいで……」


「時間切れみたいだな。まぁ移動中にまだ覚えてない名前を暗記してくれ。」


直近50人くらいは覚えたが正直これ以上覚えられる気がしないな。そう思いながら屋敷を後にした。





 屋敷を出ると門の前に竜車が止まっていた。竜車のなかにはすでに乗っている人がいる。


「あなたがルチアさんが言ってた人間?」

 窓から茶髪のショートカットの少女が顔をのぞかせる。


「早く出発しましょう?乗って乗って !」


 四人乗りのようだ。座席が2人分ずつあり向かい合わせになっている。すでに乗り込んでいる少女の前に座る。続いてルージュが俺の隣に座る。その様子を見ていたジュドーは顔をしかめながら最後の席に座る。


「それじゃあ出発してちょうだい」

 茶髪の少女がそう言うとドラゴンは走り出す。そこそこ整備された街道だが速度が出ているので激しく揺れる。これは酔いそうだな。


「あなたがルチアさんの言ってたすごい強い人間よね。もう中級魔法を詠唱破棄で自在に操れるって聞いたわ。どこで身につけたの?そもそもなんで魔族領に来たの?ほかにも何の魔法が使えるの?あとあと……」


「おい、そんなに質問するな。そもそもこいつはいまから暗記してない歴代魔王の名前を覚えないといけないんだよ。」

ジュドーが止めにかかる。矢継ぎ早に質問を食らったので面食らってしまった。


「それにおまえ、絶対外でこいつが人間なことを話すなよ。」


「さすが私がいくらおしゃべりだからって、そのくらいの分別はついてるわよ。自己紹介が遅れたわね。私はテレシア。ルージュとかジュドーとは違って普通の家の子よ。よろしく。」

 仰々しく貴族がするようなお辞儀をする。それを見たジュドーが不機嫌そうな顔をする。普段からからかって遊んでいるんだろうなl


「俺はアラン。よろしく……俺が人間だって知っても平気なのか?」

仮にも人間と魔族は戦争をしている。ジュドーやパトリックは激しい嫌悪を見せた。


「そうね、上の世代とかは戦争が激しかった時の記憶が残ってるみたいだけど、私は人間との戦争を経験してないからな。正直なところ人間よりほかの魔族のほうが嫌だな。」


「おまえそれは魔族学校では絶対言うなよ。種族差別は厳禁って校則にあっただろ。」


「いちいちうるさいなジュドーは。ここは学校じゃないんだしいいじゃない。」


「そもそもおまえのそういうところがなぁ……」

 ジュドーが文句を言いそれにテレシアが反論する。そんなことを二人は竜車が魔族学校に着くまでずっと繰り返していた。

ちなみにその間に追加で10人分の魔王の名前を覚えた。



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