タキツの食生活
ルルにトレーニングを見てもらって、タキツの成長は順調だ。
その間にアナタは、アナタの仕事を進める。
学園から受け取ったタキツの資料は全て目を通した。それをアナタは自分の手で整理し直している。
既に頭に入れた情報でも、こうしてもう一度思考の中を巡らせれば、新しい真実に気付けることもある。
タキツの食事の内容についても、学園の料理長から教えてもらうことが出来た。
主食になるブレッドが好きらしく、一度の食事で二、三個は食べている。
お菓子も好きで、食事の代わりに甘いものをねだる日もあるそうだ。
野菜は食べなくはないけれど、三日に一度程度で、まぁ、人魚としては普通か。
魚や肉は、赤身や淡泊なものを好まず、脂肪の多い部位が好きらしい。
こうして見ると、人間が同じ食事をずっとしていたら生活習慣病になりそうな嗜好だ。
少なくとも、マキナの家で生活していくなら、回数は今のままでも、もっと良質な蛋白質を摂ってもらわないといけない。速く泳ぐにはそれに見合った筋肉が大量に必要だ。
タキツ向けの献立を作って、マキナに託すというタスクをアナタはメモに書き留める。
レースについては、不出場期間が長すぎて完全に未知数だ。現状の身体能力ではシンプルなスピード勝負になる大会では一縷の望みもない。ルールやコースが複雑な、機転で勝負が左右するような大会が順当であるし、フィッシャーズはその中で取っ掛かりに相応しい。
それから、ルルが言っていたが、タキツはイワシの素質を持つから、生来では波を読むのが得意なはずらしい。そこも伸ばしていければ、強力な武器になる。
ルルは自分が起こした波を利用した加速をタキツに行わせていた。これを身に付ければ、タキツは前を泳ぐ人魚に突き放されることなく、追い抜きのチャンスを窺える。
また、他の人魚が起こしたのではなく、天然の波も逸早く察知すれば機先を制して有利なポジションを取れるはずだ。
こうして考えると、ルルがトレーニングに参加してくれたことで、本当に得るものが多い。
ルル本人の言動から分かる通り、彼女はタキツがレースに勝つために必要なものも、タキツがレースで勝つのに利用出来る素質も把握している。
ルルは他の人魚の勝ち筋も全て網羅した上で、自分が勝利する道筋を見極めているんだろう。それに加えて、圧倒的な身体能力も魔法技術も持っているからこそ、人魚の女王としてレースに君臨している。
いつか、タキツもルルと同じレースに出場するだろうか。その時アナタは、タキツを勝たせることが出来るだろうか。
つらつらと考えに任せていたら、つい思考が明後日の方向へ行ってしまった。
今、アナタが考えるべきは、タキツがどうしてこれだけの食事を必要としているのかだ。
それが体が活動するために要求しているというのであれば、更に食事を増やしてやるべきなのかもしれない。
逆に食べた分をなんらかの方法で体から取り除いているのかもしれない。
人魚の中には無意識に魔法を展開してしまう者もいるというから、タキツも同じように魔力をコントロール出来ずにいてエネルギーを消費している、というのもかのうせいとしてはある。
どれも理屈としては出て来るが。
「だめだ、人間の常識が通じないから、これだっていう閃きが出て来ない」
ここまで調べてまだ、正解を選ぶ判断材料がなかった。資料から読み取れるのはここまでが限界だ。
資料に書かれてない行動、タキツの普段の言動、そういったものを本人や周りの人物から聞き出さなけば、ここから先には進めなさそうだ。
取りあえず、アナタは今出来ることとして、筋肉増加に効果のある食事メニューを調べて、タキツのための献立を考えた。
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