第925話 準備をしましょう

「あの……ところで、この礼服……新しく、とは?」

「ああ、流石に一度着させたものでは、申し訳ないと思って父が作らせたらしいんだが、こんなに幅が変わっていると思わなかったな。安心しろ、ちゃんと直す」


 これに合わせて太れって言われなくて良かったーー……じゃなくって!

 なんでこんな『礼服』を作ってくださったのかってことですよ。


「うむ、父上がなー……これを送ってきて、絶対にタクトを婚姻の儀に呼べと言っててなぁ……」


 セラフィラント公のフライングプレゼントか。

 蒼の上布に金刺繍、セラフィラント仕様になっているってことは間違いなく『婚姻の儀のセラフィラント関係者としての出席』ってことですよね。


 つまり……もしかしたら、ロウェルテア側が招待に動く前に……ってことか?

 うん、流石に先に誘われてしまった方を断ったら、ビィクティアムさんに言われてもセラフィラントにも行かないってことになりそうだよなー。


「ご招待いただけるなら嬉しいですよ。でも、俺ひとりだとセラフィラントへの越領門、使えないですよね?」

「マリティエラと一緒に来い。マリティエラが銀証でも、おまえが金証で『セラフィエムス』と一緒なら問題ない」


「うわぁ……ライリクスさんに恨まれそう……」

「いや、あいつは俺の護衛として俺と一緒にロンデェエストまで行くし、セラフィラントにも同行だ」


 はい?

 え、それって……前乗りってことだから……そうか、マリティエラさんの里帰りもできるってことか。

 だけど、ファロアーナちゃんと離れて平気なのかな?


「一緒に行くと思うぞ。各領地越領門は、王都行きなどと違って『使える者を限定』することで魔力の使用量がかなり低い。ファロアーナはマリティエラの身分証での魔力登録だから、抱いていれば何も問題なくマリティエラだけの魔力で移動できる」


 そうかー、それならセラフィラント公は孫娘に会えるんだね。

 それはよかったなー。

 じゃ、俺のセラフィラント訪問はどっちかっていうと、マリティエラさんの里帰りのオマケってことで移動させてもらえるということだな。

 よろしくお願いいたしまーーす。


 もしかしたら『タクトを呼びたいから協力してくれ』って言うことで、マリティエラさんに『里帰りできる理由』を作りたかったってことかもしれないけどね。

 こういう利用のされ方だったら、全然OKですよ。


 俺だって、セラフィラント公にはファロアーナちゃんを抱っこしてあげて欲しいって思っていたしね。

 お爺ちゃんが孫娘に会えないなんて、可哀相じゃないか。


 ……儀式に出席させていただけるのであれば……ちょーっと演出に参加させてもらっちゃおっかな?

 折角お招きくださるのだから、お祝いの気持ちを前面に押し出せる感じにいたしましょっかねーーっ!

 よーーっし、今から作る贈り物にちょこっと演出を加えるから、練習しておかなくっちゃ!


「そうだ、タクト……これも渡しておく」


 ビィクティアムさんから手の平サイズの箱が渡され、開いてみたら……『竜胆りんどうの徽章』が入っていた。

 これは襟章……昔、皇后殿下からいただいたものと凄くよく似た作り……ってことは、貴族家門の『親族章』と同等の公式な『同神門徽章』だ。

 セラフィエムスの花、ユウナも金細工で小さく添えられている。


 この金色の黃鉄鉱パイライトがインクルージョンとして入っているラピスラズリは、瑠璃石とも言われる。

 まるで小さく添えられている金色の黄槿ユウナの花びらが、青空に舞っているように見える。

 こんな綺麗な石、よく見つかったなぁ……


「リエルトンの近くで、いい鉱山が見つかってな。アリスタニア達に少々無理を言ってしまったが、素晴らしいものをみつけてくれた」

「……流石、なんでも揃えると豪語する皇国一の商港リエルトンですね。こんなに美しい石はなかなかありません……って、その最高峰をなんで俺にっ?」


 ふつーはレドヴィエート様の一歳のお誕生日なんだから、そっちの贈りものだよねっ?

 俺があたふたするとビィクティアムさんは、ふたりにはちゃんと別のものを用意しているよ、と言う。

 まぁ、そりゃ用意はしていると思いますけど、これほどのものなんてなかなか見つからないと思うんだが……


「式の時には、これを襟の左側に着けていてくれ。礼服はすぐに作り直すから、充月みつつきに入る前に渡せると思う」

「……はい。では遠慮なく、使わせていただきます」


 そして、父さんや母さんには既に『セラフィエムスの親戚枠』での参加についても許可をとってくださっているということで、相変わらず外堀から埋めていくのはお得意のご様子。


「だがなぁ……今回は、ちょっと交換条件……というか……」

「え、父さん達からですか?」


 なんて珍しい……

 何か見返りを求めるなんてこと、殆どないのにな、ふたり共。


「……婚姻式の映像を……家で見せろ、と……」


 あ、なるほどね。

 そりゃ、親戚のおじさんおばさんポジの父さん達なら、家でゆっくり見たいだろう。

 聖教会での上映は決まっていたけど、家だと……思いっきり冷やかせるもんなぁ。

 いや、父さん達ボロ泣きしちゃうだろうし、何度も見たいからってことかもしれないよね。


 うん、それはしょうがないと思うな。

 教え子の結婚式なんて、感動イベントだもんなぁ。

 何度も何度もリピートして、好きなシーンを見せて差し上げましょう!

 編集に気合いが入るねっ!


 今から耳まで真っ赤にしちゃって……そんなに照れくさいんですかねぇ、ビィクティアムさんは。

 映像は、セラフィラントとロンデェエストの全ての教会で上映予定なんで、大ヒット間違いなしのロードショーですよ?

 恥ずかしがってちゃ、完全開示のセラフィエムスの名が廃るというものです。


 レティ様にデレるビィクティアムさんが見られるのは、俺もすっげーー楽しみですしねっ!

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