第913話 祠の部屋の方陣
ニファレントのことは、取り敢えず棚上げしておこう……考えたところで、まだまだ結論は出ないのだから。
今は、この紅花畑地下の祠をよく検証……あれれ?
「こっちの壁に……方陣がありますね」
俺の呟きに、ビィクティアムさんと中へ入ってきていたゼオルさんが振り向く。
どうやら移動するための方陣のようだから、触れないようにして……
「移動用……つまり、ここはこの方陣で出入りする場所だったということか」
「そのようですよ、ビィクティアムさん。何処に繋がっているか解るかもしれないんで、
方陣は石板と同じ神約文字。
行き先は……『源の入口』?
えー?
どこぉ?
おおっと、取り敢えず危ないから発動魔力量少なめタイプへの描き替えをしてしまいましょうか。
だけどこれも『条件付き発動方陣』だから……その条件を満たしていない人は移動できないってことだね。
条件は『……から星の加護を得ている』肝心の部分に皇国現代語の訳が出ないということは、現在の皇国語では『表されるものがない』ということか。
いや、固有名詞か?
日本語表記だと……んー……『刻まれた繋伝』……?
なんじゃ、それ?
ビィクティアムさんに言ってみたものの、思いっきり首を傾げられただけだったので皇国にはやはりそう言われるものがなくて、言葉自体もないということだ。
その意味を持つものの名前ってこともあるよなー。
だけど、ニファレントが空の帝国だとすると、方陣という形式にもちょっと違和感があるんだよ。
方陣というのは『空系』に強いとは言い難い。
創ったのは間違いなく『地系』の人々で『空系』の魔法の一部を使うために創ったものだ。
あ、そーか、一概に遠いとは言えないか。
地上に降りてきたニファレントの人達が、自分達の『空系』の魔法を『地系』の人達も使えるように皇国の人達と一緒に工夫したものが方陣ってこともあるんだ。
それならば方陣形式だと『空系』の魔法の一部しか使えないというのも納得か。
うーむ、ひとつ何かが見つかると考え方をガツッと修正していかないとならないから、思考の柔軟性がより一層大切になるなぁ。
「タクト、その方陣……魔力を入れられないか?」
「え、結構危険かもしれないですよっ?」
「発動できるかどうか解らんだろう? それに俺達が、移動の条件が当てはまっているとは限らないのだし」
こそこそっと俺に耳打ちをしてくるということは、ゼオルさんに聞かれれば絶対に止められると解っているってことですよね、ビィクティアムさん。
今、俺が方陣を整備したから魔力量としては大丈夫だと思うけど、もしうっかり発動してしまっても『源の入口』とやらがどこかは……
すると、ビィクティアムさんは移動の方陣鋼をちらりと見せてくる。
あー……そっか。
碧の森の中であるここは『シュリィイーレ外壁の外』つまり、領域結界の外だからシュリィイーレの外側にあると思われる『源の入口』は移動できると踏んでいる訳か。
確かにこの方陣はセラフィエムスの書庫にあった、あのレクサナ湖拝殿聖廟への移動用方陣と凄くよく似ている。
ビィクティアムさんは……この方陣が示す『源の入口』を、他の祠へ続く方陣がある場所かもしれないと考えたのかな?
しまった、そう思ったら俺も行ってみたくなっちゃったじゃないか。
……やってみちゃいます?
俺達ふたりはこそこそっと、方陣を隠すようにゼオルさんに背を向ける。
それから勿論、移動の目標鋼をセット……これは保険。
移動先がヤバかったら、即刻ここに戻れるようにしておかねば。
それから自分の魔力ではなくて、魔効素変換で方陣に魔力が入るように……はい、パツパツになりましたので触るだけで発動しちゃうかなー……?
「長官、タクトくんっ、ふたりでコソコソ何をやっているんですっ?」
肩にかけられたゼオルさんの手と声に、びくっとしてしまった俺とビィクティアムさんが思わず壁に触れた。
いや、方陣には触っていない。
だが……俺達の自然放出魔力か、それとも岩壁を伝って魔力が入ってしまったのか、方陣が鈍く輝き……次の瞬間、俺達『ふたり』は真っ暗な場所へと移動してしまった。
すぐにビィクティアムさんが【採光魔法】で周囲を明るくし、そこが洞窟のような岩壁に囲まれた場所と解る。
うわぁぁぁぁ、なんでーー?
てか、めっちゃ既視感……レクサナ湖拝殿聖廟への移動を思い出してしまった。
「うわ、ゼオル、そんなでかい声を出すな! 大丈夫だ、俺もタクトも」
衛兵隊の通信システムが使えている。
皇国内であることは、間違いないということだな。
ビィクティアムさんがゼオルさんと話しているうちに、周囲を確認。
俺は、もしかしたらガイエスと入った洞窟とか、南の森の祠近くに飛ばされるのではと思ったが、ここは……違う。
だけどもの凄く、もの凄ーーーーく知っている場所なのだ。
転がっている『黄色い文字の書かれた石』……ちょっと湿った足元、そして扉のような岩壁。
ここって、あのルビー部屋に続く、水源の滝の裏っ側じゃないかーー!
あの時はルビーの光で導かれるままに入っていったから、その他のものの存在なんて気にもしていなかった。
だけど、俺が入っていったルビー部屋に続く道は、転移用の石を置いた近くだったはずだが少しばかりの窪みがあるだけで入ることはできない。
この先も、うっかり発動させてしまった『罠』に阻まれているし、途中も壁のような扉が閉められているはず。
「タクト」
「は、はいっ?」
転移用の石を拾い上げて隠した俺が挙動不審だったのを、ビィクティアムさんは『突然のことに怖がっている』と思ってくれたみたいだ。
頭を軽くぽんぽんと叩き、大丈夫だよ、と笑顔を見せてくれる。
……す、すいません……
「どうも、ゼオル達が何度かあの方陣に触れているようだが、魔力すら入れ込めないらしい」
「あ、そういえば、ゼオルさんが俺の肩に触れていたはずなんですけど……一緒に移動してませんね……」
俺とビィクティアムさん、どうしてあの条件設定をクリアしていたんだ?
ゼオルさんと違っていたことって何?
聖魔法……ってだけじゃないような書き方だったよね、あれって。
「条件だった『刻まれた繋伝からの星の加護』……って、もしや【星青魔法】のことか?」
ビィクティアムさんの言葉に、そうかもしれません、と頷いた。
だけど……もしかしたら、そっちじゃないかもしれない、とも思っている。
もうひとつの共通点、刻まれた繋伝というのは『石板から受け取ったもの』という意味ではないか、と。
あの三角錐の石板から、俺もビィクティアムさんも神斎術を受け取っている。
だとすると、それを持っていない者ではここに入れないから……あのルビーのような仕掛けを態々作って、この中へ導いたのだろう。
そしてここで余分なことをさせないために、ルビーの光で道案内をしたのかもしれない。
だってここの壁には、五つの移動用方陣が描かれているんだから。
ビィクティアムさんには視えていないと思うけど、これって言っておくべきだよなー。
だが、俺が『かつてここに来たことがある』とか『ここが水源の奥』ってことは……絶対に、言わない方がよさそう。
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