第911話 血統の繋がり
そのままふたりを引っ張って、応接室で本と訳文を拝見しましょうっ!
ここが一番安全だからな……あ、鍵は閉めておかなくちゃ。
「拝見しても、よろしいでしょうかっ」
「そんなに身構えないでよ、タクトくん」
何を仰有る、ショウリョウさん!
構えますって!
今まで見つけられなかった扉が、見つかったかもしれないのですよっ!
渡された『原本』は、もの凄く良い状態だ。
どうやら俺の所に本を送る時に、別邸にしまわれていて手元になかったものだったらしい。
複製を作る許可をいただけたので、早速作った複製の方で読ませてもらいますと……ふおおおっ?
うわー、しっかり書かれているじゃーん……
開いたページから『ニファレントに仇なす魔鳥を退けるレイエルス……』という記載が、目に飛び込んできた。
これ、訳せているのかな?
「俺達が訳したものはこっちなんだけど……まだ、全文ではないんだ」
「今まで君が訳してくれた神約文字と、同じ並びのものを引っ張り出すだけで随分かかったし、全ては載っていなかったから」
お預かりした訳文は樅樹紙のノートに書かれている『下書き』と、それを清書している羊皮紙のもの。
書かれてます……ね。
レイエルスがニファレントの家門である……と書かれているページ、しっかり正しく訳されておりますねぇ。
ということは、レイエルスの皆さんは既に自分達の
「訳されている部分は……ほぼ、この通りですね」
「……では、レイエルスは、やはり」
「はい。間違いないと思います。どう、なさるのですか? 発表なさると?」
この本を完訳できれば、確かに証拠のひとつにはなるだろうけど『レイエルス家門の中』にあったものだ。
そのことも考慮するとこの一点だけでは、客観的な証明がされているとは言い難い。
まだ神約文字が書かれて理解されていた時代のものというだけで、それが真実であると証明されてはいないのだから。
「発表はしません。あなたが仰有ったように……亡国ですからね。あまりに証拠となる裏付けが乏しい」
「それは、皆様の総意なのでしょうか?」
「現時点では。このことを知っているのは俺の父と、トアンの父君、レイエルス神司祭、それとあとふたりの『天水』の保持者だけですから」
ショウリョウさんの父君であるレイエルス・ガンオーロ侯とその弟であるレイエルス・セッカ神司祭。トアンさんの父君は確か、クリエーデンス支持のレイエルス侯のもうひとりの弟君、レイエルス・ジョーゲン様だ。
えーと、ジョーゲン様は、ガンオーロ侯の異母弟……だったはず。
その他ふたりの【天水魔法】保持者は、どなただろうか。
「よくご存じですね」
「一度、レイエルス神司祭に伺ったことがあるのですよ。本を送ってくださった時に、ジョーゲン様も連名でのお手紙をいただいていたので」
レイエルスの方々はとても礼儀正しい方が多いようで、お手紙を各家門の方々がくださっていたのだ。
勿論、俺からは御礼状を訳文と一緒にお送りしている。
「でしたら、テルウェスト神司祭も俺達の
「えっ? それは……知りませんでした」
テルウェスト神司祭の父君がレイエルス家門で、母君がテルウェスト家門らしい。
そっか、テルウェスト神司祭はテルウェスト・アシュレィル公の異父兄ってことかぁ。
あれ?
テルウェストは、割とレイエルスと関係が深いのかな?
アシュレィル様の夫の中にもひとり……レイエルスの方がいらしたはずだ。
レイエルスの相関図も、なかなか複雑だなー。
「……確かに亡国ではあるが、我々の『根源』を知ることは、非常に重要だと思っています。ですから、これからも証拠となるものを探していくつもりですよ」
「そうですね。見つかりましたら、俺もレイエルス神司祭やおふたりに必ずお知らせ致します。焦らずに、引き続き確認を続けましょう」
ふたりは強く頷いて、この本の続きの訳文を依頼してくれた。
そして更に四枚の羊皮紙をトアンさんが取り出す。
「以前タクトくんが『本の表紙の中』に隠されていたものを、みつけてくれただろう? それと同じ方法で『現代文の本』の表紙に細工されて隠されていたものなんだ」
まだあったのか。
だが、ものによっては既に色墨が見えなくなってしまって文字がよく解らない。
「復元してもよろしいですか?」
「是非ともお願いしたい」
あ。
これ……あの石板の……白森の洞窟から出てきた石板にあった一文と同じ……!
えええーーーっ?
じゃ、あの洞窟の……掘り出したら、レイエルスのこと解られちゃう?
だけど、もう頼んじゃったしーーっ!
うわーーっ!
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