第909話 みんなで実験しよう!
さてさてー最近ちょっと考えすぎで頭がパンク寸前なので、楽しく過ごして一旦リセット致しましょーっ!
ということでー、本日はショウリョウさんトアンさんをお招きしての『お子様実験教室』ですー!
アリスタニアさんが素敵な鉱石を送ってくださったので、それを使ってみんなに『鉱石や金属って面白い』って思って欲しいんだよね。
楽しく実験して身近に感じることは、魔法や技能獲得の予兆と経験になるのだから。
この鉱石を手に入れた時に遊文館にはお知らせポスターを出しておいたので、お子様達は既に遊文館に集合してくれている。
……いっぱいいるね。
大丈夫、大丈夫!
予想の範囲内ですよっ!
今回は『子供と一緒』ならOKということで、保護者の方々も同席していただいております。
ちょっとだけ危険がある実験なので、ちっちゃい子達は保護者同伴ですしね。
「今回はみんなで『実験』をして、金属というものの面白さを知って欲しいと思っています。少しだけ熱かったりするから、気を付けて実験しようねー」
はーーーーいっ!
おお、みんな元気でよいお返事ですよー。
大人の人達の声も聞こえた気がしたけど、そこはスルー。
子供達ひとりひとりに実験に必要な『蓋付きコップ』と道具を渡す。
本当は蓋はなくてもいいんだけど、ある方が危なくないしワクワク感増幅にも蓋を閉めた方がいいかなーって。
温度調節をする魔法にも、蓋があった方が均一に魔力が入るし。
「アニキ、これ何か入っているんですか?」
……オーデルト以外の年長組も、すっかり俺を『アニキ呼び』するのが定着してしまった……
あっ、ショウリョウさんっ、笑わないで!
もう仕方ないので、否定も訂正もしないが……照れくさいんだよなぁ。
「いや、まだ何も入っていないよ。これから入れるから、蓋を開けて待ってて」
「たくとにーちゃん、じっけんってなーにー?」
「みんなで同じことをやって、どうなるか確かめるんだよ。試してみると、いろいろなことが解るからね」
「じつえんっ?」
「あー……うん、ちょっと似てる……かな?」
子供達がめちゃくちゃ楽しそうで、ぴょこぴょこ飛び跳ねている子もいる。
そっか、実験っていうものは馴染みがないけど、実演は毎年二回以上やっているからそれを自分達でできるってことで楽しいのかな?
これからもみんなに楽しんでもらえるような実験や実演、ワークショップとして考えていこう。
まずは、俺が見本としてご覧にいれましょう。
「今回使うのは、セラフィラントで採れた鉱石から取り出したこの金属です。これを……熱ーーくして溶かします」
熱系の魔法で解かした金属が、どろどろになってステンレス製のバケツの中に入っている。
バケツは周りが熱くならないように断熱構造にしてあるので、危なくはないが……中のどろどろは表面が酸化して膜ができるので、取り除きながら冷やしていくのだ。
まだ表面がふるふるっとしている時に、長目のステンレス棒で先端がネジになっているものを表面から一センチくらいに差し込む。
子供達の視線は、どろどろの金属の表面が映し出されている映像に釘付けである。
近くにいる子達は実物が見られるけど、後ろの方の子達は見づらいからね。
本当は冷やすためにある程度の時間が必要なのだが、時間系の魔法を付与してあるので時短しつつも効果が変わらないように調整してある。
「さて、これが冷えると、どうなると思う?」
「溶けてるのが固まる?」
「そうだよ、アルテナちゃん。じゃあ、どんな風に固まるかな? 」
「溶かしたのが、銀色っぽかったから……棒の形で銀色になるっ!」
「よーし、じゃあエゼルの言った通りになっているか、取り出して確かめてみよう」
ゆっくりと棒を引き抜くと、現れたその結晶には子供達だけでなく大人達も感嘆の声を上げる。
溶けた金属からは信じられないような規則的な形で固まり、虹色に輝く結晶……
そう、今回の実験で作ったのは『ビスマス結晶』である。
「これは、セラフィラントでとれた『
「……なんでっ? なんでこんな形になるのっ!」
「初めて見た……綺麗ーっ!」
溶かしたものが冷え固まると自然とこのように美しい形と色になる、初めて見る人達にとっては驚きの金属である。
必ずその形や色になるというものではないけど、この『骸晶』の色とか形は唯一無二なので是非とも楽しんでもらいたい。
「これは、素晴らしいな……こんな風に固まるなんて予想外だったし、なんて美しいんだろう」
「そうだね、トアン……吃驚したよ。タクトくん、これって装飾品として使うのかい?」
「それでもいいんですけど……実はこの状態『
お、大人達がざわっとしましたね。
この蒼鉛鉱は錆山ではあまり採れないが、碧の森では採れる場所がある。
だが、今まで『使い道がない』として殆ど採られていないものだ。
まぁ……今回使ったセラフィラントのものより混ざりものが多いというせいもあるのだが、上手いこと取り出して加工できたら『人工魔石』としてかなり優秀であろう。
「よーし、それじゃあ、みんなに配った『
ちっこいお子様達には大人がサポートしてくれているので、大丈夫かな。
器の中には目盛があるので、その位置まで溶かした液を次々に注いでいく、
動かしたりしないでねと注意をしつつ全員に注ぎ終わったら、器にかけてある付与を一部解除して温度が変化していくように。
「あ、うえのほう、つやってしてきたっ!」
「
「では、用意している突き匙型のへらを使って、さっき見たようにどろどろの表面を静かーーーーに
慎重に、そーっとね……みんなの所を回りつつ、上手く酸化膜がとれているか確認する。
おお、みんな上手だぞ。
倒して零す子はいなかったが、勿論そんなアクシデントがあっても大丈夫。
倒れても中身が溢れないように、器の縁に境界を作る魔法を付与してありますからね。
「取り終わったら蓋を閉めて、蓋の上に開いてる穴に尖っている方から棒を差し込んでくださーい」
ショウリョウさんが、すっごい真剣だ……隣に座っているルエルスと同じ表情で……笑いそうになってしまった。
全員の蓋が閉まったところで、魔法といえど少し時間を置かねばならないので『蒼鉛』についての説明を致しましょう。
蒼鉛鉱と呼ばれる鉱石から取り出せる
熱で溶かして冷やし固めると、まるでピラミッドをひっくり返して中から作ったような階段状の結晶ができる。
この『人が整えたかのような四角形』の段々構造は、粒子が『成長しやすい方向』にくっついていった結果なのである。
角の部分……『稜』と呼ばれる箇所は粒子がくっつきやすく成長が早くて、面となる部分の成長が遅いので角張った階段状になってしまうというものだ。
反磁性であり熱伝導率もよくはないのだが、常温で安定するしこのように純粋な結晶として整うことで魔力が金属全体に均一に留めやすく、骸晶の性質なのか一方向に流れて長期間少しずつの放出がされるようになるため『人工魔石』として優秀なのである。
碧の森ではセラフィラントのように『自然蒼鉛』としての産出はないが、硫化鉱物の『輝蒼鉛鉱』として見つかることがある。
黄銅への添加剤としても、カタエレリエラの『幻の木』銘印の工房の真鍮に使われていたんだよね。
今はないという『樹海の工房』製では、何種類もの配合で真鍮が作られていたから他にも色々あるんだろうなぁ。
ビスマスは超伝導体になるから、その特性を使って何か作ったらまた新しいことが解るかもしれない。
ま、流石にリニアモーターカーは作らないけど……似たようなものは作れるかなー。
「そろそろいいかなー。じゃあ、みんなー、気を付けながら蓋を開けてみてねー。蓋を開けると一緒に差し込んだ棒も上がってくるから、なるべく真っ直ぐ上に上げてー」
棒が下まで落ちないように、途中で止まるストッパーが付いていたからね。
そうそう、上手いぞ、みんなー。
「うわ……!」
「あーーっ、できたーーっ!」
「かくかくしてるっ!」
「かっこいーっ! かっこいーーいっ!」
「綺麗……っ!」
「いろんな色になってるの、どうして?」
お、概ね成功ですかね。
だが中には、ちょこっとしょんぼりな子達もいるぞ。
「アニキ……俺の、色が地味……」
「あたしもー」
「青だけになってるーー」
みんな、形はまずまずのものができたが、やっぱり色味については随分とばらけているね。
ハイハイ、まーかせてー。
「では、色を少し変える実験をしようか!」
「できるのかい?」
「お、トアンさんのも殆ど色が付いていないですね」
大丈夫ですよー。
ビスマスの色は酸化膜の厚みで決まるのでだから、膜を作り直せばいいのです。
まずは希塩酸液に浸けて、膜をとっちゃう……おおおー、これはかなり格好いい燦めきのメタリックシルバーに。
一瞬、この色でもいいという声が聞こえましたが、敢えてスルーしますよ。
色をつける方法……それは『電気』を使うのでございます。
陽極酸化っていうものですな。
アルミの表面加工でよく使われる、結構ポピュラーな加工方法ですよ。
まー、そんなことまでは今は説明しないけど、俺の
「雷光……で?」
「はい。弱ーーーい雷のことを『電気』というのですが、それは陽極と陰極というものに分けられるのです。そして、流れる方向が決まっていて、陽極の方にこの蒼鉛骸晶を、そしてもうひとつの陰極には、電気が通りやすいもの……今回は炭の棒を。で、この中は枸櫞の粉を溶いた水。陰極の方を水に入れてから……陽極の蒼鉛骸晶を入れていくと……」
陰極の炭に近い方からカラフルな色が付いてくる。
ほっほっほっ、皆さんの吃驚顔とお子様達のキラキラ笑顔が眩しいですねー。
電圧を変えたり、浸ける時間を変えることで様々な色味にできるのです。
「はい、みんな『世界でひとつだけ』の蒼鉛骸晶ができたと思うので『強化の方陣』で壊れなくしてから、この『飾り鎖』を付けてみよう。鞄とか腰帯に提げられるようになるぞー」
ビスマス結晶のチャーム作り実験、大成功ですねっ!
残ったビスマスは、また再利用しよーっと。
俺が後片付けをしていると、トアンさんがこそっと声をかけてきた。
「……タクトくん、この蒼鉛骸晶の性質とかは……賢魔器具統括管理省院に言っておく方がいいんじゃないのか?」
「え? そんなに珍しくはない金属だから、中央省院では知られているんじゃないんですか?」
トアンさんとショウリョウさんに、思いっきり首を横に振られてしまった。
そっかー、じゃあ……今度作る『子供向け楽しい実験の本』に入れるつもりだったけど、これだけ先にティエルロードさんに届けておくかー。
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次話の更新は10/21(月)8:00の予定です
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