第903話 予想通り?

 翌朝、蓄音器体操に遅れたのは、俺ではなくてお子様達だった。

 どうやら昨日、はしゃぎ過ぎて興奮しちゃったせいで、なかなか寝付けなくて寝坊したらしい。


 逆にアフェルやミシェリーは、朝から張り切った分夕方に一度寝落ちてしまい、本来眠る時間に目が冴えていたようだった。

 やれやれ……みんな張り切り過ぎちゃったんだねぇ。


 俺は朝食後、ガイエスが泊まっているルトアルトさんの宿へと移動。

 ちょっと早かったかなーと思ったが、ガイエスはカバロのお世話で早起きをしていたもよう。


 ヒヒン、ヒン、ヒヒン!


 わーい、カバロー!

 久し振りーー!

 ガイエスにお世話してもらってご機嫌だねー。



「えーと、まずは昨日はありがとうな」

「いや、昨日はスゲー沢山ご馳走が並んで、俺としても旨くて嬉しかったし。凄かったなー、子供達」


 ガイエスの部屋で持ってきたミルクたっぷりの珈琲を飲みつつ、まずはガイエス名義での契約になっていた契約書簡の複製を作らせてもらったからと、オリジナルをご返却。

 メモに『複製を作ったら戻してくれ』って書かれていたからね。


 その後で、昨日送ってくれたプレゼントの件を少し話した。

 まぁ、昨夜はワクワクで読んだり解析しようとしていたら『絶対に駄目!』と止められてしまい、何もできなかったっていうお詫びなんだけどね……

 ちょっとだけ、ガイエスに困ったような顔をされてしまった。


「あ、そうだ、これからも色々手に入るかもしれないからさ、ちょっと大きめの保存袋が欲しいんだよ。本とか石板はひとつずつ入れたいんだけど、厚みがあるから入らなそうなのもあるんだよ」


 話題を変えようとしてか、ガイエスからリクエスト。

 あの契約の件で手に入るかもしれない『文字の書かれたもの』か。

 そうだよな、古いものだろうし持ち上げて壊れたら『その場の全部』を入れられる袋は欲しいよな。


「それはすぐにでも……てか、凄いなぁ、ガイエス。ヘストレスティア冒険者組合とあんな契約できるなんて」


 つーかね、今後全てってのもそうだけど『何においても優先』……だとは思っていなかったんだよね。

 普通なら優先とはいっても、迷宮品なんだし持って来た人に権利がある訳じゃん?


 その人の販売したい先がないとか、オークションがあってもそれで折り合いがつかなかった『買い手が見つからなかったもの』だけを優先的に……だと、勝手に思っていたんだよねー。


 契約書にはそうとは書いていなかったけど、それがルールだと思い込んでいたんだよ……だけど、発掘品を査定する段階で文字の書かれているものは『オークション挟まずにガイエスにまず連絡が来る』システムだったみたい。


 契約書、あの時クルクル回っていたせいで読み飛ばしていたのかと思ったけど、後から追加項目で入っていたから本契約の時に話し合って決められたのだろう……

 本の定義を書き加えてもらう時に、一緒に決まったんだろうなー。


 そんな契約、取れるなんて思わないでしょ、普通。

 しかも無期限だよ?

 ガイエスが生きている限り有効な契約なんて『そーいうことしちゃっていいのかよ冒険者組合?』って吃驚するでしょ。


「おまえが『個人契約』してくれたからさ、折角ならおまえが面白がるものが手に入る方がいいだろう?」


 なんかもう、こんな風にサラッと言われちゃうと、大したことない普通の商取引なのかもなーなんて錯覚する。

 本当にありがとう……これから一生、楽しみにさせていただきます。


 今後、何か必要なものが出てくるかもしれないと思い、ガイエスに確認しておこうかと尋ねた。


「……他に欲しいものあるか?」

「テトールス達が持っている『軽量化折りたたみ箱』が幾つかあると嬉しい……かな? あ、買うからな!」

「いいよ、沢山あるし。どうせ、俺に渡すもの用なんだろう?」

「ま、そうだけど」


 そうだ、と突然ガイエスが『今までの魔石の代金』とか言って、どかっ、と大金貨を渡してきやがった。

 俺から渡している魔石は、俺が撮影を頼んだりしていて魔力を使うからであって、売り物じゃないしお金をもらうつもりはないよ、と言ってお返しした。

 だが、錆山産の魔石はかなり質がいいらしく、普通の魔石よりは絶対に高価なものなんだから、と唇を尖らせる。


「じゃあ、磨いて何度も使ってくれればいいし、使い終わったら俺に戻してくれたら別のものに使ったりすっから」

「……解ったよ。磨き粉……買っておくか……」

「あ、おまえに渡した石は削ったりしない方がいいから、細かい粒の磨き粉か革で磨く方がいいぞ」


 俺のはカットをしっかり整えているから、魔石として魔力が取り出しやすいけど勝手に漏れ出さないようにしてあるんだよ。

 いびつだったり、大きめの内包物があると魔力の対流を阻害するんだよね。


 俺としては当初、綺麗だからという理由で宝石のようにカットしていただけだったんだが、そんな素敵な効果も判りましてね。

 神眼さんか神星眼さんかは解らないが、レベルアップしているに違いない……

 ああああ、怖くて身分証がどんどん見られなくなるーー。


「……それで使いやすいのか」


 ぼそっと言ったガイエスの言葉に、色以外で使いにくい魔石もあるのかと聞くと最近赤い石をいろいろな種類で買ったが使い勝手にばらつきがあったらしい。

 その結果、使いやすかったものは柘榴石ガーネット赤碧玉レッドジャスパーというのは変わらなかったようだ。


 だが、俺が渡したものは石の種類に関わらず、使い勝手がいいからどうしてだろうと考えていたという。

 うんうん、そうやって疑問を持つところからステップアップが始まるのだ。

 という訳で、磨き方や石ごとにどんなもので磨くといいのかをレクチャーしていたところに来客があった。


「あれ? ダリューさん?」


 ガイエスが開いた扉から見えた衛兵隊の制服に、思わず俺が名前を呼ぶとダリューさんは『丁度よかった』とニヨヨっと笑う。

 ……うわー……なーんか、こわーい……



 予想通りというか、ビィクティアムさんの所に集合することとなりました。

 でも、まずはガイエスだけ……という話になったので、やっぱり商取引関連か、冒険者組合とのことの確認かもしれない。


 ……俺が呼ばれたのはきっと、先日の南の森への外出の件……だろーなぁ。

 おそらく尾行がついていて、見失っちゃったから何処に行ったかの確認だと思うんだよね。


 ま、言うつもりだったからいいんだけど、先にガイエスがそのことで詰められちゃっていないといいなぁ。

 あいつ、嘘が吐けないタイプだし……いや、ビィクティアムさんには……嘘が吐ける人であっても喋っちゃうか。


 だが、思っていたよりすぐに俺も長官執務室に呼ばれ、ガイエスの隣に座らされた。

 ガイエスは、そんなにドキドキしているような、焦った感じがなかったのでまだ何も尋ねられていなかったのかも。

 ビィクティアムさんが俺達の前に座り、にっこりと微笑むのでつられて俺達もにこっと返す。


「で?」

「「……」」

「言うべきことがあるよな?」


 笑顔が一番圧があるんだよなぁ……ビィクティアムさんって……

 ここでこちらから『このことですよね』と提示してまで、言い訳をしてはいけない。

 あくまでも『なんのことでございましょうか?』というスタンスで、聞かれたことに応えればいいのだ。

 頑張れ、俺のメンタル!


 ……あれれ?

 ガイエス?

 ガイエスくんっ?

 表情が『きゅーーん』って感じになってきてるよっ!

 頑張れっ!


*******

『緑炎の方陣魔剣士・続』陸68話とリンクしています

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