第902話 おたからいっぱい
お祝いモードは夕食前まで続き、何人もの人達が俺達に記章を持ってきてくれた。
コレクションブックはトータルで四冊にもなってしまった……嬉しくて抱いて寝たいくらいだ。
トアンさんとショウリョウさんまでが、記章を手に訪ねてきてくれたのには本気で驚いてしまった。
そして、なんだか父さんやラドーレクさんとも肩を組んで話をしている……
あっ!
そーか、昨日ふたりが来た時にそそくさと工房に入ったのって、そもそもこの計画を話していたから、俺にばれないように接触を避けていたのか!
ふたりからのプレゼントはしっかりと年月日の刻印された『記章』だったから、この間シュリィイーレに来た時に既にこのことを話していたのか?
「うん、君の生誕日が今日だということを聞いてね」
「だけど記章を贈るってことは、先日、君の父君から教えてもらった。それで、折角だからコルラソーナ山脈で採れた『
楔石、スフェーン、チタナイトとも呼ばれるこの石は、ダイヤより煌めくホログラムのような複雑な光を反射する石だ。
俺が『
それを……直径で十五ミリ以上のものがふたつもだなんて……!
魔石としても最高級品だし、レイエルス家門のふたりの手作りなんて、宝具登録待ったなしだろうが!
暫くすると『ここからは家族で』と、皆さんはおうちに戻っていった。
ガイエスも、持ってきた祝いの品は『転送の方陣』で送ったから、明日にでも見てくれと、さらっと言って宿に戻ってしまった。
ありがとーーーなぁーーー!
明日、もう一度宿までお礼に行こう。
朝からあんなに沢山食べものがあったのだが、ろくに食べられていなかった。
俺もビィクティアムさんも、お礼を言ったり感激して泣き出したりしていたせいなんだが。
夕食は『家族で祝う時間』だ。
今回は、ファロアーナちゃんも初参加ですよ。
お子様用の安全ベルト付きシートを、食べさせやすいように斜めにずらしたり回転できるようにしてあるのだ。
久々にビィクティアムさんも一緒なので、ここでもダブルバースデイである。
……ファロアーナちゃんが凄くご機嫌なのは、ビィクティアムさんが正面だからだろうか……
ビィクティアムさんと俺は『千年筆交換』……これも、なんだか恒例になりつつある。
メイリーンさんからは革製の記章と、革製の手帳カバー。
勿論、愛情たっぷりお手製品……大事に使います、ありがとうっ!
記章、あのコレクションブックにしまえるようにだろうか、同じくらいのサイズだ……
そっか、メイリーンさんも子供達の計画を知っていたんだな。
「ごめんね、昼間は来られなくって……」
そんなことありませんんんんっ!
こうして今隣にいてくれるだけで嬉しいですっ!
そしてなんと『家族から』の記章がまとめて飾っておける硝子ケースも!
中には父さんと母さん、ライリクスさんとマリティエラさんからの物も入れられている。
……ここに、メイリーンさんからの記章を入れられるスペースもある……
やべー、また泣く。
「お兄さまのはこっちよ」
「え、俺にもか?」
「あたりめーだろーがっ!」
マリティエラさんから差し出された、俺とお揃いの硝子ケース……あれ?
なんだか真ん中にスペースが?
あ、俺のも?
「ほら、ふたり共お互いには千年筆を贈るって聞いていたから」
「そうよ、お兄さまがさっきタクトくんから貰ったもの、ここに留められるのよ」
ケースの蓋を開けると、真ん中にふたつの留め具があり、千年筆を固定できるようになっていた。
これ、泣かないでいる方が無理だって。
ビィクティアムさんなんてウルウル瞳で凝視したまま動かないし、俺も唇がもにもにしちゃって喋れない……口を開いたら目から汁が溢れるこのシステム、どうにかして……
なんとか大号泣を押さえ込んだあと、父さんとライリクスさんから『新しい文机もあるぞ』と更なるプレゼントが!
嬉しいーーっ!
今までのも気に入ってはいたんだけど、引き出しが浅くってさー。
今度のは三段引き出しの袖机付き!
入れ替え作業をしようという時に、ガイエスからの『誕プレ箱』が届いていた。
「ほう、あいつ、タクトの生誕日だからシュリィイーレに来たのか」
「そうだと思うぞ。昨日もちらっと、そんなこと言っとったからなー」
そうか、あいつが工房に行った時に話していたんだな。
「ガイエスくん、長官の生誕日も知っていたんですかね? 記章、受け取られてましたよね?」
「いいや、知らなかったみたいだ。あいつは『セレステで作ってもらった徽章だ』って言ってたから」
「そりゃそうよね。流石に『記章を贈る』なんてことまで、先に報せておけないでしょ?」
「じゃあ、偶々持っていたってことですか。しかも、セレステの魔導船徽章なんて、まるで計ったかのようで驚きましたよ」
ガイエスってなんていうか、タイミングがいいんだよなー。
で、皆さんがガイエスからの贈り物に興味津々になってしまったので、開けちゃおーかという話になりました。
贈り物というにはぶっきらぼうな木箱の中には、メモ紙が一枚……あ?
ああーーーっ?
なんつーとんでもねぇもん、誕プレにしてんだよ、あいつぅぅぅーーっ!
「なんですか、タクトくん?」
「そんなに驚くようなものなのか?」
覗き込んでくるライリクスさんとビィクティアムさんに、俺は箱を斜めにして中身を見せる。
「……驚きますよ、そりゃあ……ヘストレスティアの冒険者組合で『この二百年間引き取り手のなかった文字の書かれているもの』の詰め合わせですから……」
全員が一様に『は?』という顔で固まる。
当然だろう。
「ヘストレスティア冒険者組合……というと、迷宮品か」
「そう、でしょうね。ガイエスくんならでは……ですねぇ」
「し、しかも、二百年間って、ヘストレスティア建国の頃からということよね?」
「うわー……凄いね……やっぱり、タクトくんのお友達だけはあるね……あ、本もあるよ?」
メイリーンさんが指差した本や石板は破損防止か、ガイエスに渡していた保存袋に入れられている。
チラッと見た限り、皇国現代文字もあれば、古代文字もあるがいくつかのものは『ディエルティのもの』と思えるあの文字だ。
ヘストール語もあるなぁ……うわー、うわー、うわー!
「道具類もありますね」
「お、こりゃ、日数計か? こっちは……ん? なんだ? 魔力が全くなくなっちまっているが……重量計? 掛け金があるが、動かねぇな」
「あら、これは水を計るものかねぇ? タクトが前に作った『計量瓶』に似ているね」
母さんが似ていると言った、俺の作ったものとはビーカーのことである。
こちらの方が細く縦長なので、どっちかというと『太めのメスシリンダー』みたいだ。
目盛の文字……確かに数字なんだけど、皇国文字ではない……くっそー、面白過ぎるもん贈って来やがってーー!
楽しくなっちゃって堪んねーじゃねーか!
「タクトくん、こっちの袋の中は?」
「硝子、だけど丸ってことでもないし……なんだろう?」
軽量化トートバッグいっぱいに入っていたのは、色々な形の硝子玉。
変形のビー玉みたいなのとか、
勾玉みたいなのもあるなぁ。
中に文字らしきものが入れ込まれていて、文字パズルみたいだけど……?
「おいおい、タクト! ガイエスのやつ凄いこと書いてきとるぞ!」
「え、なんて?」
父さんが見ていたのは、ガイエスがぺろっとそのまま入れていたメモ紙だ。
はじめの三行ほどで吃驚しちゃって、全部読んでいなかった。
覗き込んでいるビィクティアムさんは目を見開いたまま動けないでいるし、ライリクスさんは何度も瞬きを繰り返す。
ちょっと手が震えている父さんからそのメモを受け取って……四行目以降に視線を落とすと、みんなのリアクションに納得せざるを得なかった。
『……ヘストレスティア冒険者組合と文字の書かれている全てのものを『今後全て』優先的に売ってもらえる約束もした。タクトの代理人としての商取引契約だから、全部送る。代金は、買い取れるものだけでいいから』
慌てて箱の中をもう一度探ってみたら……無期限契約の書簡を発見。
……単発じゃなくって『今後全て』で無期限で……?
なんてとんでもない契約取ってきているんですか、うちのバイヤーさんはぁぁぁぁっ!
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『緑炎の方陣魔剣士・続』陸67話とリンクしています
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