第900話 HAPPY MORNING

 おはようございます。

 昨日絶対絶対遅刻しないでと言われてしまったこともあって、朝イチで蓄音器体操に参りました。

 いやー……最近、確かにちょっと夜更かし気味でしたからね。

 朔月さくつき前半は仕方ないんだよ、うん……


 それに今年はまだまだやりたいことが沢山あるし……などと思いつつ蓄音器の準備をしていたら、子供達が全員集まってきた。

 そして……なんと、物販スペースを通り抜けて、ガイエスまで!


「朝から……なんで?」

「ルエルス達に誘われた」


 ガイエスを案内してきたと思われるルエルスとバルテムスは、によによとしながら一緒にやろうよ、とガイエスの手を引く。

 そうか、自販機で何か買おうとしていたところをふたりに見つかったのか。

 ガイエスは子供達の側に混ざり、蓄音器体操第一、スタート!


 ♬


 はいー、すってー、はいてー、すってー、はくー……はいっ、お疲れ様でした!

 ガイエスがいちいち、アフェルとかリカルトールの動きを確認しながら体操しているのが面白かった。


 蓄音器を片付けていたら、バルテムスが走り寄ってきて俺の腕を引っ張る。

 アフェルもミシェリーもにっこにこで俺をグイグイと押して、しゃがんで、しゃがんで、と言うのでなんだろうかと思いつつ跪く。


「タクトにーちゃんっ、せいたんび、おめでとうっ!」


 あ。

 そうだった。

 今日、朔月さくつきの十七日だ。

 ガイエスもニヨニヨしてみんなの後ろにいるから、知っててここに来たのか。


 みんなからかけられるおめでとうの言葉が嬉しくて、胸の奥がきゅうっとなる。

 これは、まずい。

 相当嬉しい。

 油断すると、絶対に泣くぞ、俺。

 ああああ、教会の皆さんのこと、言えないよこれじゃ。


「お祝いの記章ですっ!」

「え?」


 ルエルスの言葉で顔を上げると、まずはミシェリーとリカルトールから折り紙で作った記章を胸に着けてくれた。

 花と星だろうか、ちゃんと皇紀年と今日の日付が入っている『記章』……俺のために作ってくれたプレゼントだ。


 ……お礼を言いたいのに、少しでも口を開くとでマジで泣きそうだ。

 そして、エレエーナ、バルテムス、アフェル、ルエルスからも手作りの記章が次々に俺の胸に着けられていく。


「おい、タクト、立てるか?」

「……ん……?」

「ほら、俺から、な。生誕日おめでとう。すまん、俺のは日付までは入っていない」


 ガイエスまでっ?

 着けられたのは『不銹鋼製の魔導船の徽章』だった。

 ふぉぉっ、これは格好いいぃぃっ!

 あ、お子様達が魔導船徽章に釘付けに……おめめがキラキラですなー。


「ま、まどうせんの、きしょう……!」

「すげーっ! かっこいーーっ!」

「これ、セラフィラントの? セラフィラントで作っているの?」

「あ、ああ、そうだよ。魔導船を作っているセレステで……作ってる」


 そうだったのか、流石セレステ……子供達が羨ましがるのも解るな。


「きれいーーっ!」

「いいなぁ、タクトにーちゃん……」

「タクト兄ちゃんは……生誕日だから、格好いい徽章も……もらえるんだよ」

「せいたんびは、いきててえらいっていう……ごほうびって、おとうさんもおかあさんも、ゆってた……」


 そんなに悔しそうにしないでくれよ、バルテムス、ルエルス……あ、エレエーナもそんなに思いっきり唇噛まないで!

 大人気だな、魔導船徽章……


 ガイエスがちょっと申し訳なさそうに、困ったような顔で俺を見る。

 どうしよーーって顔されてもなぁ……

 なんか、可笑しくなっちゃって、涙引っ込んじゃったよ。


 皇紀年、町暦年や日付などが入ってて『その時』を祝したり記念とするものは『記章』で、そのような文字の記入はなく褒賞などで贈られたり職位の証として着けられるものは『徽章』である。


 だから、子供達が今日この日を祝うために日付を入れてくれたものは『記章』で、ガイエスが贈ってくれた『生きててえらい』のご褒美には日付が入っていないから『徽章』なのだ。

 遊文館の読書感想文での景品も『徽章』なのは、ご褒美だからである。


「みんなが作ってくれた記章、綺麗で格好良くて可愛いよ! セレステのは……えーと、そうだ、遊文館の衛兵隊の人にさ『ご褒美の徽章にセレステの魔導船のが欲しい』って手紙を渡したら徽章を作ってくれる人に届けてくれるかもしれないよ?」


 俺の言葉に、みんなでお手紙作戦をすることが決まったようだ。

 よかった、なんとか収まって……

 するとガイエスが『すまん』と言いながら、耳打ちしてきた。


「本当は、おまえには別のもあるから、そっちは後で渡す。アフェルに『おくりものは、きしょうなんだよ』って言われたから……合わせただけなんだよ」


 なるほど、そう言うことだったんだな。

 じゃあ、ガイエスのものだったのかもしれないなぁ。

 俺が貰っちゃってよかったのかと聞くと、元々ひとつは渡すつもりだったからと言われた。

 ガイエスが戻る時に、この徽章を作ってくれた加工工房宛の『魔導船徽章作成依頼』を持っていってくれと頼み、了承してもらった。


 いやー、予想していなかったから不意打ちで、朝っぱらから泣き出す寸前だったよー。

 あぶねー、あぶねー。


「じゃ、朝食にしよう。みんなもおうちで沢山食べるんだぞー」

「「「「「「はーいっ!」」」」」」


 え?

 なんで、みんな家に戻らないの?

 えええー?

 今、凄くいいお返事したよねぇ?


「たくとにーちゃん、はやくーーっ!」


 俺の背中をガイエスが押す。

 ……なんだよ、なんかあるのかよ?

 俺、サプライズとか、苦手なんだけどっ?



*******

『緑炎の方陣魔剣士・続』陸65話とリンクしています

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