第899話 圧迫ディナー
夕食の支度に間に合い、なんとかメニューのリクエストができた。
厚切りイノブタのトンカツとしゃきしゃきキャベツ、根菜たっぷりのポテトサラダ。
ご希望の方には、ひと口サイズ揚げ鳥も追加できますよ。
なんだかガイエスが、ちょっと疲れている気がする?
そうか、映像を見るって慣れない人だと、結構疲れちゃうものなのかもしれないね。
「タクト、あんたも食べなさい」
「え?」
「顔色、悪いわよ。また、魔法使いまくってるのに『普通の量』しか口にしていないんでしょ?」
「あ……えーと……」
そーいえば、魔竜君の記憶引っ張り出すとすっげ疲れるんだった……容量オーバーなんだろうなー、俺にとっては。
コレクションさん、ストレージの容量アップはもうないのかも……
母さんに言われ、ガイエスと同じテーブルに着く。
気分が高揚していたから脳内麻薬出ちゃってて、魔力不足でもスルーしちゃうのまずいよね……
「相変わらずだな、おまえも」
「今日は……確かにちょっと張り切り過ぎたけどさ……」
「そーだよっ! たくとにーちゃん、ちゃんとたべなくちゃっ!」
俺とガイエスがその声に振り向くと、アフェルが両手で拳を作って……怒ってた。
なぜだ。
そのアフェルの後ろで、ルエルスとミシェリーも仁王立ちだ。
「最近、タクト兄ちゃんったら蓄音器体操に遅れたり、来ても動きが悪かったしさ!」
「ねぶそくなの、あぶないのにっ、たべないのだめなんだからねっ!」
「そーう! たくとにーちゃん、またほそくなってるって、れとーにーちゃんたちがしんぱいしてたっ!」
あう……神務士トリオにも心配されていたとは……
ガイエスにもジト目で見られてしまっている。
「ごめんなさい……ちゃんと食べてちゃんと眠ります」
明日の蓄音器体操は絶対に遅刻しませんと、みんなに約束しました。
お子様達には『約束守ってね!』と言われてしまい、平身低頭でしたよ。
常連さん達にも、父さんにも頷かれちゃったので今日は早寝しよう……
気になることとか、いっぱいあるんだけどなーーーっ!
リリーン
食堂の扉が開き、入ってきたのはトアンさんとショウリョウさんだ。
そうだった、今日からって言ってたっけ。
ちゃんと『町中ファッション』だから特に注目されることはなかったが、父さんはふたりのことを知っているからか、すっ、と工房の方へ戻る。
……そんなに関わりたくないんだろうか……貴族家門や士族家門に。
すると、食べ終わったガイエスが立ち上がり、父さんの後を追うように工房の方に入っていく。
なんか、修理を頼みたいものでもあったのだろうか、と俺も立ち上がろうとしたら、子供達にまだ駄目、と止められてしまった。
「パン、一個しか食べてないよ!」
「そうだよ、すくないよっ!」
「はいっ!」
「だってもう、イノブタカツもないしさ……」
そう言って断ろうとしたが、母さんが俺の前に笑顔でひと口揚げ鶏を三個とポテサラの追加を置いた。
無言で笑顔の母さんからの圧……勝てようはずもなし。
「……玉葱茶も、ください」
「はいはい、すぐに持ってくるわね」
その様子にトアンさん達は、くすくすと笑う。
子供達に監視……いや、見守られつつ、俺はトリカラをパンに挟んでかぶりついた。
……アフェル、椅子に乗ってまで俺に食べさせようとしてくれなくても、ちゃんと食べるからっ!
そして子供達に見張られながらの夕食を終える頃、トアンさんとショウリョウさんが子供達に声をかけた。
「君達、僕らタクトくんとお話ししたいんだけど、ここに座ってもいいかな?」
「たくとにーちゃんの、ともだち?」
「そうだよ。あ、これも食べさせようと思って」
「あっ、じどーはんばいきのおかしだ!」
「そうだ、タクト兄ちゃんは甘いのも足りないから、食べなくちゃっ!」
「ええぇー? もうお腹いっぱいだよー」
「しょこらなら、へいきよ。ねっ?」
「そうだよ、タクトくん」
トアンさんとショウリョウさんが『くん』付けになってくれたのは、ちょっと嬉しいが……食べろ食べろ攻撃に荷担されてしまうとは……!
このふたり、絶対に面白がってるぞ。
ふたりが同じテーブルに着くと……そのガタイだけで『圧』がある。
レイエルス家門の方々は、どうしてこうもパワー系の体型なのだ。
お子様達の『可愛い攻撃』の圧もつらかったが、これはこれで……あ、いえ、ショコラ、いただきますよ。
あ、ピスタチオのだ。
旨っ。
その後、食堂側に戻ったガイエスが俺にひと言『人の食事にばかり気を遣わないで、自分の食事をちゃんとしろよ』なんて言って宿に戻っていった……
くっそー、全員に思いっきり頷かれてしまったじゃないかぁーー!
トアンさん、そんなに笑わないでって!
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『緑炎の方陣魔剣士・続』陸64話とリンクしています
次話の更新は10/7(月)8:00の予定です
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