第898話 映像記憶

 その後、今回の石板だけでなく迷宮核だった本のこととか、いま賢魔器具統括管理省院での登録待ちになっている方陣の件とかも連絡。

 そしてそしてガイエス的には、結構楽しみにしていたという『上映会』だ。


 一番初めに見たいといってきたのが、旧ジョイダールの映像だった。

 魔獣とか地下都市かと思ったらそうではなくて、一番最後に立ち寄った『村の遺跡』と思われる場所。

 ああ……あの碑文のあったところかと再生をしたら、まるで懐かしいアルバムでも眺めているような優しい表情で映像を見つめていた。


「凄ぇなぁ、映像って。本当にそこに居るみたいだ」

「おまえは実際に『その場』にいたから、その記憶も蘇っているんだよ」

「……そうか」


 次はラステーレの迎祠の儀とシュリィイーレのも見たいというので、俺の渾身の編集版をお見せ致しましたよ。

 ぱっかーんと大口を開けて驚いてくれたので、俺としては大満足。


「俺が見てなかったところまで……」

「色々な場所に撮影機を置いただろう? それで録れたものを後から繋ぎ合わせて『編集』したんだよ。ひとりでは見られなかった部分も見えるし、作った人が見せたいと思っているものを効果的に入れ込めるからね。編集版もその場で起こっていたことの記録ではあるけど、真実だけとは言い難い……かな」


「いや……これだと見逃していたことが随分あるんだって解って面白い……シュリィイーレのも凄かったな! 星空が弾けるなんて、星が墜ちてくるんじゃないかって吃驚した!」


 ははははは、流石に隕石までは……あれ?

 墜ちる……おちる……落ちる?

 星が?

 いや、空、天……が、落ちる……『落ち行く欠片を見る度に』……何が、落ちていた?


 天空から、落ちるのは雨?

 いや雨ならば、欠片とは言わないだろう。

 雪……も、違う。

 だって『空は青いばかり』だったんだから。


 あ、うわっ、なんだっ?

 頭の中にぐぁーーーーっと、映像が押し寄せる。

 これ……魔竜の記憶をプリントしようとした時と同じ……!


 記憶の映像が、頭の中を駆け巡る。

 ぱっ、ぱっと、今までなんのことか判らず流していたような『画』に、スポットライトが当たるようにフラッシュの中で再生される。


「……そう、か……そうだったんだ……」

「おい、どうした、タクト?」

「そうっ! そうだったんだよっ!」

「何がっ?」

「空だ! 空にあったんだよ!」

「俺に解るように言ってくれって!」


 あああ、そうっ、そうだ、俺はやっぱり自分の固定観念に囚われ過ぎていたんだ!

 魔竜が見ていた記憶が、全部鮮やかに色づいていた『魔竜が外にいた時の記憶』の映像が、俺の中で繋がっていった。


「空に、あったんだ! ニファレントは……空の帝国だったんだ! やっと、記憶の中の『下を見ている映像』の意味が解った!」


 思わず叫んでしまってから、はた、と我に返り、呆然としているガイエスを見返す。

 ……すまん、ちょっと興奮し過ぎた……


「いや、いいんだけどさ。おまえの口にすることは、いつも突拍子もないってことは……理解している」

「そんなに言うほどか?」

「だってさ、地底都市とか平気で口にして、あっという間に受け入れちゃっていたし。まぁ、なんかの記憶? とやらから、天の上に何かあるとか思っても不思議じゃない……いや、充分不思議か?」


 あ、うん、ごめん。

 そらそーだよな。

 妄想列車に無理矢理押し込んじゃって、ホントすまん。


 だが、俺の中でのこの繋がり、今回は妄想ではなくほぼ確信だ。

 これはますます、あの泉の下の発掘を急がねばなるまい。

 そして……あの『訳の解らない方陣の文字』が……ニファレントに繋がる可能性も示唆されているということなのだ!


 あの魔竜『輝血かがち爬竜はりゅう』は、間違いなく『地を這う竜』で飛べる訳でも泳げる訳でもない。

 俺が海の中にいるように見えていたのは、水の中だったのではなく『雲の中』にいたということだ。


 だが、記憶の中では『上空には殆ど雲がない』……たまに見えるのは、巻雲とか巻積雲……となると、高度は少なくとも三千メートル以上、一万五千メートルくらいまでの間か。

 いや、あの波打っていたような雲が積乱雲の上部だとしたら……八千メートルか一万メートルって感じ?


 白く波打つ海岸際ではなく、雲が流れる『空の上の大地』……いや、天空に浮かぶ大地。

 だから魔竜くんの足が地面に着いていたのに、山頂が『下』に見えていたということではないだろうかっ!

 空に浮かぶ島の上から、地上や海を見ていた……それはきっと、魔竜が暮らしていた本来の場所。


 天空の大魔導帝国、ニファレントだ。


 ヤバイ、ちょっとゾクゾクが止まらんっ!

 神典の言葉が、伝承の中のニファレントが、次々と俺の中で魔竜の記憶映像と繋がっていく。

 妄想エクスプレスの線路が、音速ジェット搭載で銀河を駆け巡る無限軌道にでもなったみたいな感じだ。


「ガイエス!」

「お、おう?」

「ありがとうっ、おまえのお陰だ! おまえがいなかったら、全く辿り着けなかったよ!」

「……よく、解んねぇけど……よ、よかった、な?」

「うんっ! お礼に夕食も食べていってくれ! ああ、こんなものじゃ俺の感謝は伝わらない……よし、保存食も菓子も、好きなだけ持ってっていいから! 魔石の方がいいかっ?」

「あ、ああ……嬉しいが、ちょっと、本当に落ち着けよ。もう俺に解るようにとか言わねぇから、とにかく座って、珈琲でも飲んで。あ、夕食は……ありがたくご馳走になる」


 任せてくれっ!

 夕食は絶対におまえの身体にも良くて、美味しいものにするからなっ!

 今のうちに母さんに頼んでおくから!


 母さーーんっ!

 晩ご飯、何ーーっ?


*******

『緑炎の方陣魔剣士・続』陸63話とリンクしています

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