第892話 報酬搬入

 大体のプランが頭の中に組み上がり、教会でがーーっと書き上げた。

 うむっ、ちょっと大変そうだが、映像さえ作っちゃえば後はなんとかできそうだぞっ。


 おふたりを見送って、俺はサクッと部屋に戻る。

 必要そうな素材を集めて、カメラと映写機をざらっと作って……


 その時、父さんから『荷物が届いたぞー』というコールが。

 慌てて下に降りると来た来た来たーーっ!


「なんだこりゃタクト?」

「この間の『報酬』だよ。よっしゃ、紫檀が来たぞっ!」

「……おまえが食べものより木材を喜ぶなんて、珍しい……」

「早めに作りたいものがあるんだよ。うんうん、理想的な柾目材だね」


 では、これはうちの地下作業場へ。

 えーっと、バジルと赤胡椒が地下一階で、荏胡麻えごまは加工するから地下三階、お、加工肉達は地下一階だね。

 ……荏胡麻、少ないなー。

 不作だったのかな?

 それとも、取り敢えずある分だけ送ってくれたのかな。


「ん、タクト、こりゃ乾酪か?」

「えーと、ウァラクの山羊の乾酪かな? うわ、こんなに沢山っ!」


 俺と父さんはウハウハだ。

 父さんはどの酒が合うかなぁ、とウキウキ……こりゃ、半分くらいは飲兵衛会の面子に食べられちゃいそうだなぁ。


 でもどれが美味しかったか教えてもらえたら、次から数を調整して入れてもらえるかをサラレア卿に頼めるかな。

 ノートにデータ、書いておかなきゃ。


「ねぇね、タクト、杞酸漿きほおずきは来た?」

「あ、待って母さん……えっと、まだ取れるまでひと月くらいあるみたいだから、届くのは弦月つるつきの中頃みたいだ」

「あら、そうなのね。あちらはまだ温かいのかしらね」

「そうだね、リバレーラとはひと月くらい季節が違うらしいからね」


 杞酸漿きほおずきというのは、クコの実である。

 だが、自動翻訳さんは『似枸杞じクコ』と表示するので、俺が知っているクコの実とは違うみたいだけどこれも作りたいものがあるんだよ、俺と母さんでさ。

 二台の馬車をからにした後、最後の一台はなんとアリスタニアさんからのものだった。


 あれ?

 ロカエのお魚便はまだのはずなんだけどと思っていましたら、おおお、色墨がいっぱい……これは『賢者の蒼碧』!

 このリエルトンの色墨は、遊文館での書き方教室でも子供達に大人気なんだよなー。

 あれ、違う色も……?


「黒い、色墨……うわ、凄い……!」


 まさにブラックホールのような、光を全く反射しない『黒』だ……!

 これって、ベンタ・ブラックってやつだよね?

 すっげー……うわーーなんて格好いい黒……ネーミングが『叡智の漆黒』……いくら魔法だからって、カーボンナノチューブを作り出しちゃうとはまさに『叡智』だろう。


 他にも『なんだか見たことのない鉱物が転がっていたので、タクト様にお送り致しました』と書かれたカードともに送られてきたのは……おおっと、これは面白そうなものを!


 こいつは、遊文館でみんなに見せたいよな。

 それじゃ不銹鋼ステンレスで実験道具を作っておこうかなー。

 しまった、一緒に送ってくれた楷樹緑果ピスタチオをしまい忘れていた。

 ピスタチオアイスも、また作っておこうっと。



 三台の荷馬車を見送って、ひと息吐いた時にまた青通りを南下してきた荷馬車が二台、ウチの前に止まった。

 おおおっと、今度はマントリエルからの大麦ですかっ!

 あれ……?

 一種類じゃないぞ?

 てか、大麦じゃなさそうなものまで入っている。


 ゼオレステ卿から『南東側のピシェルテとレライテでは大麦が数種作られていて、燕麦えんばくもございますので是非試してくださいな』とお手紙が入っておりました。

 おー、燕麦!

 燕麦とはオーツ麦、オートミールになる麦のことである。

 これは試したことがなかったから、フレークにしてエクウスに食べてもらってもいいかも!


 大麦は所謂『もち麦』で、押し麦として馴染みのあるものだ。

 お、うるち麦もあるんだなー。

 そういえば、エクウスが苦手っぽかったのはもち麦の方だったから、うるち麦も試してみよう。


 もう一台は、爆裂種の玉黍ーーっ!

 これだけあったら、ぽんぽん黍実演販売を冬場のお楽しみにできそうですよ。

 送ってくださった皆さんには、届きましたよっていう御礼状を送っておこう。


 しまった、この量の大麦と玉黍は……遊文館の地下に送るか。

 でもうちで使う分だけは、ちょっとこっちに置いておこう。

 よしよし、お魚の場所も野菜の場所も、これから本格的に冬の備蓄分の購入もブーストしていくのできちんと確保しておかないとね!


 全部片付け終わった時には、ランチタイムも終わり、スイーツタイムに差し掛かっていた。

 本日のスイーツは、母さんの作った柬埔寨瓜かんほさいか金鍔きんつばさん。


 こちらの剣には日本刀の丸いつばみたいなものは付いていないから、どんな形で作ったとしても鍔なんて誰も思わない。

 だから、そんな名前付けたら『なんで?』ってなって説明できないので、母さんの作る立方体の金鍔は『形焼き柬埔寨瓜かんほさいか』と呼んでいる。

 甘薯かんしょで作ったら『形焼き甘薯』だね。


「これ、パンナと一緒だと美味しいわぁ」

「私、ショコラで食べたいなぁ……タクトくん、温かいショコラってかけてもらえる?」

「ちょっと追加料金がかかるけどできますよ。あ、バニラの冷菓も、ショコラと同じ金額で追加できますよ」


「タクトくんっ! 僕、バニラとショコラ両方っ!」

「……今年も『走る』んですか、ファイラスさん?」

「まだ大丈夫。一昨年作った制服の二枚目が入るから」

「もう申請通さないって、長官が仰有ってましたからねぇ。それ以上にならないように、気を付けてくださいよねー」


 いつもの穏やかな時間、これから俺はフルスピードで冬の準備と婚姻式の準備に入るのだがこういう安らぎタイムは絶対に必要だ。


 リリーン


「いらっしゃーい……お、ガイエス」

「ああ、まだ平気か?」

「勿論だよ。あ、今日は柬埔寨瓜かんほさいかの形焼きだよ」

「……そうか……じゃあ、パンナと……桂皮の入った蜂蜜追加で」


「「「!」」」


 ほーい。

 食堂のお客さん達から、パンナに桂皮シナモン入り蜂蜜なんて思いつかなかった、とか、それ絶対美味しい、とか声が漏れている。

 はいはい、おかわりも追加も受け付けますよー。

 たーっぷり召し上がってくださいねー。


「タクト、後で色々話したいことがあるんだが、大丈夫か?」

「ああ、今日の用事は全部終わったから平気だぞー。はい、桂皮入り蜂蜜パンナ付きの形焼き柬埔寨瓜かんほさいか


 お菓子が目の前に来ると、によによって笑って表情が幼くなるんだよなぁ、こいつ。


*******

『緑炎の方陣魔剣士・続』陸57話とリンクしています

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