第888話 迷宮核の状態
ガイエスから『下書き』が『転送の方陣』に届いており、こちらも俺としては問題なしということで添削も完了。
送り返すもの全てを送ってから、通信を繋ぐと……なんだか、咀嚼音のようなものが?
いかん、あいつ今ヘストレスティアだから一刻間くらい時差があったんだった。
夕食時だったかも。
「あ、悪い、食事中か?」
〈……い、いや違う。大丈夫だ〉
慌てて飲み込んだような音……悪い、すぐに終わらせるからな。
まずは冒険者組合との契約には『本の定義づけ』を追加して欲しいと頼んで、見本を送った。
「その他は、シュリィイーレの商人組合で『問題ない』と言ってもらえたから、大丈夫だ。トールエスとの契約の方も、これでいいと思うよ」
〈解った。じゃあ、これで契約を進める〉
「ああ。楽しみだなー!」
なんか面白いものが手に入るといいなぁ。
思わずウキウキと声が弾んでしまう。
期待しない方が無理ってもんだよ。
できるだけ西側の、深ーい迷宮から見つかるといいなー!
〈そうだ、三、四日したら、一度シュリィイーレに行く予定だから、ルトアルトさんの宿を頼んでおいてもらっていいか?〉
「おー、いいよー。えっと十四日くらいからか?」
〈そうだな……十五日から四日間、頼んでいいか?〉
「解ったー。じゃあ、色々詳しいことはその時に……あ、俺、十五日は予定があるからそれ以外の日なら大丈夫ー!」
ロウェルテア卿との話が、どれくらいかかるか解らないからな。
ガイエスは、それだけ確認できたら大丈夫だな、と言って、俺もまたな、と軽く挨拶をするだけで通話を終えた。
すまん、ゆっくり食事をしてくれ。
すぐにルトアルトさんの宿へと行って、朝食付きでガイエスの宿泊予約をとる。
カバロも勿論一緒だろうから、その分の用意も頼んでおくと少しだけルトアルトさんはうーん、と困ったような顔を浮かべた。
「実はなぁ、最近うちの飼い葉が、泊まってくれる馬達にあまり人気がなくってなぁ」
「え、何処のを買っているんですか?」
「東市場に入ってきているものだから……レーデルスだと思うんだが」
そう言って見せてくれた飼い葉は、基本的なものは入っているけど特におかしなものではない感じだった。
……ここに来る馬達、口が肥えてきているのだろうか?
俺は最近作っている配合の飼料を試してもらえるならと提案すると、試してみたいと言ってくれたので三種類くらい預けた。
もう少ししたたらマントリエルから大麦も来ると思うし、玉黍も届くんだよね。
エクウスがどっちもあんまり……って感じだからさ、ルトアルトさんとか衛兵隊での訓練中の餌に使えればとは思ったんだよねー。
そして、爆裂種の玉黍がたーくさん入って来れば、またぽんぽん黍が復活できるぞ!
売れ過ぎちゃって、在庫切らしちゃったんだよね……バタフライタイプも、マッシュルームタイプも。
ついつい調子に乗って、ぱかぱか作っちゃったせいなんだけどさー。
よしっ、今度こそ迷宮核の本を取り出すぞっ!
ジュラルミンの箱には申し訳程度のカパカパな蓋が付いているが、これは全く中身を保護できてはいない。
なんせ横に向けただけで、ぱくん、と開いてしまうのだから。
そのせいで中の状態は著しく劣化しており、普通に取り出していたら本なんてグズグズで壊れてしまっていただろう。
まずはこのまま取り出さずに、中身だけ複製して……机の上に。
複製した本……うわー、やっぱりぼろぼろだなぁ。
さて、元の方も強化してから劣化防止だけして、ちょっと待っててねー。
それでは、複製の方を修復してしまいましょうか。
おや、四冊かと思ったら小さい冊子が間に入っていた……ひとつひとつをしっかりと強化しつつ、ハードカバー本四冊と小冊子一冊の復元完了。
それから大元の迷宮核の方は……あ、いたいた。
金属の中と本の中にも、何種類かの粘菌くん達がいますよ。
オリジナルを復元しちゃうとこの子達に影響が出ちゃうかもって思ったから、本としては複製の方を修復したんだよね。
ふむ、魔効素と魔瘴素の循環もあるし、相変わらず金属には入り込んでいる。
……魔瘴素はやっぱり羊皮紙だと染み込むんだな……
俺が複製したものの方には、魔瘴素も魔効素も粘菌くん達もいない。
粘菌くんは『生命』だから俺に複製できないというのは理解できるのだが、魔瘴素と魔効素は『中和の方陣』で指定できるから無機物扱いなのだと思っていたのだが……
無機物なら【文字魔法】で複製できるかと思ったけど、どちらも無理だった。
魔法で魔力が作り出せないのと、同じ……ってことなんだろうな。
つまり、魔瘴素も魔効素も『無機物ではあるが生命である』ということだろう。
そりゃあ、神様達しか作れないってことですな。
じゃ、文字を視て参りましょーかねーーっ!
文字は、ヘストール文字だ。
……だけど、あの犯罪指南書とは……ちょっと違うな。
俺の目には日本語と皇国現代語の両方が訳文として表示されているが……どちらにも全く訳されない言葉が幾つかある。
これって、俺が全く見たことも聞いたこともないものを表す言葉で、現在皇国にも存在していないもの……ということだろう。
それでは……多言語訳、フルバージョン展開!
ぶわわわっと、あらゆる言語が目に飛び込んでくる。
皇国古代語、マイウリア語、アーメルサス語、ガウリエスタ語、オルフェ語、ディルムトリエン語、ハーミクト語、タルフ語……は、古代マウヤーエート語とほぼ同義だな。
今まで俺に協力してくれたみんなが教えてくれた言葉全てから、ひとつずつ単語を掬い上げて訳していく。
……目が疲れる。
他国の言葉が混ざっている文章だった……ってことだよな、この方式で読めるってのは。
やっぱり皇国古代語にないものは、古代マウヤーエート語かハーミクト語で示されるものが多い。
この三つが、現存する言語体系の元になっている言葉だということだろうか。
偶にオルフェ語とかマイウリア語も併記されるというのは、つい最近の文書でもその言葉が残っていたということだろう。
ここに書かれているヘストール語とおぼしきものは、皇国古代語のように思えるけど同じ言葉があるというだけだろう。
おそらく、ベースは古代マウヤーエート語が半分以上、そしてハーミクト語が混ざってできあがっているのではないだろうか。
文字の並びや、単語に使われる文字数が似ているから『音』も近かったかもしれない。
これって……ディエルティ語?
文字が一緒で、ヘストール語と近しいものだったから混同されたか?
中身を読み取っていけば、年代が解るかもな。
よし、では読書&訳文筆記スタート!
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『緑炎の方陣魔剣士・続』陸53話とリンクしています
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