第880話 思っていたより身近でした

 でっはー!

 ビィクティアムさんの所に行ってきまーーす!

 あ、ティエルロードさんの家に寄って、一緒に東門詰め所に行こうかなーっと!

 そうすると説明が一回で終わりそうだしねっ!


 しかし残念ながら今日は、ティエルロードさんがお留守だったので教会で聞きましたら、レイエルス神司祭と一緒に王都に行っていらっしゃるということ。

 帰って来たらまたすぐに、賢魔器具統括管理省院に方陣……届けてもらうことになりそうなんだけど……


 その時に神務士トリオが俺をみつけ、お願いしていた『昔皇国に来る前に読んだ皇国の神典』に載っていたものを思い出す限り書きました、とノートを受け取った。

 おおおーー!

 ありがとうございますーー!

 これで『皇国のどの時代の神典や神話が出回っていたか』の目安がつけられるかもしれませんよ。



 さてさて、俺ひとりでビィクティアムさんのお仕事場にお邪魔しました。

 溜まっていた仕事やら、先の分まで結構片付け終わったみたいで、スッキリとしている長官執務室。


 まずは、詐欺マニュアルのことを話題に出す。

 どこまで把握していらっしゃるかの確認……と思いましたが、しっかり全部お解りのご様子。

 当然っちゃ当然か。


 なので俺もヴェロード村での柬埔寨瓜かんほさいか取引のことを話し、詐欺マニュアルに皇国の『紙』が使われてしまうことを完全に防げないまでも抑止できそうな対策ができそうなので、と提案する。


「抑止対策……?」

「はい。実態がはっきりせず、原因と発生源が特定できていない段階ですので、適切で効果的な防衛策は難しいですよね。なので、継続的にできることで『これを使っての犯罪は難しそうだ』とか『使ったらばれる』と思わせる……いや、犯罪者側にその知識がなくて使われてしまったとしても『何処で作ったものが何処で使われたか』などの情報が少しでも多く捜査側に提供できたら、犯行を冒した者達に辿り着きやすくなるかと思いまして」


 そのまま説明を始めようとした俺に、ビィクティアムさんから待ったがかかった。


「多分、俺は聞いたことをすぐには理解できんと思う。撮影して、それを賢魔器具統括管理省院に一緒に送っていいか?」

「……解りました。じゃあ、賢魔器具統括管理省院に話す必要のない内容になったらすぐに止められるように、俺の持っている撮影機を使っていいですか?」


 ご了承いただけましたので、録画用の石帯いしおび一体型にしてある『置き型カメラ』で撮影を始めましょう。

 手元の石板で操作ができるもので、セラフィラント公とライリクスさんに以前お渡しした監視……じゃない、『見守りカメラ』の進化版である。


 以前のは固定タイプだったが、今回のはズームアップも可能なのである。

 あ、勿論、これも賢魔器具統括管理省院行きですよ。

 ビィクティアムさんに、困ったように苦笑いされてしまった。


「おまえ……賢魔器具統括管理省院の連中を、たまには休ませてやれよ……」

「実はガイエスがヘストレスティアで迷宮品の中から『本』を買い付けてくれましたので、それについても後日持ってきますね?」


 真顔で黙られてしまった。

 まだ読んでないので、内容が解りませんから賢魔器具統括管理省院案件なのか教会扱いかは判断できませんが、とだけお断りして本日の目的のものに話を戻します。


 まずは『剝離式硬皮用紙』の作り方と弱点や対処法。

 何故これが作られたかは……多分、ガイエスからヘストレスティア冒険者組合に話が行ってる。


 ヘストレスティア国内で起きた冒険者組合絡みのことを、今ここでビィクティアムさんに伝える必要はない。

 ビィクティアムさんは別の心当たりがあったようで、あまり驚いた感じがないから……あの詐欺マニュアル関連でも使われていたのかな?


「皇国内でこのような硬皮用紙か、補強羊皮紙を使われた詐欺契約があった」

「……やっぱり。ガイエスが『剥がれる紙』のことを知っていたんで、ウァラク辺りで何かあったかなーと」

「そうだ。ウァラクのルエルート村とペカリード村、エルディエラのイラータル村でその用紙と思われるものが使われた。幸い、これらの村では騙された者は出なかったが、仕掛けた者達の持っていたものの中に『補強羊皮紙』があった」


「それって、その村の方々に署名させるものですか?」

「いや、まだ何も書かれていない白紙だったから、ある程度まで話が進んだら使うつもりだったのだと思うが……剥がしてみた方がいいということか?」

「そうですね。何か書かれているとしたら、紙を作って『貼り合わせる前』ですから、確認していただいた方がいいと思います」


「硬皮用紙は皇国の冒険者や兵団崩れのやつらで、何人か引っかかっている。不当契約として無効が認められたものが殆どだが、簡易契約扱いになってしまった者もいて各地の衛兵隊で対応していた」

「それって『商取引』ですか?」


「品別の単発契約をその品を扱う継続とされてしまい、商人組合に登録されてしまったら『販売登録をした際に勝手に売上げの何割かが契約相手に流れる』という悪質なものだった。ほら、あのやじり芋、あれもだよ」


 えええぇぇー?

 そんな身近で既に起こっていたとはっ!


「入荷当日だったし、まだ『売っていない』という形にしたから、商人組合保管の契約書は簡易契約状態であるとの判断にできて無効で処理できた。だが、販売後や『控え』の方を剥がしてしまうと『裏書き』が有効になってしまう場合があるんで、面倒極まりない」


「控えは必ず『契約本紙』と『完全に一致』していないといけないのですから、控えだけでも『表書きのみ』になったら簡易契約でなくても無効にできますよね」

「正しい契約ならば、裏になど書かないものだが……確かにそれは『抜け穴』だからな」


「では、当たり障りのない『正しい契約』だけ書いてある『表書き』のみにしてしまえばいいんですよ。剥がすとまずいなら、剥がせなくすればいいんです」

「……できるのか?」


 それは、こちらの方陣で……と『熱着の方陣』を描いた羊布ようふ下敷きを取り出す。

 羊布というのは、ロンデェエスト産のフェルト生地のことである。

 今回はロンデェエストのものを使ったので『羊布』だが、その他の毛が使われたものや他領地産は『不織布』という呼び方になるので、ロンデェエスト産の羊毛は特別なのだろう。


「熱、着?」

「微量に熱を発生させて、もしも硬皮用紙や補強羊皮紙に『剥がせるように脂と糊で加工していたら』剥がせないように貼り付けてしまう方陣です。一度剥がしたものでも『糊の面』同士をもう一度綺麗に重ねてくだされば、二度と剥がせないようにくっつけられますよ」


 そして『熱着の方陣』の説明をし終えると、早速試してみたいと仰有ってビィクティアムさんが、手持ちの補強羊皮紙を持ち出してきたのだが……いやいや、それ剝離タイプじゃないでしょ?

 俺が突っ込むと、あっ、て顔で固まる。

 ……笑ってはいけない。


 なので、その場で剝離式の羊皮紙を作ってみて、試してもらいました。

 剥がした裏紙をもう一度貼れるということに吃驚していたし、半分だけ剥がしたものの全体に効果が出るように方陣で魔法をかけたら、どーやっても剥がれないと今度はめっちゃ笑顔になった。

 ビィクティアムさんってさ、結構俺が魔法を披露すると楽しそーにするんだよねぇ。


「ああ、結構楽しいし面白いぞ? おまえの魔法は、見たことのないものばかりだからなぁ」

「お楽しみいただけるのは、嬉しいです。あ、あとふたつほど方陣があるので、続けていいですか? 最初にお話しした抑止対策の方です」

「……は?」


 やだなぁ、楽しくいきましょーって。

 ねー!

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