第879話 詐欺抑制方陣セット
さーて、ちょっとひと息ついて……あ、そうそう、ガイエスからカバロのお菓子の注文が来ていたんだった。
今までのもの以外にも何種類か作ったから、色々試食品を送ってやろうっと。
ガイエスの定番品を一緒に送っておくか。
包みプパーネと味噌汁は五種類セットだな。
リエッツァと……そろそろパンもかな……他には……ケチャップを使ったベーコンエッグサンドか。
あ、そうそう、胡桃、ピーナッツ、
きっと、ガイエスも好きだと思うから送っておこう。
自販機に入れたら、なかなか好評だったからねー。
それでは、あの剝離式硬皮用紙はかなり悪質なものなので、無効化できるようにしちゃいませんとねー。
当座のやり方はガイエスに伝えたもので大丈夫だとは思うけど、それでも数件は成功しちゃいそうだ。
そっちのやり方は、ヘストレスティアの冒険者組合や商人組合に伝えてもらうことにして、俺の方は皇国内での対策用。
とりあえずこちらでは、誰でも使える方陣で対策をしたいと思うワケですよ。
あの剥離紙の弱点は糊を使っているから当然『水』だけど、それを使うと皇国の色墨や千年筆筆記ならば耐えられるかもしれないが、ヘストレスティアや他国のものはまず無理だろう。
表の文字が消えたり滲んで読めなくなっては意味がなく、故意にやったのだからと訴えられかねない。
だからといって、署名や捺印前に剥がすことができるかといわれると、これまた『破損させた』なーんて難癖をつけられるかもしれない。
ならば『剥がれない』ようにしてしまえばいいのである。
水が駄目なら、使うのは『熱』だな。
使われているニスは油だし、糊も熱には弱い。
しかし、ここで『炎熱の方陣』を使ってしまうのはよろしくない。
炎熱の『熱』は、動物性である羊皮紙に使われるもの全てと親和性が良過ぎて温度が上がりやすく燃えやすいのである。
毎度のことだが、使うのは『雷光』だね。
電熱の方が燃えにくいのは、多分『雷光の方陣』が『熱で光らせている』のではなく『光の副産物としての放熱』だからだろう。
そのせいか『光』をある程度抑えてしまえば『熱』も簡単に抑えられる。
紙を燃やすほど熱くする必要はなく、紙そのものや色墨に影響しない弱ーい熱でも樹脂と糊は簡単に溶け出して混ざり合い、乾けばしっかりがっちりくっついてしまうのだ。
乾かすのは周りの空気がやってくれるし、人が『熱い』と思わない程度の熱で充分ということは、ガイエスが送ってくれた剥離紙で実験済み。
ニスの油のせいか糊のせいかは解らないけど、裏側に書かれている隠れた文字も温めることで滲んでしまって読めなくなっているのもいいポイントですよ。
植物性のニスが塗られている部分を『範囲指定』するので、組み合わせるのは『制御の方陣』と『植物の方陣』でいいかなー。
ほいほい、これでよしですな。
えーと……方陣札にするよりは……『署名押印用下敷き』を作ろう。
上に載せた剥離紙の中では、じわりとニスと糊の融解が始まり、署名捺印が終わった頃には混ざり合ってべっとりとくっついている。
羊皮紙や硬皮用紙の場合、書き終わった後に殆どの人達は『インクを乾かすため』に紙をパタパタっと揺らしたり息を吹きかける。
この時に紙の温度は下がって、硬皮用紙は完全に剥がれなくなって固着が完了する。
下敷きをサインする側が持っていて、必ず署名捺印の時に敷いてくれれば押印しちゃっていたとしても『表面のなんでもない内容』だけしか有効にはならない。
さて、下敷き……この場合は硬い素材ではなく、たたんだり丸めたりできる書道で使う
その素材であるが、本当なら耐久性を考えて『
いや、頑張れば作れるかもしれないけど、俺以外作れないものでは意味がないし……何より、高額になってしまう。
だけど販売価格が上がってしまうと、一番使って欲しい層に買ってもらえなくなってしまう。
最も不当契約の犠牲になるのは、冒険者とヘストレスティアに買い付けに行く商人達だろう。
もしくは、まだ帰化前の皇国内の移民達だ。
他国在籍でヘストレスティアにいるそれらの人々までどうこうしようとは思わないけど、既に皇国で暮らしている人々が付け込まれることは避けたい。
そして皇国内で広まれば、ヘストレスティアの冒険者達にだって買われ始めるかもしれないしな。
ということで、今回は見本品だからちょっと硬めのフェルトを作って、それに『金属入り刺繍糸』を使って方陣を入れ込んでみました。
フェルトと同じ色の刺繍糸ならぱっと見で『方陣が描かれている』とは解らないからね。
あのビスコース・レーヨンの刺繍糸である。
実は皺になりやすいビスコース・レーヨンの布であるが、これには魔力保持のための金属粉が入れ込まれている。
そのため、周りのフェルトよりちょっとだけ、刺繍糸の方が皺になりにくくできるということだ。
そしてビスコース・レーヨンは熱に強く、静電気が起きにくい。
雷光由来の熱魔法に対して、素材として耐性が高いので十数回の使用でも問題がないのだ。
これはこの糸を仕入れてくれたタセリームさんにお礼を言いにいかないとなー。
よしよし、試作品の実験も上手くいきましたぞ。
さて、こいつも賢魔器具統括管理省院さんに……と、ビィクティアムさんにもご報告しなくちゃね。
なんにしても、こんな詐欺は絶対に許せるものではないが、現時点でヘストレスティアだけで行われているだけだとしたら皇国側としては自衛するしか手はない。
ヘストレスティアに行って取引する皇国の商人達や、皇国の冒険者達が引っかからないようにするのが最優先だ。
あの紙の作り的に、皇国で魔法を使って仕上げているとは思いにくいし、俺の『魔法残滓神眼』さんでも『作成時の魔法』が全く見られなかった。
明らかに最近作られた紙だと思うんだが、それがないのなら皇国で作ったものとは思えない。
だけど……ヘストレスティアの町がダフトのように植物や木々が少ないとしたら、ニスや糊の原料は皇国から仕入れていそうだよな。
そのルートは、セラフィラントで突き止めてもらえるとありがたいよな。
おそらく皇国の北側の領地で作っていそうだよね、
あ、透かし錯視の方の方陣もだけど……名前、何にすっかなー。
んっと、透かし錯視の方は『光』がベースって解った方がいいから『
こっちの剥離紙用は『電熱』……いや、使える範囲が狭い特化型だから『
問題は魔効素噴霧定着の方陣だが、はたして『魔効素』というものが皇国臣民達にどれほど知られているか……と言われれば『まったく』としか言いようのない現状だ。
ならば『光錯の方陣』とセットでしか使えないと思ってもらう方が、現時点では間違いがないだろう。
実際、この方陣で何がどーなっているかなんてのは『光錯の方陣』が起動しなくては全く解らず、事象の確認ができないのだ。
単体で使えるように改造ができるほど、簡単に描けるとは……思えない。
俺だって、今は動かしたくないほど面倒な図形と
だから……特殊な吹きつけのできる方陣……『特付』……とか?
うん『
量産は、この方陣をビィクティアムさん達からOKもらってからなんで、明日にでも早速行こうかなっと!
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次話の更新は9/9(月)8:00の予定です
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