第875話 特異日の再確認
朝食後は衛兵隊での基礎訓練の後、南西門から外に出て南の森に入る。
俺がみつけた『魔効素筋』のふたつは南の森の真ん中辺りで、もうひとつは昔の白森付近だった。
魔効素スコープをオンにして、探査範囲を広げる。
降り注ぐ魔効素の中に、明らかに集中している場所へ寄って行くと……見知った場所である。
予想通り、育成水の祠がある泉だ。
祠自体と収めてある石板は、まるでガーゼでくるまれているかのように魔効素に覆われている。
きっとこれを全て取り込んで、石板の中の魔法を支えているのだろう。
俺が石板や金属板でやっていた『【文字魔法】を使った魔効素吸収』は、そもそも魔法を入れ込み文字を刻んだ石板というものが『特異日に不足分を補う』というものだったのかもしれないから成り立っていたのかも。
元からあったシステムだったから、イレギュラー対応でもできた……ってことか。
そりゃそうだよな。
物理法則にしたって、なんだって、全ては初めからそこに在るのだ。
人は神ではないのだから、在ったものに気付き、使い方ややり方を工夫して組み合わせたり取捨選択をしているだけ。
世界には気付かないことが、まだまだいくらでも存在する。
知識は気付きである、ということの証明だよな、これも。
南の森のもうひとつは『朴樹の群生地』で、旧白森付近のものは『亜麻の群生地』だった。
きっと掘り返したり、近くを崩したら祠か石板がありそうだ。
でも、今日は場所のチェックだけ。
今日中にシュリィイーレ付近でみつけた『魔効素筋』の場所、全部を特定しておきたいからな。
探検は後でもできるし!
その後も特定を続け、西の森の崖崩れがあった辺りにひとつ。
錆山周りは光学迷彩を使って隠れつつ、六箇所の位置をしっかり確認して転移ができるように細工をしておく。
……『移動の方陣』は使えないからなー。
久し振りだね、黄色のインクでの転移目標増設は。
お次は……旧少数民族領付近。
ここも三箇所ほど、シュリィイーレ近くとは比べものにならないくらい少ないが、真珠三角錐からの魔効素筋がちろちろと注がれている。
まずひとつ目は……おや、ここって以前角狼が巣穴にしていた場所じゃないか?
うんうん、間違いなさそう。
俺、中の方までガッツリ浄化した記憶がある洞穴だ。
ここは今度、奥まで入って確かめ……あ、そーだ。
ガイエスを誘おうかな?
あいつ、こういうの好きそうじゃん?
魔獣が出ないから物足りない、なんて言わないよな?
じゃ、探検はその時にしよっと。
えーと、それじゃ『門』の方陣札……だと、雨風で不安だから方陣石板にすっかな。
石板を入口にザクッと立てて、対になる方陣石板を作って……よし、これで一緒にここまで来られるな。
他のふたつは、沼っぽいところと、村があったと思われる残骸の下あたりか。
こっちはちょっとさっきの洞穴よりは足場が危険そうだから、安全確認してから慎重にって感じだなー。
浮いていないと駄目だとしたら、ガイエスは連れて来られないしなー。
他の人まで飛ばせる魔法は、流石にないんだよ。
あれ、昨夜は解らなかったけどもうひとつ筋が見えるぞ。
そーか、真珠三角錐からの供給分だったんで見落としたのかも。
ふよふよと飛びながら近付いたのは、大峡谷近く。
あ、ここって……俺がガウリエスタからの魔瘴素ラインをぶった切るために入れたルビーとサファイア製の石板の位置だ。
そーか、ギリギリ星青の境域のライン上だから、お裾分けをいただけているんだなー。
神様、ありがとうございます。
おや……?
なんだか、大峡谷の向こう側が……遠ざかっている気がする?
こんなに広く開いていなかったような……と、峡谷を覗き込む。
昔三角錐があった辺りには俺の浄化のせいか草が青々と茂り、草原のように棚引いている。
その草むらのガウリエスタ側に、全く何も生えていない道がまるで歩道でも造ったかのように壁に添って北へと延びている。
幅は……二メートル弱といったところだろうか。
あの時の魔法は峡谷の底だけでなく、壁の一部も浄化していたはずだ。
その証拠に魔法の及んでいないと思われる場所の壁は黒ずみがあり、草むらもぷっつりと途切れている。
魔獣の気配は……遙か北の方まで、全くないのだが。
壁が崩れているのではなく、ガウリエスタ側が『離れていっている』という感じだ。
いや、離れると崩れるが同時?
離れてできた隙間が、崩れた壁の岩や土、砂で埋められていってる……ってことかな?
これって、遺棄地だから離れて行ってるということだろうか?
加護のなくなった大地は、切り離される……?
だけど、旧ジョイダールには全くそんな様子はなかったと思うんだけど、マウヤーエートとどう違うんだろうか?
峡谷際の皇国側に立ち、ガウリエスタ側を視る。
以前、ちらちらと見えていたはずの魔効素は全く視えない。
それどころか、所々魔瘴素が吹き出ている。
魔効素と違って魔瘴素はあまり上の方まで舞うことはなくて、まるで茸が胞子を一気に飛ばすみたいに、ぶわっと広範囲に広げるように散らばる。
だが、その広がった魔瘴素は砂地に触れるとずるり、と滑り込むように地中に戻っていく。
不思議なことに砂の上には魔効素もない代わりに、魔瘴素も溜まらないみたいだ。
大地の地下で、粘菌くん達が頑張っているのかもしれない。
砂はその手助けをするために、大気と大地の上に魔瘴素が溜まり過ぎないようにするために存在しているのだろうか。
遺棄地は……砂があるからこそ、守られているのかな。
そしてきっと砂の下の大地は、いつか浄化される日のために様々な植物達の種を抱え込んで眠っているのかもね。
マウヤーエートの大地が離れていってるのは、この砂を皇国側に飛ばさないための神々のお気遣いなのかもしれない。
だとすると神々の作ったシステムでも、遺棄地を完全には切り捨てることはないのだろう。
うーん……だとするとやっぱり、昔のマントリエル崩壊は……どうしてなんだろうか?
一部分だけが沈むって……変だよなぁ?
しかもほぼ跡形もない、ということは『壊れた』っていうか『崩れ落ちた』?
どう考えてもこの星の自然現象というだけでは、済まない気がするんだけど……まだ、俺があちらの世界の常識に囚われてて見落としていることがあるのかもしれないよな。
今後も何か発見できたら、某かの仮説を思いつくかもしれないが……ロカエ沖の海の中とか、視られるようにならないかなー。
てか、海の中って全然『
くきゅるるるるーー……
しまった、お腹が情けない声を上げている。
もうすぐ晩ご飯タイムになってしまう。
後はもう一度夜にでも真珠三角錐の確認に行ってから、少し眠って……ヘストレスティアでの競りに備えなくては!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます