第871話 方陣の限界と可能性
俺の指輪印章を印面をくっつけて紙の上に置く。
そして、改造方陣、発動!
一見、紙にはなんの変化もない。
しかしその紙を天光に透かしてみますと……おおっ、印章見えたー。
上手くいってよかったなー。
もうね、途中で『やっぱこれは無理』ってことで、当初考えていた『錯認できるような加工を連続して入れ込む』ことが、既存の方陣だけではできないということが解りました。
いや、頑張ればできるのだが、頑張りの中に神斎術が含まれてしまうので『回復の方陣』組み込み方式は断念したのだ。
やはり方陣そのものを紙に印刷し、それを触れた人の自然放出魔力で発動できるようにしたのである。
確かに……方陣は切れたり折れ曲がったりしては、まったく意味を成さず発動はしない。
だが、たーーーーーくさんの方陣があれば……折れた場所や、切られたりちょっと欠けた場所だけ働かなくたってノープロなのである。
一番最初の『インクジェットプリンター』という原理に、立ち返ったいうことですな。
粉のように細かーーーい粒を吹き飛ばして定着させるのと同じ考え方で、ものすごーーーーく小さーーい『方陣』を点描のように打って文字やマークを形作るのである。
文字やマークが『方陣の集合体』でできているという感じだね。
ひとつの方陣をポンと描いて全部を仕上げてしまおうなんて、横着をしてはいけなかったのだ。
俺が作ったひとつ目は『光に翳すと指定した形が透けて見えるような錯覚を起こす方陣』である。
ベースは紙と人とを指定した『錯視の方陣』で、極小方陣そのものを吹きつけ印刷する感じなので『現象』を起こさせる方陣の組み込みがベストだろう。
弱ーく光ればいいかと思ってのだが『錯視』が中位方陣なので『採光の方陣』では負けてしまう。
仕方なく使ったのは『雷光の方陣』の『光』なのであるが……そのものを光らせるよりも『錯視の方陣』に組み込むのだから『周りの明るい場所の光を模倣する』という指定にした。
発動条件は『紙を手に持ち翳した時』に自然放出魔力が紙に伝わるので、小さい小さい方陣がうっすらと明るくなる……と『錯覚』する。
実際には明るくはなっていないが『人』の目にだけ、そのように見えるのである。
そして『方陣を小さくして指定した形に印刷する方陣』で、紙に文字やマークを描くように指示する。
こちらは『何で印刷するか』が問題だったのだが、なんと『中和の方陣』で『魔効素』が指定できたので『除去』ではなく『集合』させてみた。
魔効素が無機物と同じ扱いでOKというのはなかなか吃驚したのだが、これはラッキーな発見だった。
魔力でなんとかしてしまうと紙そのものに変質を招くとか、色墨で描いた部分にも支障をきたす可能性がある。
だが、魔効素はまだ『魔法でも魔力でもない素』だ。
つまりは、魔効素の粒で方陣を描くような『インクジェット』ならぬ『魔効素ジェット印刷』をしたのだ。
この方陣ひとつでどうにかならないかと『方陣の
結局は複数の方陣を使うことになってしまって、イマイチスマートではないが……今はこれが精一杯だ。
このふたつの方陣は……このままで魔効素が印刷された状態で残っててくれるか、時間が経つとやはり消えてしまうかを確認しないとね。
消えちゃったら定着方法を考え直すか、別のものを使うかしないとなー。
ビィクティアムさんとティエルロードさんには、その後で名前を付けてから、だね。
今回の方陣の分解と再構築で解ったことを、賢魔器具統括管理省院用に纏めておかなきゃ。
色々と収穫が多くて、面白かったからなー。
なんにしても、方陣が物質を変化させられるのは、その方陣が発動している時だけというのが現時点で判明したこと。
で、回復や治癒で状態が方陣終了後にリセットされないのは『生きているもの』ということで、魔法を発動させた対象も常に変化して動いているものだから……ということだろう。
そっか、これって『門の方陣』が『映像記憶』に左右されるのと一緒なのかも。
映像としての記憶の場所が実際には『そのころと変化』してしまっていたら、移動先の指定をしている
……ガイエスってリアルに『人型カメラ』ってことか?
道理で記憶力がいい……【方陣魔法】だと『図形』も確実に記憶できるんだもんなぁ。
あいつ……絵本用に、各町の風景とか描いてくんねーかなぁ。
さて、母さんから預かった刺繍糸も、ちょっと気になるから見てみよっかな。
魔法履歴スコープ、オン。
おおっ、視える……けど、情報量、多っ!
接した人が多いからか……あ、目が回るっ。
なるべく古いものに集中しないと……お、ちょっと安定した。
んむむむ……個人の魔法を使っているものは読み取れるんだけど……方陣を使ったものは『魔力残滓』がちょろっと残るだけで何が使われたか解らないみたいだな。
うお、これ頭痛くなるから、チラ視だけで止めた方がよさそう。
お次は、何を原料にしているかの確認かなー。
皇国では、実は『蚕』がいないのか、昆虫図鑑に皇国語の名前が表示されなかった。
だが、勿論『絹』という名の布は存在している。
これは厳密には『ビスコース・レーヨン』のことである。
木材のセルロースが原料で、再生セルロース繊維と呼ばれるものだ。
確か『人工シルク』なんて呼ばれ方もしていたよね。
木が材料だからか非常に魔法と親和性も高くて、植物由来の染料だと素晴らしい発色になる。
勿論、多くの刺繍糸も木綿かこのビスコース・レーヨンが使われており、金赤の刺繍糸はビスコース・レーヨン製であった。
銀色成分は、銀少量とアルミみたいだ。
凄いねー、こんなに均等に金属粉が行き渡っているってことは、アルカリセルロースの段階で混ぜ込んで魔法で定着させているんだろうなー。
色は、銀粉やアルミ粉の状態の時に付けているみたいだけど、糸になった時に最後の仕上げにもう一度同じ色でカバーするようにしているのか。
……おや?
所々、斑になっているね?
方陣の魔法がちゃんと発動していなかったとか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます