第857話 アフターフォローも完璧です
スイーツタイムの終盤、テトールスさんとワシェルトさんがやってきた。
あの一件があったからきっと、話したいことが山積みだろうと小会議室の方にご案内。
その直後に本日のスイーツが売り切れとなってしまったので、ちょっと早かったが夕食準備のため一時閉店。
俺も小会議室の方へと行こうかと思ったら、母さんに呼び止められた。
「タクト、これ、ふたりに出してあげて。
「あ、ありがとう、母さん! これからも届くようになるから、献立が沢山あると嬉しい!」
「あら、それじゃあ、食事になりそうなものも考えようかしらね」
受け取ったのは艶々でほかほかの、大学いものかぼちゃバージョンみたいなお菓子に見える。
だけど、切ったかぼちゃをそのまま揚げている訳じゃなくて、一度茹でたか蒸したかで柔らかくしたものを潰し、成形してから揚げている。
小麦粉などはついていないから、表面がほんのりカリッとするくらいみたいだ。
立方体で大きさ的には
「……また、新しいお菓子ですか……!」
「ふぉぉ、旨そうですなぁぁぁ!」
「俺もまだ食べていないお菓子なんで、楽しみなんですよ。どうぞ、召し上がってみてください」
ふたりは大喜びで早速口へと運び、俺もワクワクしながらフォークで切って中を確かめる。
表面がカリッとしていて、揚げてある上から艶々の飴が薄くかかっている。
中は思ったよりほくほくな感じで、滑らかに漉してあるのではなくて食感の楽しめる粗潰しだ。
あ……中に甘い小豆の粒が入ってるー。
思っていたよりずっと『和菓子』っぽい……あ、ミルクの粒も入ってる!
口の中でプチって弾けて、甘いのがとろっとかぼちゃと小豆にかかる感じ!
ミルクというより練乳っぽいー。
あ、いかん、サツマイモで食べたい、とか思っちゃったよ。
うん、割と好きな方だけど、やっぱりちょっとかぼちゃである必要はないかなーというのが俺の感想だが、このおふたりはめちゃくちゃ好きなお味のようだ。
お気に召していただけてよかったですよ。
「タクトさん、本当に、色々とありがとうございました」
「いえ、俺の方こそ早く契約ができて助かりましたよ。お礼はガイエスに言ってあげてください。あいつがいなかったら、ここまで早く対応できませんでしたからね」
「ガイエスにゃ、ほんっとうに世話になっちまった。アウィアさんの腰まで治っちまってよ」
そしてガイエスのナイスフォローからの、ウァラク隊の格好いい登場までを講談師かの如く語るおふたりが微笑ましい。
しっかし、相変わらずですねぇ、お助けマン・ガイエスくんは。
ま、自分自身が疲弊しなきゃ、何やってもいいんだけどね。
「あ、そうそう、アウィアさんにこれをお渡ししてください。
俺が幾つかの箱を渡した時に、ワシェルトさんもテトールスさんもなんだか困ったような顔になる。
「タクトさん……その、実は来月の中旬からトラード教会が改築になってしまって……教会の方陣門が使えなくなってしまうんです……」
「あ、それは大丈夫ですよ。ベスレテア教会に『目標の方陣』を置いていいという話がまとまりましたから」
「「ええっ?」」
「多分、五日後くらいまでにはベスレテア教会に話が通っているはずです。衛兵隊の方が付き添ってくれると思いますけど……えーと、これが新しい目標の方陣鋼……あ、アウィアさんの分も念のため。これとこれが組になっていますから、魔力を通して設置してくださいね。最初の一回はアウィアさんにもベスレテア教会まで行ってもらうことになるので、一緒に……」
おおぅ、突然テトールスさんに両手を握られてしまったぞ?
「ありがとうっ! タクトさんっ!」
「これで荷馬車の心配もなくなって、ずっと魔力量も刻限も気にしねぇで動けるな!」
ワシェルトさんにまで、こんなに感謝されてしまうとは……
あれれ?
魔力量としては移動鋼に入る魔力で何とかなっていたはずだけど、刻限……とは?
「トラード教会は古い教会だったから、方陣門は凄く小さくてひとりずつしか通れないんですよ」
「それで、最近は順番待ちの列ができてしまうこともあったんです。ベスレテアに行くには、リドムランかミレルに行き、その後にもう一度フェイエストまで馬車方陣で移動してからじゃないと入れないから。二回以上も馬車方陣を使わなくちゃいけないとなると、荷物が持てる程度なら多少並んでも教会門を使う方が便利なんで」
そうだったのか。
シュリィイーレって全ての町が『越領』になっちゃうから、そもそも町の人達が使える『門』は方陣札だけだし『町中の移動のみ』なんだよね。
「そのせいでってのもあるんすけどね、一般臣民は魔力量のこともあるから一日一回しか使わせてくれないんですよ、教会門って。だけど……忘れ物とか、ないとは言い切れないじゃないっすか……」
教会にあるのは金証以上の人じゃないと使わせてもらえない『越領門』だけだから、教会常設の方陣門の利用規制なんてのは、全然知らなかったなー。
よかったな、ベスレテア教会に『目標の方陣』を置かせてもらう許可をいただいておいて。
それでは一応、テトールスさんにアウィアさんが『同行者』登録できるようにもしておきましょうか。
そうしたら、混み具合も時刻も気にせずにベスレテアに移動できるよね。
晴れやかに帰路につくふたりには、皆さんへのお土産として
その内、アウィアさんもうちまで来てくれるかもしれないな。
もし来てくれた時のために……ひとつふたつはかぼちゃ料理を作れるようになっておこうかな。
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