第852話 苦芋鑑定
えーと、さっきの商人さんは……あ、いらした。
アフェルのおうちで出会ったのはコンメルさんという方で、その他の四人は行商の時に知り合った仲間なのだそうだ。
……そうか、タセリームさんもその時に会ったんだね。
タセリームさんは食べ物の仕入れと販売には関わっていないらしいし、今回は荷馬車の手配をしたから同行したということのようだ。
確かに、タセリームさんの店で食べ物は売らないよな。
自分の店があるのに、市場に売り場を構える必要もないしね。
その他のコンメルさん以外の方々は、市場の『期間販売権』を持っている商人さん達なので、毎年売り物は違えど
あ、そういえば、この中のふたりくらいは東市場で見覚えがあるかも。
「申し訳ないです、タクトさん……実は私を含めた五人で、最近作られるようになったという苦芋をカタエレリエラから入れたんです。あまりよく知らないものだったので、カシェナで買った『苦芋の別品種』と言われていたものをうっかり混ぜて売り場に並べてしまったんです。カシェナの苦芋は、みんなで分けて種芋として他領に行って育ててもらうつもりだったものです」
「苦芋自体は、カタエレリエラのものなんですね。それで、東門では売り物だけの検閲しかしなかったのかな……?」
衛兵隊が見過ごすのも珍しいと思ったけど、そもそもの苦芋というものをよく知らなかったり
同じ『苦芋』として皇国に入っていたら、混ぜ込まれていたって全ての芋をひとつひとつ手に取って鑑定はしないから見つからないだろうしね。
そして閃光仗での『浄化』でも、植物が元々持っている毒は弱まりはしても消せないからなー。
「カシェナでは『幾つか違う種と一緒に育てると交雑して、苦味の和らいだ芋ができる』……と言われておりました。ですが、私たちが買ったのは一種だったはずなのです。そして違うものが入っていたということが、間違って種芋まで売り場に並べたことで判明して……」
「ということは、苦芋の別品種があってそれに鏃芋が混ざっていたと言うことですね?」
皆さんは頷く。
うーむ、これはなかなか面倒なことだな。
カシェナが何処まできちんと『品種』を分けていたかが判らない。
しかも、交雑しないと思われるキャッサバまで混ぜられているということは、苦い芋っていうだけの括りで分けていて植物として分類していたんじゃないってことだよな?
チラッと見た限りでも結構違うものが混ざっているから、見た目だけで分けたっぽいなーーっ!
「ちょっと待っててください。この量を青通りに留め置くわけにいかないので、どこか場所を借りますから」
「「「「「申し訳ございませんっ!」」」」」
いえいえ、この町に危険なものが入ってきたら大変ですからね。
また『聖女様出動!』なんてことになったら、その方が面倒だからねっ!
「タクト……ごめん」
「……タセリームさんが謝ることじゃないですよ。このまま待っててくださいね」
緊急でこれだけの芋を入れられる場所なんて……衛兵隊に頼むしかないな。
訓練場とか……あ、試験研修生用の馬場に、まだお馬さん達は来ていないはず!
そこに入れさせてもらえないかな?
ビィクティアムさーーーーん!
助けて欲しいですーー!
「……芋?」
「はい。食べると危険な種類の芋も混ざっちゃっていたみたいでして、それを選り分けたいので場所を貸してください」
「解った……が、馬場でいいのか?」
「土がついている状態の芋もあるみたいなんで、ちょっと屋内は……できれば、その土も採取したいのですよ」
「いいだろう。紫通り側の扉から入れるようにしておく」
「ありがとうございますっ!」
衛兵隊施設の屋内だと、浄化とか洗浄とかが自動的に発動されちゃうのでね。
馬場には馬への影響を考えて、魔法付与が殆どないから都合がよいのですよ。
ソッコーで皆様と東市場を横切らないように環状通りの一番内側である水通りまで行って、東薄紅通りから衛兵隊試験研修生用馬場まで。
丁度、柵を開いてくださっていたシュウエルさんに挨拶をしつつ、大型荷馬車三台は全て馬場の中へ。
麻袋に入ったままのものと、バラけているものがあるのでまずはバラの方から……
商人さん達は空箱を幾つか用意してきてくれていたので、そちらに売ってもいい『カタエレリエラ産の
種芋として入れたと思われるものより、格段に
苦芋というより、
あ、苦味好きさんとしては『ハズレ』なのかな?
……おや、カタエレリエラの方にも違う芋がちらりと混ざって……あ、これは本当に柔里芋だ。
混入物が食べられるものでよかったよ。
カシェナの『種芋用』は、同じ袋の中に何種か混ざってて、キャッサバも苦味種だけでなく甘味種も若干だが入っている。
こいつは、タロイモとは全くの別物だ。
明らかに『間違っているもの』だろう。
お、これはカシェナの苦芋……だけど、柔里芋っぽいものも混ざっている。
これは食べられるだろうと思ったが、やっぱちょっと食べない方がいいやも。
そもそも里芋はタロ芋とほぼ同義なのだから食べられるはずなんだけど、やっぱりどれも皇国産のとはちょっと種が違うせいか、
品種改良用に入れたかったのは、これかもなぁ。
だけど、これだとまずくはなっても美味しくはならなそう……
おっと……ヤムイモまで混ざっているではないですか!
こいつもサトイモ科じゃないから全然別物だけど……あ、これは青酸化合物を含んでいる品種だから、食べない方がいいものだな。
うーん、長芋とか自然薯だったらよかったんだけどなー。
なんかに使えるかなぁ?
複製できるようにしておくかな。
混ざっているものを取り敢えず特定できたので、後は【文字魔法】でガッツリ分類してしまった。
……うん、神眼さんで再確認しても、もう混ざってはいないね。
「いやぁ……本当に鑑定も何もしないで『見た目』だけで芋を選んでいるみたいですね。これじゃ品種改良なんてできませんよ」
「タクト、その『ヒンシュカイリョウ』って、苦芋の味を変えるってことかい?」
「そうだよ、タセリームさん。だけど、こっちの芋とこれは、苦芋とは全然種類が違うものだからそもそも交雑しない。特に、鏃芋は全く役に立たないと思うよ」
商人さん達がずぅん、と落ち込む。
だけどね、これ、解らないよねぇ……見た目は凄く似ているからね。
一緒くたに大袋に入れられていたら、買う時も袋から全部を出して鑑定なんかしないもんな。
袋に入れたままだった『種芋』の中身も、残念ながら半分は苦味種のキャッサバ。
これ、足りなかったから故意に混ぜたんじゃないかって思うくらいに入ってた袋もあるよ。
カシェナの
そんで、残り全部が
ついていた土は、ほぼ全部がカタエレリエラの苦芋に付いていたものだったから、おかしなものは含まれていなかった。
東の小大陸の土だったら、また面白い粘菌でもいないかなーと思っていたんだけど。
……安心したのか残念だったのか、ちょっと自分でも解らない。
最後に馬場を綺麗に洗浄、浄化してお馬さん達に害が出ないように。
商人さん達はビィクティアムさんの所で事情聴取? ということで、販売できる
食べちゃ駄目なキャッサバとヤムイモは、衛兵隊で回収。
もう皇国には入れないようにした方がいいから、鑑定して覚えるということなのでシュリィイーレ隊が覚えた後セラフィラントにも送られるようです。
暫くして出てきた商人さん達は安心したような顔をしていたので、市場の販売権とか、今後の更新も問題なくできそうだと思いっきり感謝された。
お説教はされたようだし、商人組合にも報告が上がるらしいからなんらかのペナルティはありそうだけどね。
商人組合を通じて今回の鑑定料をくださるというので、お言葉に甘えることにした。
更にお礼にと苦芋をくれそうになったけど、そちらは遠慮しておいた。
タロ芋というかサトイモ科の芋は、うちのお客さんにも遊文館の子供達にも人気がないのだ……
リバレーラ産の
はー、ちょっとお腹空いたなー。
「タクト、ここで夕食でも食べていけ。話したいこともあるから」
ビィクティアムさんにお誘いされてしまったので……本日は東門詰め所の食堂でご馳走になります。
乗馬訓練のこと、確認しておかなくちゃなー。
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