第847話 新しい環境整備
朝の蓄音器体操が終わり、スッキリとしたところで東門詰め所にやってきました。
元気に挨拶をして、ビィクティアムさんに銭湯完成のお知らせ。
近日中にティエルロードさんと衛兵隊でいろいろと検証してくださるというので、お湯にも入ってくださいね、とアピールしておきました。
その後でガスヴェルさんと一緒に向かったのは……試験研修生施設の北側に広がる空き地。
実は今年の冬の試験研修生から、乗馬訓練も加わることになったらしい。
……ま、俺がちょこっと売り込んだのですがね。
いくら配達業務があってデルデロッシ医師の所がそこそこ潤ったとしても、真冬の氷結隧道をパカパカと移動はできないのですよ。
そして今まで冬はどうしても場所的な関係や、餌のこともあってレーデルスの牧場に半分くらいの馬を預かってもらっていた。
その馬達が春になってシュリィイーレに戻ってくると、ひと月くらいはもの凄く甘えたがって大変なのだという。
大好きな家畜医さん達から離れていたからか、場所が変わるストレスなのかは解らないけど。
なので、今年は『馬を移動させないためにはどうしたらいいか』を考えてみましたところ……衛兵隊の訓練に使ってもらったらどうかな、とご提案してみたのですよ。
そしたらビィクティアムさんと、なんとライリクスさんが大層乗り気で、あれよあれよという間に……試験研修生の訓練に加わることに。
いや、別に試験研修生のことなんて考えていなかったんですけどね?
だけど、どうやら騎士位試験に受かった後に近衛に入るにしても憲兵隊や各地の衛兵隊に入るにしても、乗馬ができるというのは結構な強みのようで。
就活にとても有利になる上に、就職先で『訓練したけどやっぱ無理』っていう適性判断をする時間を取られず済むのでは? ってことで導入されることになったらしい。
本日は、そのために使う馬場と厩舎の魔法付与に来たということでございます。
早めに試して、馬達に負担がかからないかを調べておく必要があるとデルデロッシ医師にアドバイスをもらったようだ。
勿論、使われる馬はデルデロッシ医師の所にいるお馬さん達。
家畜医さん達もローテで馬達の状態チェックなどをするので、配務協力も減ってしまう冬場の収入源となるのだ。
馬達は運動もできてハッピー、家畜医さん達もレーデルスに預けなくていいから心配事も減ってラッキー。
ここの整備と建設手伝いや魔法付与で、乗馬を衛兵隊から無料で教えてもらえるから俺としても大歓迎。
「タクトくんの乗馬訓練は、僕が手伝うからね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします、ガスヴェルさん」
以前、コレイルのトターテとセラフィラントのロートレアで騎馬隊に所属していたというガスヴェルさんから教えていただけるのは光栄です。
……頑張れ、俺のフィジカル。
技能の方陣では体力のカバーはできないので、なんとか乗れたとしても筋力がないと方陣のポテンシャルを維持できないのだ。
厩舎と馬場として使うのは、北東門付近の環状紫通りと緑通りに挟まれた北東茜通りまでの試験研修生宿舎のある区画。
元々この区画はぐるりと壁で囲まれているので、範囲指定はやりやすい。
お馬さん達の厩舎は、試験研修生宿舎の紫通り寄り。
宿舎の中からも、厩舎に入れる渡り廊下が造られている。
きっと馬のお世話も試験に含まれてくるのだろう……年々やることが増えるなぁ、試験研修生……頑張れ。
だが、合格者の質も年々上がっていくということになるので……あ、いや、合格が更に厳しくなるってことかな?
家畜医さんが使う四部屋ほどのお部屋が、試験研修生宿舎内の厩舎近くに作られている。
……室内に大きな窓があるので外が見えるのかと思ったら、厩舎の中の様子が見えるんだね……
どうやら、家畜医さん達たっての希望だそうだ。
皆さん、馬が好き過ぎる。
厩舎と馬場の魔法付与は、南門近くの馬場と同じでいいということだ。
つまり『お馬さんファースト』の仕様だから、魔法の使用は方陣のみオッケーということになるだろう。
そっか、試験研修生の方陣使用の訓練と試験にもなっているということなんだな。
魔法整備が終わり、明日から二、三頭ずつ滞在させて様子見をし、この場所を嫌がらない子達に慣れるためにこちらに滞在してもらうようだ。
訓練は明後日からにしようと言われたので、お仕事終了で戻ろうかと思ったら……ティエルロードさんと会った。
そうか、衛兵隊の東官舎の部屋にいるって言ってたっけ。
東官舎は、ここの隣の区画だもんな。
「そうなのですよ。ですが、来月には引っ越しになると思いますので……」
「え、まさか、王都に戻ったり……?」
「いえいえっ! 戻りませんよー!」
ふぁぁ……よかったぁ!
出向の人が、ティエルロードさんから変更になっちゃうんじゃないかと焦ったーー!
「私が正式に賢魔器具統括管理省院の所属になりましたので、色々と手続きができるようになりまして」
「今までは、まだ魔法法制省院だったのですか?」
どうやら新しい省院は、千年以上振りだったらしくて当初は全員が出向扱いだったらしい。
新しい省院だから仕事内容とか必要魔法や技能が解らないこともあって、入れ替わり立ち替わり適性のあるなしを省院長から判定されるだという。
なるほど、研修期間があるってことだったのか。
それが終了して、ティエルロードさんは魔法法制省院から完全に賢魔器具統括管理省院に移籍となったらしい。
そっか、そっか、それで……なんの手続きで、お引っ越し?
「魔法法制省院は『王都に在籍、または住所を持つ者』でないと所属ができなかったですが、賢魔器具統括管理省院は『王都、または赴任地の在籍者』となりましたのでこの町の在籍に変更ができるようになったのですよ!」
おおおおーーーっ!
それは素晴らしいっ!
「聖教会のある直轄地ですからこの町の在籍でも職位銀証ですし、在籍地となれば借家契約も楽に行えますからね。それで在籍地変更ができましたので、家を探している最中なのです。流石に衛兵隊員でもないのに、いつまでも官舎にお世話になる訳にも参りませんからね」
それは実にめでたい!
けど……『職位銀証』って?
「あ、そうですよね。普通は聖魔法が出ない限り、銀証にはなれませんからタクトさんはご存じなくても当然です。貴系でなく、中央省院所属官や憲兵隊、近衛隊など『王都中央区中央街区』に職を持つ者達だけの階位です。なので、その職を離れたり、騎士位が剥奪となったら銅証以下に戻る『職位限定の階位』のことです」
「そういうものもあるんですねー」
「中央の省院や皇宮勤めの従者家系以下の者ですと、そのような『特定の省院に在籍している職位銀証』以上だけしか入れないという場所も、沢山あるのですよ。あと、職位銀証がいるとすれば、第一位教会……領主や次官の町の教会に所属している第三位以上の神官だけです。ですが、それほどの階位の方々でしたら、大抵は聖魔法か聖技能をお持ちですけどね」
そうかぁ……言われてみればそうだよな。
皇宮の茶房にいる料理人達とか、従業員さん達全員が皇系とか貴系傍流の訳ないもんなぁ。
職位銀証って、職場の在籍証明ってことなんだね、きっと。
だから、その人達は入れる場所が決まっているということで、異動になると今まで勤めていた場所でも入れなくなるのは当たり前ってことか。
「引っ越したら教えてくださいね。魔法付与、引越祝いに俺が全部やりますよ! あ、地下室の整備も任せてくださいねっ! 貯蔵庫は完璧にしておかないと」
「そ、そこまでしていただくのはっ!」
「この町の冬……舐めちゃ駄目ですよ? そのためにも、俺に任せてくださいって」
ふっふっふーっ!
ティエルロードさん、ご近所に決まるといいなー!
あ、でも教会に頻繁に出入りするから、きっと近くだよね。
たーのしみーー!
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