第845話 いい感じにまとまりました

「んまー、珍しいものを持ってきてもらったのねぇ」

「シュリィイーレじゃ見たことはねぇもんな、こりゃ……柬瓜かんかと似た料理にすんのか?」

「似ているものだけど種が違うし、こっちの方がほくほくしてて粉っぽい……っていうのかな。だけど、柬瓜かんかより甘いらしいよ」

「じゃあ、菓子か」

「俺、あんまり好きじゃないんだよね……柬瓜かんか……母さん、何か作れる?」

「そうねぇ……食べたことはあるんだけど、作ったことはないのよ。ちょっとやってみるわ」


 ということで家族会議の結果、似宿儺すくなかぼちゃは二、三個を残して母さんに預けました。

 一個が八十センチくらいの大きさだから、二、三個でも結構な量だよな。

 それでは乾燥させて、お馬さん達が食べるかどうかを調べましょうかねー。



 デルデロッシ医師の所に行って、エクウスを存分に撫で撫でしてから家畜医の皆さんとご相談。

 まずは宅配の近況など伺いましたが、こちらはノープロブレムで順調のようです。


 あの青豆嫌いのルトアルトさんがどうやら好き嫌いを克服しつつあるらしく、メニューに菠薐草入りのクレマラグーをご所望とか。

 野菜嫌いが治ったら、きっともっと魔力的に元気になるね!


 リシュレア婆ちゃんもイルレッテさんも随分元気になってきたし、そのふたりを見て態々うちの自販機まで『高齢者用完全食』を買いに来てくださる方々も増えてきた。


 そして実はそんなお年寄りの皆様向け保存食のパッケージには、あるお願いが書いてある。

 皆さんが子供の頃やお若い頃の『シュリィイーレの様子』を書いて、保存食の空き容器と一緒に戻してもらえたら、次のお買い上げ分を一割引きにする『クーポン券』を差し上げるのである。

 

 自販機でお買い上げの時に、このクーポン券をお金と一緒にトレーに載せてくれたら割引価格になるのだ。

 ご高齢者向け完全食メニューは、普通の保存食より使っている食材数が多く割高なのでちょこっとお安くお求めいただけるようにしたのだ。


 だって、他領の伝承とか他国のものばっかりいっぱい集まっても、肝心の『この町の歴史』が少ないのって哀しいじゃないか。

 この『昔話割引き』は、なかなか好評なのでその内それらの話を本に纏めて、遊文館に置く予定。


 イイ感じにできたら、販売してもいいか確認しよう。

 売上げは勿論、全額シュリィイーレの未来のために使わせてもらいますよ。

 おっと、お馬さんの話をしなくっちゃね!


「実は、ウァラクの柬埔寨瓜かんほさいかというものが手に入ったんですよ。これって、馬達に食べさせられますかね?」


 俺がそう言って、スライスして乾燥させた柬埔寨瓜かんほさいかを見せると、皆さんがばばばっ、と寄ってきて頭を突き合わせる。

 うわー、めっちゃ鑑定してるー。

 そして全員で、すっ、と離れて座り直したかと思うと、俺に向かってぱかっと笑顔を向ける。


「最高ですっ!」

「はいっ! 甘味もあり、この乾燥具合も馬にとって非常にいいですねっ!」

「皮が薄いのも、とっても素晴らしいですっ!」

「ええ、これなら馬達は皮まで食べられますよ!」

「それなら栄養も問題ありませんね! 腹の中で、変に気泡が溜まることもないでしょう!」


 おおお、最高評価に等しいぞ、柬埔寨瓜かんほさいか

 さて……デルデロッシ医師の評価は……?


「いい」

「え?」

「いいよっ、これ、すっごくいいっ! これとふすまがあったら完璧っ!」


 デルデロッシ医師、ふすまに拘るなぁ。

 あ、だけどイノブタの餌だと大麦とふすまも含まれているよな?

 ウァラクだと芋も入っていそうだから、芋じゃなくってかぼちゃバージョンの餌をガイエスに頼むか。

 見た目で決めるとしたら、オレンジ色のものが入ってるのって書いといたら解るかな。


「でもでも、これ、ビルトルトは食べるかな……あげて、みようか……な?」

「そうですよ、デルデロッシ医師! あげてみましょうよ。これくらい栄養のあるものを食べてくれるなら、夏場も乗りきれますよきっと!」

「「「ねぇっ?」」」


 ……なぜ、俺を見るのですか、皆さん?


「タクトさんって、動物系の鑑定技能、ないんですねぇ……」

「なくたって、ビルトルトのあの視線に気付かないなんて」


 いえいえ、そんな溜息を吐かんばかりの呆れ顔されましても、なんのこっちゃ解りませんって!


「悔しいけどっ、ものすごーく悔しいんだけど、ビルトルトはいっつも、エクウスを撫でてる時、君の後ろにいるんだよねっ」

「……そうだったんですか?」

「そうなんですよ。きっとあの子も、タクトさんのことが好きなんだと思うんです。これ、食べさせてあげてみてくれませんか?」


 乾燥かぼちゃスライスを手に、裏庭の厩舎の方へ行く。

 エクウスは……あ、寄って来ちゃった。

 よしよしと撫でつつ、食べてみるかと差し出したが……ひと口食べて、ふひん、と鳴いてそっぽを向いてしまった。

 どうも、あまりお好みではないみたいだ。


 そして振り返ると……ビルトルトがいた。

 エクウスには触れつつ、ビルトルトにも手を伸ばす。

 すると少しずつ寄ってきて、ちょこん、と手に触れる。

 くーーっ、可愛いじゃねぇか!

 ポニーみたいなサイズ感も相俟って、可愛さ爆発だぞ、ビルトルト!


「食べてみるかい?」


 差し出した柬埔寨瓜かんほさいかをクンクンと嗅ぎつつ、少しだけ齧る。

 すぐにまた持っていた分を食べたがったので、そのままあげる。

 ふふん、ふふん、と鼻息が軽快なリズムになって、次々に差し出すと持っていた分全部をぺろりと食べてしまった。


 ちょっと離れたところで家畜医さん達のまるで万歳でもするかのようなガッツポーズと、デルデロッシ医師のちょっと唇を尖らせた『むーーん』って感じの対比が面白い。

 よしよし、いい子だねービルトルト。

 まだもう少しあるから、後でみんなからもらうんだよ。


 さーて、ガイエスにはメモ送っておこうっと。

 テトールスさんにも入れてくれって頼めるから、エグレッタさんが来てくれた時に伝言を頼むことにしよう!

 ……旧ジョイダール踏破の祝いは、こっちに来た時にでもしようかな。

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