第839話 意外な人脈?
翌日の昼過ぎには、なんとか俺の体調も復活した。
美味しそうなランチタイムのイノブタ生姜焼きにつられて起き上がり、そのまま厨房でこそこそっと食べてから手伝いに入った。
母さんにはえらく心配されてしまったが、大丈夫だよーと元気回復アピール。
今日のランチはなんだか見知らぬ人が多いな、と食堂を見回す。
そういえばペディールさんが、東市場の前に馬車が多かったと言っていたから、他領から魔石の取引に来ている商人さん達かな?
南側の商議場からだと、青通り沿いは来やすいからね。
その中に……めっちゃくちゃ久し振りの顔を見つけた。
「タセリームさん……!」
「えへへ……久し振りだね、タクト」
「……お帰り。お店、開けるの?」
「うん、そろそろ、ね。今年の冬はシュリィイーレにいるつもりだよ」
以前あったことについては、商取引をしないというだけで、全く挨拶も会話もしないというほどの
タセリームさん、なんだか少し顔つきというか、表情が変わった気がする。
一緒に来ているベンデットさんとも以前はそんなに喋ったりしていなかったし、今までちょっと萎縮していたロンバルさんとも普通に話しているし。
「こんにちはっ、タクトさ……んっ!」
「いらっしゃいませ、ティエルロードさん。こんにちは。あ、みんなも来てくれたんだ!」
ティエルロードさんと神務士トリオが、一緒にやってきたのは初めてだ。
どうやらサミット終了後には一緒に食事に行こうと、約束していたらしい。
ふと、アトネストさんの動きが止まる。
「あ……あなたは……」
「ああっ、君、確かマントリエルのルオアーレで……あれれっ? シュリィイーレ教会の神従士?」
「はい……御縁があってこちらでお世話になることに。行商、ですか?」
「いや、僕はシュリィイーレ生まれなんだよ。そうかぁ、君がねー。あ、神従士の皆さん、聖教会昇位、おめでとう!」
「「「ありがとうございます!」」」
タセリームさんとアトネストさんが旧知の仲とは……でも、ルオアーレってことは『お使い』の途中ででも会ったのかな?
そっか……タセリームさんが戻ってお店を開けるとなると、子供達はまたお店を覗きに行くかもな。
昔は『珍し物屋』なんて言われて、結構面白いものが多かったから子供達も博物館を見に行く感覚で店内を見ていたらしいし。
東・白通りを挟んですぐに緑地があるから、子供達がよく遊んでいる場所なんだよね。
昼食時は屋台も出るし、祭りの時の露店は魅力的なものが多いんだよ、あの緑地は……
どうやらシュレミスさんは、タセリームさんの店の存在を知っていたようで開店するのが楽しみだと会話を弾ませる。
神務士トリオもティエルロードさんもみんな楽しそうで、この町に馴染んでくれてて良かった。
「あ、そうだ。俺、ティエルロードさんの生誕日知らないんですよね。教えてもらってもいいですか?」
「生誕日、でございますか?」
「はい。暦帳に書いておくので」
「なんか照れくさいですねぇ。えっと、
「あーっ! 一緒っ!」
叫び声を上げたのはルエルスだ。
そう、もうすぐルエルスの生誕日……
実を言うと、まだリレリアさんには言っていないが、俺の温室ではスイカができている。
だが、レザムとエゼルが作っているスイカを待っているのだ。
もうすぐ……もうすぐ、できあがるはずなんだよなぁ。
「そうなのか、君と一緒なのは嬉しいなぁ、ルエルス!」
「あれ、ティエルロードさん、ルエルスと知り合い?」
「いつも遊文館で、本を読んでくれるの! ティエルさんっ!」
へぇ、そうだったのか。
おっと、ルエルスの『ティエルさん呼び』にリレリアさんが吃驚しているぞ。
「駄目よ、ルエルス、お名前はちゃんと呼ばないと……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。『ティエル』というのは、家族や友人達からはよく呼ばれておりました。ルエルスくんの友達になれたみたいで嬉しいです」
優しいな、ティエルロードさん。
そっか、同じ誕生日かぁ。
「ティエルロードさん、もしお時間の都合がついたら十五日の昼にお食事にいらっしゃいませんか? できれば……教会の方々もいらして欲しいんですけど……聖神司祭様方は難しいでしょうから、来ることができそうな方々だけでも」
「私は平気ですが……えっと、どうしてでしょう?」
「実はその日の昼に、ルエルスの友達の子供達と『生誕お祝い会』をやるんですよ。ティエルロードさんのお祝いもしたいし、ルエルスの『友達』としてもちょっとだけでも顔を出してもらえたらと思って」
お、ルエルスがとんでもない笑顔になったぞ。
そうそう、折角同じ日に生まれたことが解ったんですから、一緒に祝いましょうよ。
なんだかリレリアさんが困惑した表情をなさっているが、大丈夫ですよ。
スイカは絶対に間に合いますからっ!
「違うわよ……赤水瓜は……多分、大丈夫だと思うんだけど……私が作るお菓子なのよ? そんな、子供騙しのものなんて……っ!」
「もし不安なら、お手伝い致しますよ?」
「……もしかしたら……頼むかも」
しゃしゃしゃーっていうお菓子、楽しみにしているので是非とも!
だけど赤水瓜が、大丈夫って……?
もしかして畑まで見に行っていたのかと思ったら、案の定こまめに様子見に行っていたらしい。
なるほど。
それじゃあ、もう少ししたらまたエゼルが突進してくるかなー。
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