第840話 できました!
暫くは特に大きな出来事もなくのんびりと過ぎていき、セラフィラントに顕微鏡の納品を終えた頃。
そろそろ、俺の魔力的お疲れモードも完全回復してきたので、銭湯の内装を再開しようかと思っていた矢先。
レザムとエゼルが、開店直前の食堂に走り込んできた。
「タクトさんっ! できた!」
「絶対に旨いやつができたよっ、タクト兄ちゃんっ!」
おおっ、なんだかふたり共がキラキラに見えるぞっ!
自信に満ち溢れているからだろうか、精神的にも肉体的にももの凄く状態がいいということか。
新しい魔法でも獲得できたか?
それはさておき、ふたりに続いて俺も『移動の方陣』で北西門へ。
耕作地に入るには、ここをちゃんと『歩いて出て』からもう一度『移動の方陣』を使って、自分達の耕作地近くの小屋などに移動する。
勿論、俺達が『目標の方陣』を置いているのは硝子温室の中である。
雨が降っても雪でもここが一番安全だからね。
今作っているのは勿論スイカと、秋摘みのための苺である。
「タクト兄ちゃん、これこれっ!」
「お、凄いな、こんなに大きくできたのか」
十玉くらいできていたら充分だと思っていたが、二十玉近くができているし全部がもの凄くキラキラだぞ。
うーむ、このふたり、天才かも。
ふたりはドキドキの表情で、できあがりはどうだろうかと俺の顔を覗き込む。
……ちょっと離れたところからラディスさんがこっちを見ているのだが、気になるなら入ってくればいいのにー。
「うん、全部凄く良い状態だ! 早速、ひとつ食べてみよう!」
「やったぁ!」
「どれっ? どれにするっ?」
「エゼルの一番のお薦めはどれだ?」
「これっ!」
レザムをちらりと見ると、どうやら同意見のようだ。
ラディスさんを呼ばないのかと聞くと、父さんは後で、と言われてしまった。
世話をしている時も、絶対に手出しをさせないみたいだとエイドリングスさんが言ってたから、ラディスさんは結構はらはらだっただろうなぁ。
「おや……? あっちの畝は?」
「あ……あっちは……魔法が失敗しちゃって、全然育たなかった……」
なるほど、実は小さくてしょぼんとした感じのがちらほら……葉っぱばかりが大きくなっちゃっている。
育成水の時期と、摘芯を間違っちゃった感じかな。
だけど、ここまでできれば上等だぞ、素晴らしい成果だ!
やっぱりラディスさんも呼んで一緒に食べようと言うと、レザムとエゼルはちょっとだけ互いに顔を見合わせていたけど笑顔で頷く。
お父さんに、成果を認めて欲しくない訳がないからね。
エゼルがラディスさんと一緒に、そして俺はスイカをひとつ抱えてレザムと一緒に北西門からラディスさん達の家へ。
ちょっと台所を借りますよー。
浄化水で洗いながら、神眼で中身の状態までしっかりチェック。
草だから緑属性かと思ったら、赤と黄色が混ざったような感じだな。
お急ぎで【文字魔法】で冷やして、ザクザクとカット。
赤い部分はかなり色が濃いんだけど、皮が分厚い。
皮は漬け物にしようかなー。
瓜だしねー。
「ではまず、そのまま食べてみましょうか!」
みんなの前にみずみずしい、果汁たっぷりの懐かしいビジュアルのスイカが並ぶ。
エゼルもレザムもすぐに手を伸ばすかと思いきや、俺が食べるのを待っているみたい。
それでは、記念すべきひとくち目……
シャリシャリと耳に心地よい音と、甘味の強い果汁……うわー、旨ーー……!
「美味しい?」
不安そうなエゼルに、俺はただ思いっきり笑顔で何度も頷く。
この旨さに言葉は要らないよ。
一斉に齧り付いた後の三人の笑顔も、それを証明しているね。
この赤水瓜もどうやらスイカと一緒で、収穫後は追熟せず味が落ちていくようだから、取り敢えずリレリアさんに渡す一玉とうちで使う十玉をもらうことに。
もう少しこのままの方がいいのが六玉ほどあるので、それだけを残して収穫した。
収穫が終わったら、もう一度畑を整えてから秋植え苺にするんだろうな。
その後で苗を育てて、またスイカもいいよね。
実をいうと育成水で連作障害が出にくくなるかどうかも調べたいから、同じものを作る協力をしてもらおうと思っているのだ。
そしてエゼルとレザムと一緒に、リレリアさんのお宅へ。
赤水瓜を見るなり、めっちゃくちゃ笑顔になって何度も何度もふたりにお礼を言っていた。
「ほらっ、ルエルス! これが赤水瓜よっ! 明後日は楽しみにしててねっ!」
「うん! ありがとっ、レザム兄ちゃん、エゼル兄ちゃんっ!」
ルエルスもふたりが作ってくれたものだと知っているからか、喜びを全身で表すようにぴょんぴょんと飛び跳ねながらお礼を言う。
ふたりはによによっとして、ちょっと照れくさそうだけど達成感に満ちた笑顔は最高だね。
さてさて、どんなお菓子になるのか楽しみだなー!
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