第835話 遊文館で遊びましょ?

 遊文館へは皆さんの『移動の方陣鋼』に登録があるので、エントランスまで移動してもらえる。

 流石に東側から、北西の遊文館まで集団登校のように連なって歩くのは無理がある。

 サクッと移動していただいたエントランスでは、なんだかお子様達がうようよ?


「タクトにーちゃん!」

「お、ルエルス。えっと、なんでみんなここに?」

「なんだー、知らないのー? お昼の蓄音器体操がもうすぐなのっ! だから、ちょっとだけ待ってるんだよ!」


 あ、そういえばそろそろだったか。

 次代様達が『なになに?』『知ってるわ、教会の方々もやっていると叔父上が……』『衛兵隊員も朝にやっていたよな!』なんてざわつく。


「一緒にやってみますか?」


 俺がそういうと勿論皆さんの眩しい笑顔が、まるで真夏の向日葵ひまわりのようですよ。

 保護者チームがそっと皆さんの側から離れるとちょっと不安気にはなるが、ワクワクの方が勝った模様。


「あの壁に『映像』が出ますから、その動きと同じように動いて体操してください。隣の人にぶつかったりしないように、気を付けてくださいね」


 遊文館の子供達の後ろに、すすすっと並んでくれましたよ。


 ♬『蓄音器体操、第一ぃぃっ!』


 子供達が一斉に体操を始める姿に一瞬たじろぐが、皆さんも映像を見て、はい、いち、にっ、さんっ!

 あはははは、上手い、上手いっ!


 ヴォルフレート様が、凄ぇ可愛いっていうか面白い動きをしてる。

 ……意外とガシェイス様の動きが硬いぞ。

 運動不足なのかな、近衛隊第二連隊隊長殿は。


 ティナレイア様とラフィエルテ様は動きがスムース……そうか、賢魔器具統括管理省院に送ったから、それで何度かやっているのかも。

 お送りしたのはお子様バージョンじゃなくて、衛兵隊バージョンだったからこの映像は新鮮だろうけどね。


 オフィア様、めっちゃ真剣な顔でやってて微笑ましい。

 いやいや、笑ってはいけない。

 皆様、真面目で素晴らしいことです。


 体操が終わると、何故か拍手が起こって子供達はお互いに健闘をたたえ合っているかのようだ。

 知らんかった……まるで体育大会の組み体操とかに成功したみたいな、清々しい光景が繰り広げられていたとは。

 てか、拍手って。


「なんですのっこれっ! 楽しいっ!」

「うん、いいな、これは。領地でも取り入れたいものだな!」

「うちに戻ってからもやりたいですわっ!」

「はー……やっぱり肩が解れるわ……」


 お気に召していただけたようで何よりです。

 なんでそんなに息を切らしているんですか、オーリエンス様……運動不足過ぎますよ!

 映像付きはすぐには難しいけど、音源水晶は自販機で販売しておりますので、どうぞ宜しく。

 そうそう、映像確認したい方は賢魔器具統括管理省院にお問い合わせくださいませ。



「あら、あの子達は何をしているのかしら?」

「ちょっと聞いてこよう!」


 本当に物怖じしないというか、臣民との距離が元々近いんだろうなぁ、セラフィラントは。

 テオファルト様はすぐにぱたぱたっと走って戻ってきて、俺に向かってまたお願いモードかっ?


「……あの押印機……やりたい」

「あれは、シュリィイーレも子供達専用なのですよ」


 だと思った。

 俺がそう言うと、明らかにどよーーーんと全員が落ち込む。


「酷い……子供なのに、私達」

「そうよ。今日くらいは、いいじゃない……」

「「「……」」」


 無言の抗議は止めてくださいよ。

 思いっきり他領在籍のいい大人が、何を仰有っているのやら。

 するとビィクティアムさんがちょっと溜息をつきつつ、今回だけ頼めないかと囁く。


「すまん、まぁ……『記念』くらいの感じで」

「はぁ……しょうがないなぁ。じゃあ、冊子を忘れた子達用に『仮押印紙』がありますから、それになら押していいですよ。ただし、ひとり一回だけですからね! みんな一度でひとつだけなんで、それは守ってくださいね」


 仮押印紙はハガキ大のサイズで、暦帳を買っていない子とか忘れて来ちゃった子供達用のものだ。

 そのままだとただの厚めの紙なのだが、スタンプを押すとその部分がシールになる。

 だがこの仮押印紙で押す場合、必ず同じ位置になってしまうので同じ紙に何度もは押せない。

 日付も同時に押印がされるから、まぁ、記念品にはなるだろうか。


 ささっと用紙を持ってきてくれたのは、本日が遊文館受付当番のディレイルさんだ。

 次代様達だと解っているからか、衛兵隊員さん達は動きが素早い。

 その用紙に皆さん思い思いのスタンプを押して、によによしている。


「あっ、僕のは星じゃなかったぞ!」

「あれっ、場所によって違う印だ……うわ、そっちの形の方が格好良かったーー!」

「でしたら、わたくしと交換なさいます? わたくし、そちらの可愛らしいものも好きだわ」

「……自分で押したものがいい」


 童心に返り過ぎな気もするけど、王都に戻ればやることすること山積みでしょうからね。

 今くらいは、構わないかな。

 ではー、暫く自由時間でーす。

 保護者役の方々、よろしくお願いいたしまーーす。


 図書室にいる間は、自由にしててもらっても大丈夫だろうと、保護者チームは遠くから見守る態勢になった。

 俺もちょっとひと息つこうかなー。


 おー、みんな走って行ったなぁ。

 転ばないように気を付けてくださいねーー。

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