第834話 朝市見学に行こう

 なかなか、壮観です。

 お子様ビジュアルになっても、醸し出されるオーラみたいなものでもあるに違いない。

 髪色も目の色も変えちゃったし、皆さんの子供の頃を想像したのではないのだがなんとなく雰囲気は出ちゃうらしい。

 ビィクティアムさんが面白そうに眺めているし、ファイラスさんを初めとする引率の衛兵隊員達も笑っていいのか吃驚していいのか解らないといった風情だ。


「えーと、大体十五、六歳くらいに見えると思いますが、あくまで見かけだけです。実際の体軀は『今まで通り』なので、頭の辺りとか触らせないように気を付けてくださいね」

「えっと、その『気を付ける』のは……僕らの役目かな?」

「当然ですよファイラスさん。あ、衛兵隊の皆さんにも『一般臣民』の迷彩をかけますから。設定は『親戚の所に遊びに来ている子供達』です。ビィクティアムさんもいいですね?」

「俺もか」

「迅雷の英傑が子連れだったら、その子供達が貴族だって吹聴しているようなものじゃないですか。それと皆さん」


 俺は子供ビジュになって、ワクワクとはしゃいでいる次代様達に向き直った。

 バトラム様とかガシェイス様、シュツルス様以外は、そんなに身長は変わらないと思うのだが、やっぱり全員ちょっとだけ低くなっている。


「ここから外に出たら、皆さんは『ただの臣民の子供』です。当然、敬称も敬語もなしで、皆さんが子供の頃の愛称で呼び捨てで呼ばれることになります。でも、不敬罪、礼儀違反などには該当させない。よろしいですね?」


 全員が頷く。

 見た目がお子様なので、素直でよろしいと褒めたくなってしまう。


「そして当然、子供ですから町の人々に迷惑となる行為をしたら、その場できつく叱ります。保護者役の衛兵さん達の言うことを聞かなかったり、我が侭を言ったり、勝手な行動をしたら即時ここ、試験研修生宿舎に強制移動です。その後のお買い物もお土産も一切なし。即刻王都へお帰りいただきます。よろしいですねっ!」


 全員から『はいっ!』という、いいお返事をいただきました。

 このままずっと、よい子でいてくださいよ。


 全員に位置情報の判る徽章を取り付け、三人の衛兵隊員とふたりの次代様(子供)ってことだが、ビィクティアムさんチームだけは三人受け持ってもらう。

 俺は最初はビィクティアムさんチームに同行、その後であちこちにフォローに入る。

 次代様達は解りやすく各領地ごと。

 三人の衛兵さん達は……くじ引きである。


 ファイラスさんがリバレーラじゃなくてマントリエルチームに当たってて、ちょっとほっとしていた。

 逆にシュウエルさんは地元コレイルチームになってしまって、変に緊張していた……傍流とご本家というのは、やはりなんかあるんだろうか。

 それでは、東市場に出発!



 初めての大市場で皆さんはしゃぐかと思いきや……朝市がここまで混んでいるとは思わなかったようで、はぐれないように必死について来てくれた。

 そうか、今まで表に出ても必ず護衛数人に囲まれていて、案内があった上に『自分の前を誰かがふいに横切る』とか『自分のペースで歩けない』なんてことがほぼなかった方々だろう。


 人混みを歩くことに慣れていないから、周りの動きが予測できなくて怖いというのもあるんだな。

 日本人みたいに『ぶつからないように歩く技術』もないだろうからねぇ。


 よくシュリィイーレに来てぶらついているバトラム様とか、基本的にそういうことに拘らないのかビィクティアムさんと一緒にやんちゃをしていたのかテオファルト様くらいだな、のびのびしちゃっているのは。


 それでも自分達の領地のものが売られていたり、それを町の人達が買い求めている姿を見て嬉しそうにする。

 徐々に緊張や警戒も解れ、直接買い物をしてみたりと和やかに市場見学は終わりそうだった。


「楽しいわ! 朝市って、子供達がこんなにお買い物に来ているのね!」

「ああ、吃驚したなぁ。沢山荷物を持っている子もいたけど、あの子は【強化魔法】が使えるみたいだった」

「方陣を使っている子達も何人かいたね。シュリィイーレでは当たり前に方陣札を持っているんだなぁ、子供でも」


 方陣札は最近になってからだと思うんだよな……

 俺が結構描き方を教えているから、自分で試して描く子供達が増えてきているんだよね。

 だけど、他領ではやっぱり珍しいみたいで、特に子供達が自分達で方陣札を使ってまで外で魔法を使うようなことはほぼ見られないらしい。


 自分の魔法でも使うのは家の中とか庭くらいで、家族のいないところでは殆ど使わないのだとか。

 おそらく魔力切れになるまで使ってしまう子もいて、危ないからだと思われる。

 それは解らなくもない。

 ならば余計に方陣札の方が使われると思うのだが、そこまでして魔法を使うほどのことが子供達にはないのだろう。


「そうだねー、子供達が魔法で何かするほどのこと……は、家の中での手伝いくらいのものだろうから」

「ああ……そういえば、遊文館では方陣での魔法が結構使えて、楽しいって言われた気がしますねぇ」


 魔法ができるのは、専用のお部屋でだけですけどね。

 俺とファイラスさんがそんなことを話していたら、ティーンエイジャー・オフィア様から御依頼が。


「タクトさんっ、私達、遊文館に行きたいですっ!」

「……! そうだよ、連れてってよ! 子供なのだし、いいよねっ?」


 ここぞとばかりにお子様モードで乗っかってきたのは、テオファルト様だ。

 ビィクティアムさんがちょっと苦笑いというか、若干睨んでるのをテオファルト様が敢えて見ないようにしているのが面白かった。


 お、ウァラク組とコレイル組も、おめめをキラキラさせてきたぞっ!

 ううむ……まぁ、今のお子様モードでなら……遊文館の中でも他の大人達に迷彩がばれることはおそらくないだろうから……


 よし、市場見学でいい子にできたご褒美(?)ってことで、遊文館の一般フロアも見学してもらうか。

 保護者役の衛兵さん達がいなくても、遊文館内なら……いや、いてもらわないと駄目か。

 むしろ遊文館の中では、市場以上にはっちゃける可能性があるぞっ!


 だけど、それで自警団のおじさん達に怒られちゃうのも、いい経験かな?

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