第833話 やれやれ、ですね
たこパ、大盛況でございました。
たこ焼き屋台を中心に、食堂のあちらこちらで衛兵隊員さん達にサーブを手伝ってもらったお料理がたーくさん並びましたよ。
唐揚げとかミニプパーネ、しゅーまい串と牛焼き串、ミニパンはクロワッサンやらデニッシュやらで、粒なしだけど玉黍粉を使ったパンにはマヨたっぷり。
ラグーもビーフとホワイトとコーンクリーム、ショートパスタのミニグラタンもミートとトマト、ひと口ピザにはオリーブとモッツァレッラと照り焼きチキン……全部レシピをお渡しして、衛兵隊のお料理自慢さん達に作っていただきました。
辛口咖哩のリエッツァは、辛いもの好きのミストラーナさんが作ったらしいので結構な辛さだったみたいだが好評だったようだ。
俺はひたすらたこ焼きをクルクルしていたので、特に話しかけられることもなく皆さん楽しんでいただけた模様。
中身は蛸だけじゃなくて、イノブタだったりチョコだったりとお楽しみ要素もありました。
面白がって入れた種入り神泉辛瓜に当たったバトラム様が、すっげー顔していたけど。
大当たりだったので、あとで景品でも差し上げよう。
スイーツも、ひとくちサイズで色々な種類を召し上がっていただけるプチケーキやアイスなどを用意してあったので、運び込んで並べてもらった。
表面を凍らせた苺のチョコ掛けは、なかなか好評でした。
残しておいてよかったよね、苺。
メロン様は食べ切っちゃって、まだ次のができていないのだ。
レイエルスの皆さんには参加してもらえないから申し訳なかったのだが、時折『材料を取りに行く』振りをして、皆さんのところにもできたてたこ焼きと料理の全部盛りプレートをお届けいたしました。
ごめんねー、実演は今度のお祭りにでも遊びに来てねー!
大きな山だった二日目をクリアしましたので、次代様達的には一段落だろう。
俺も考えていることを大体は喋れたし、妄想も想像も聞いてもらえて結構スッキリして楽しかったんだよね。
なのでそんなに負担でもなかったし、これからもたまーになら全員いっぺんじゃなくても個別に教会で日帰り限定とかなら、お話ししてもいいかなーなんて考えている。
……言わんけど。
だが、俺としては明日の市場見学の方が懸念事項なのだ。
いくら隠蔽してたとしても、十七人もの見知らぬ買い物慣れしていない大人が、ぞろぞろと護衛付きの集団行動は怪し過ぎる。
かといってひとりにひとりずつの護衛をつけても、衛兵さんに守られる人なんて『お貴族様です』と言っているようなものだろう。
しかし……護衛なしなんていう無謀なことはさせられない。
と、いうことで、皆様には『お子様バージョン隠蔽』で、はしゃぎ過ぎても市場での買い物に慣れていなくても保護者付きでも、怪しまれないようにしようということになっているのである。
この場合、護衛には『保護者』という役割で隠蔽をかけるので、子供バージョンの皆さんがうっかり楽しさのあまりはっちゃけてやり過ぎたら『叱れる大人』でいていただかなくてはならないのだ。
胃が痛くなるでしょ?
頑張れ、シュリィイーレ衛兵隊の精鋭達。
そんでもって、引率は衛兵隊の方々と勿論俺も含まれちゃっているので、くじ引きで担当の『お子様』を決めねばならないのである。
あ、ビィクティアムさんだけはいつも通りの格好で、テオ様とヴァイダム様の担当に決まっている。
このふたりは間違いなく『はしゃぐ』と解っているというか、諦められているので確実に怒れる人に見ててもらうのだ。
俺としては理性的なオフィア様とか、リバレーラのおふたりとかがいいなぁ……
さて、一緒に行くのは朝市なので、今日は早寝しようっと。
「おはようございまーーすっ!」
皆様お集まりになっている談話室に入るなり、端の方だけ『どよん』としている空気が流れて……なくて、溜まっている。
なんだ、なんだ?
俺の姿を見つけたテオファルト様とアルリオラ様がこそこそっと走り寄ってくる。
どうしたんだ?
「タクトくーんっ、助けてくれー!」
テオファルト様に似合わず小声なのに、かなり切実そう。
そして、しゅんとしているアルリオラ様……何かやらかしたのですね、お二方?
「昨日、わたくしがちょっと、無神経なことを口走ってしまったのよ……」
「一体何を?」
「じ、実は……」
若干、もごもごと口ごもりつつも教えていただいたのは、昨日の夕食後のこと。
血統魔法と盟約の話になった際に、自分達の『絶対遵守魔法』が今の皇国でどう役に立っているのだろう、という話題になった。
その時にうっかり、アルリオラ様が『雷って攻撃以外にどんな役に立つのかしら?』と言ってしまったらしい。
あー……なるほどねー。
魔獣と戦うための英傑の血統魔法は、攻撃重視で使われるものが結構多いのだ。
当然『絶対遵守魔法』も攻撃に使うと強いものであるが、そうでない時だって役に立つ魔法である。
攻撃だけと思われがちなハウルエクセムの【塊岩魔法】は、大地に田畑を作るためや建設にも使われる。
それに、リンディエンの炎系の魔法は人々の生活全てに必要な『火』の根源。
ヴェーデリアとドミナティアの氷系は食物の保存や状態のキープには絶対必要になるし、キリエステスの方陣関連は魔法の発現がなくても生活に支障が出ないようにするサポート。
ナルセーエラの精神系魔法は看破・鑑定に使っても非常に優秀だし、圧力や重力系であるクリエーデンスの魔法もあらゆる場面で活躍する。
そして、ロウェルテアなんて水系という生命に欠かすことのできないものだ。
確かにセラフィエムスの【迅雷魔法】は……想像ができないのかもなぁ。
「その時に俺もさー、なんで【
「それで、ビィクティアムさんが凹んじゃったんですね?」
部屋の隅っこで無表情なのにどんよりオーラ出しまくりのビィクティアムさんに、他の皆さんも居たたまれないといった様子。
もー、変なところでメンタル弱いんだからー。
あ、いや、変でもないか。
皇国のために役に立ちたいと誰より願っている貴族が、なんの役に立つか解らないなんて言われたら凹むよな。
それにきっと、他の誰に言われるより自分の扶翼であるテオファルト様と、妻の家門のアルリオラ様に言われちゃったのが落ち込みに拍車をかけたんだろう。
その他の人達に言われたんなら、翌日まで引き摺るほどじゃないんだろうけど。
「まったくもぅー……誰が何を言ったって、テオファルト様が味方じゃなくてどーすんですか。セラフィラント扶翼の名が泣きますよ」
「……面目ない……」
わんこが『きゅーーん』って凹んだが、もっと怒られるべきだぞ。
俺はずかずかと無遠慮にビィクティアムさんに近付く。
周りの空気はピリピリ。
テオファルト様はさめざめ、アルリオラ様はドキドキだろう。
「おはようございます、ビィクティアムさん」
「……ああ」
「なーにを朝から気分曇らせているんですか! 迅雷の英傑が情けないですよ」
「……」
ビィクティアムさんって、落ち込むと喋らなくなるんだよな。
それを悟られまいと表情を変えなくなるから、逆に判りやすいんですよねぇ……というのが、ライリクスさんの分析である。
その通りのようですな。
「雷って、植物の成長にとても貢献するものだって知ってます?」
俺がそう言い出すと、ちらりとテオファルト様に視線を向けて『喋ったな?』感を出すビィクティアムさんだが、構わず続ける。
「昨日、大気の中に魔効素と魔瘴素があるのを見ていただいたじゃないですか。その他にも大気の中には多くのものがありまして、その中には『窒素』と『酸素』というものも含まれているんです。大気に雷が走ると、その窒素と酸素が結びついて『窒素酸化物』というものに変化します。それが雨などで地上に降り注ぐと、植物の成長に欠かせない栄養になるのですよ」
あ、憮然としていた表情から険が取れた感じ。
「特に稲にはよい影響でしてね。雷のことを『稲妻』と言って、稲にとっての素晴らしい伴侶のようだと讃える呼び名まであるのです」
「そう、なのか?」
「雷の多い年の米は、非常に豊作になると言われていますよ。それに【迅雷魔法】に関しては、そもそもが浄化系の魔法や聖魔法と併せて使うことが前提な気がするんですよねぇ」
お、皆様がじりっとこちらに寄っていらっしゃいましたぞ。
てか、テオファルト様とアルリオラ様はもっと、こっち来てっ!
ふたりして『お兄ちゃんが怒ってるーー』みたいに、隠れてぐずぐずしてちゃ駄目でしょっ!
アルリオラ様はビィクティアムさんより思いっきり年上なんだから、もっとしっかりなさってお姉さまっ!
「【雷光魔法】でも見られる現象なんですけどね。聖魔法とか浄化、清浄と一緒に使うと、大気中の魔効素が活発に動き出すんですよね。そんで『青っぽい光』が出るんです。閃光仗の殲滅光の光みたいなやつですね。で、光と一緒に魔効素が循環して、閃光仗に魔力を供給します。だから、使用者は自然放出魔力程度で使える訳なのですよ。それが迅雷だともっと大きくなって、雷と同じように窒素酸化物というものを作り、それが魔効素とも結びつく。だから……稲のようなものだけでなく、樹木の育成になるのではないか、と思っているんです」
俺がそう言うと、シュツルス様が目を剝いて『それだったのか!』と大声を上げた。
……結構吃驚しましたよ。
「以前、ビィクティアム殿にご助力いただいた、国境門外の魔虫の大量発生……あの時に迅雷をお使いいただいただろう?」
「あ、ああ……あれは【迅雷魔法】を、閃光仗で放ったものだ。橋の時は【迅雷魔法】だけだったが……」
「そう、そうだったな! ビィクティアムが魔虫と魔獣を退けてくれたあの時から、国境門外側の森が途轍もなく豊かになったんだよ!」
ラシード様もシュツルス様に同調するように、声を弾ませる。
だけどまだ、ビィクティアムさんは少し懐疑的な声色だ。
「それは、星青の境域が復活したからだろう?」
「いやいや、それだけではないだろう、あれは。なにせ今まで国境の外の森では、葉は黒ずみ花が咲いたことなどなかったのだ。それが、木々が青々とし、美しい花の咲く木が何本も出てきた。だが、迅雷の放たれていなかった国境門内側の木々には……そのような現象は見られていないんだ」
「星青の境域復活だけでは全く理由が解らなかったのだが、今のタクト殿の説ならば納得がいくぞ!」
ほほぅ、これはまた興味深い……図らずも仮説が実証された事例があったとは。
それでは、更なる援護射撃など致しましょうか。
「迅雷は組み合わせる浄化系や、聖魔法の種類によって色々な効果が見込めそうですが、総じて『森を育てる魔法』なのかもしれませんね。俺としては、作物を育てる方に使って欲しいですけどねー。セラフィラントの米を、美味しくして欲しいですからねー」
俺がそう言うと、ビィクティアムさんの表情はまだ少し硬いものの、頭ぽんぽんからのぐりぐりになったのでご機嫌は直ったかなー。
そして小さい声で『ありがとうな』と聞こえたので、笑顔だけ返しておいた。
テオファルト様とアルリオラ様は、ビィクティアムさんにもう一度しっかり謝ったみたいだし、皆さんもほっとしたようなお顔ですね。
あ、テオファルト様、軽く小突かれた。
うーん、悪戯して怒られたわんこだよな、あの風情は……いや、ご主人様間違えて他の人にくっついて行っちゃって回収された時……って、どっちもわんこだな。
さてさて、ビィクティアムさんもすっかりニコちゃんになったことですし、皆様に『お子様バージョン迷彩魔法』をかけますよっ!
並んでくださーーい!
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次話の更新は7/1(月)8:00の予定です
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