第832.5話 お祭りたこパ!
「……無理、こんなに頭がパツパツなのよ? 何を食べられるって言うの?」
「同じ気持ちよ、エッティーナ……」
「解ってくださって嬉しいですわ、リザリエ様」
「何を言ってるんだよ、食べ物が入るのは頭じゃなくて腹だろう?」
「……聖神司祭様もだけど、どうしてそうもお気楽なのかしら、カルティオラって」
「テオファルト様の楽観的なところって、時々憎らしいわ」
「えぇえー? 酷いよぉ、リザリエ」
「羨ましいんだよ、リザリエは。いつも私には、もっとセラフィラントに近かったら遊びに行きたいのにって言っていたよ」
「そういうことを言うから、あなたは嫌いなのよっ、ティナレイア!」
「照れなくっていいって。ちょっと素直じゃないよね、リザリエって。ふふふっ」
「……もぅっ」
「お待たせいたしました、皆様。食堂でお食事をお楽しみいただけます」
「食事は楽しみですけど、やはりタクト殿の言ったことが衝撃的過ぎますねぇ……あの映像のことも思い出されて、食欲があまり……」
「あなたもですか、クリエーデンス卿……僕も楽観的なことには自信があったのですけど、昨日からとんでもなく落ち込んでいますよ」
「「それは珍しい!」」
「……ふたり共酷いなぁ……ヴォルフレートとバトラム殿には言われたくないですよぅ」
「着いてすぐにタクト殿に、売り込みしようとしていたやつとは思えんということだよ、ヴァイダム」
「反省しているよ、それについては。とてもじゃないけど、この三日間でそんな話なんてできそうもないって解ったね」
「ん……? 何やらいい香りだな」
「あっ、お肉の焼ける匂いだっ! 牛肉ですかね、これっ!」
「食欲……ありそうじゃないですか、ヴァイダム殿……」
「半分は無理矢理で半分はヤケですよ。美味しいものでも食べなきゃやってられない気分になってきました」
「いいじゃないか。空腹を抱えて悶々と考え込むより、旨いものを食べてから皆と話し合った方が、絶対にいいに決まっとる!」
「「「「おおぉーっ?」」」」
「「「「「まぁぁぁっ!」」」」」
「うわ、すげ……こんなに食べ物が並んでいるのは、どういうことだ?」
「座席が決まっているのでは、ないのかしら?」
「こちらの皿にお好きな料理を食べきれる量をお取りになって、お好きな席で召し上がってください。何を何度召し上がっていただいても構いませんが、お薦めは『たこ焼き』です」
「たこ焼きとは、確かタクト殿の自動販売機に入っていたものだな!」
「はい、それを今この場で、蛸だけでなく色々な中身を入れて作ってくれるんですよ、タクトくんが」
「ほっ、本当か、ファイラス殿っ! それは噂の『実演』というものであるなっ?」
「なんです、実演って? 食べるのに、何を……」
「食べる分を目の前で作り上げ、すぐに食することができるというものだそうだ! 傍流の者達が祭りの度に催されるのを、えらく自慢しておってなぁっ!」
「ゲイデルエスの傍流の方って、シュリィイーレに多いんでしたわね。あ……そういえば、うちのお祖母様も手紙で自慢気に……」
「うちの傍流家門の方々も、タクトさんの『プパーネ』というものを沢山買ったと言っていたわ」
「プパーネの小さいものが、こちらにございますよ。あ、でもこれはどんなに美味しくてもひとつにしておいて、他のものをひと通り召し上がってから『部屋で食べる用』をお持ちになるのをお薦めします。お腹いっぱいになっちゃいますからね」
「解ったわ、ファイラス! まぁぁっ!
「少しずつ、色々な料理を召し上がってくださいねー」
「ほぅ、これは壮観だな」
「タクトくんの料理本で作ったものばかりですけど、衛兵隊員達が頑張ったんで長官も召し上がってくださいね」
「ああ、楽しませてもらう。あそこは『たこ焼き』か」
「はい。やっぱりあの作り方は不思議みたいです。あ、たこ焼きは三個ずつ違う中身をお楽しみいただけるみたいですよ」
「……テオのやつ、子供みたいだな……」
「私としてはあの堅物……いえ、クリエーデンス卿があんなに張り付くようにしてご覧になっているのが、信じられない気持ちです」
「はははっ! それだけ楽しんでもらえていれば、タクトも喜んで作ってくれるだろう。よし、俺も食べに行くかな」
「んっまぁっ! ころころって丸くなったわっ!」
「なんって可愛らしいのっ!」
「うーむ、器用なものだな。これはかなりの技術が必要だな!」
「こふっ、こふぇ、あふぃっでふょっ」
「熱いのだな……よし、ちょっと気をつけて食べよう……ぅあっつ! 中と外と違うぞ、熱さがっ!」
「はふっはふっ、ふぃー……あ、口の中、微弱回復の方陣札、使いますか? マクレリウム卿」
「……すまん、使わせてもらう。旨いが熱過ぎる……が、癖になる味だ。うむ、旨いっ!」
「なんだっ? 熱くて辛いのも……うおっ! 口の中が痛いっ!」
「え、辛いのもあるのですか、ゲイデルエス卿? ええー、どれだろう? 辛いの好きなんですよねぇ、私」
「たこ焼きの熱さにこの辛さは……いたたたっ!」
「私のは辛くない……あっ、咖哩の入ったリエッツァ? うわ、これは美味しいっ!」
「……リヴェラリム卿は、こんなに辛くても食べられるのか……」
「あ、何を一緒に食べているのだ、ラウレイエス?」
「ふふふふふ、熱いものを食べた後に冷たいものを食べると、いくらでも入りますしめちゃくちゃ美味しく感じるのですよっ!」
「冷たいもの? あっ、冷菓があるっ! うわーーっ、ショコラのかかった苺? 苺なのになんで甘いんだよっ!」
「そういえばシュリィイーレの苺は、皇国一の甘さだと伯父様が仰有っていたわ……んーっ、美味しいぃっ」
「……アルリオラ様?」
「邪魔をしないで頂戴、ラシード。わたくし、絶対に全種類食べたいの!」
「ええ、あちらの端から全ていただきましょう!」
「ご一緒させてください、オフィア様!」
「私達は、こちらからにしましょうっ!」
「さっきは、絶対食べられないと言ってなかったかい、リザリエ」
「まぁ、テオファルト様ったらなんて昔のことを! 頭を使うとお腹が空くって解ったのよっ! こんなに美味しそうで楽しそうなのに、食べられないなんて甘ったれたこと言っていられないでしょっ!」
「それについては賛成ですよ、ゼオレステ卿」
「同志を得た気分ですわ、キリエステス卿。では、参りましょうっ!」
「これ……確かにとっても楽しいのだが……今日、タクト殿から聞いたことの半分以上が、吹っ飛んでしまった気がする……」
「今はいいじゃないですか。資料を読んだりしたら、また思い出しますよ。あの衝撃は、とてもじゃないけど忘れられませんし」
「ふむ、そうだな……よしっ、では心置きなく楽しむことにするかっ!」
「それが良いですよ、ノルティシュ!」
「あ、その揚げ鶏、凄く旨いぞ、オーリエンス。だが、こちらのものは中に乾酪も入っている」
「……結構ちゃんと楽しんでいるんですね……」
「「美味しいですぅぅぅ!」」
「エッティーナとフィオレナって、なんだかんだ言ってよく食べてるわねぇ」
「「美味しいですからっ!」」
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