第831話 魔効素と魔瘴素の関係性
場所を移して談話室。
思いの外、皆様と話が弾んでしまった(?)ので視聴覚室でずっと話し込んでいたのだが、そろそろお茶にしたい気分ですよね。
紅茶片手にバトラム様が俺の正面に座る。
……なかなかこの距離で話すことって珍しいよね、ビィクティアムさん以外だと。
「話を蒸し返すようですまんが、もう少し伺いたい」
「はい、なんでございましょうバトラム様?」
「魔瘴素を完全に消し去れば、いや、全ての場所からは無理かもしれんが、皇国からだけでもそれができたとしたら、魔虫や魔獣が寄りつかなくなる……ということなのだろうか?」
「極論ですねぇ……もしそれができたら、魔獣も魔虫も近寄らないかもしれないですけど……人もその場にはいられないと思います」
バトラム様だけでなく、殆どの方々が『ええぇー?』って顔になったなぁ。
ここで、どことなく得意気なテオファルト様がちょっと咳払いなどしつつ話し出す。
「昼前に言ってた、裏と表……ってやつだよな、タクトくんっ!」
「はい、そうですね。魔効素と魔瘴素は比率が違いますけど、そういう関係性です」
……なんだろう、ゴムボールをとってきて、ぶいんぶいんとしっぽを振ってるわんこみたいだぞ、テオファルト様。
レイエルス家門に負けず劣らず、わんこ家門かもしれないなカルティオラ。
「魔瘴素と魔効素の関係についても、お渡しした資料に詳しく書いてありますが……まぁ……俺の個人的なことを含めてもう少し……えっと、もう一回、魔効素などが視える魔法をかけてもいいですか?」
「勿論よ、タクトさんっ!」
おお、オフィア様がめっちゃ前のめりだ。
では遠慮なくー。
「まずはー、緑に色が付いているのが魔効素です。それから……」
皆さんが頷いているのを確認したら、切替。
「今、濃い橙色に色付けしたものが……魔瘴素です」
まるで雷光でも走ったかのような衝撃だったのだろうか。
皆様が驚いて俺に振り向く背景が『ドギャーーーン!』って感じだぞ。
魔効素ほどではないが、ちらほらと空中に漂うオレンジの粒が視えている。
全員が驚愕と混乱の浮かぶ表情になり、慌てて口を塞ぐ方や手で振り払うような仕草をする方もいる。
「あ、大丈夫ですよ。魔瘴素は『結びつくもの次第』ですけど、このままだったら人が吸い込んでも毒性はないですからね。それと、この程度の少量の魔瘴素を大気から吸い込んでしまっても『正常な生命体』は、すぐに外に出せちゃうか消せちゃいます」
ここでもう一度、魔効素視認スイッチもオンにする。
「魔効素と魔瘴素のどちらも違う色で視えるようにしました。魔効素が、幾つか集まって魔瘴素を取り囲んでいるのが解りますか?」
「う、うむ、目の前でまさにそれが……おおっ! 橙色が消えたぞっ!」
「えっ? あ、本当ですわっ! まぁぁ……」
「おい……これって、魔効素が魔瘴素を消していっているのか?」
「そのように視えるな、シュツルス……」
正確にはちょっと違う。
魔効素は、魔瘴素を取り囲んでいる……という感じなのだ。
いやいや、それも違うんだよなぁ……えーと、ちょっと拡大して見せちゃおうかな。
まだ試作段階だけど『魔効素顕微鏡』お出ましーーっ!
「タ、タクトさん?」
「はい、ラフィエルテ様?」
「それ……まだ賢魔器具統括管理省院には……?」
「まだ何も。作ったばかりなので、試作品なのです。もうちょっと使いやすくて、格好いい形にならないかと思っているのです。でも、どうせなら皆様にも『魔瘴素と魔効素を拡大』してご覧いただこうかと」
あ、ビィクティアムさんが天を仰いでしまった。
大丈夫ですよぉ、既存のものとちょっとだけ違うものを見られるだけですからー。
セラフィラントにお送りする分も作りますからね。
しかし、皆様ひとりひとりに覗き込んでいただくのは、ちょいとタイムラグがあり過ぎてしまって反応が終わっちゃうんだよね。
だから、以前試験研修生達にノートを見せた時に使った『拡大投影機』を組み合わせてございますので、壁にロールスクリーンを引っかけてそいつに投影いたしますねー。
「これは周りが暗くないと見づらいので、部屋の明かりを落としますね。あ、その前に空気をこの中に閉じ込めて……」
硝子製で小さくて薄めのスライド箱に、検体を入れ込む。
空気なんでね、ボックスタイプのプレパラートなのですよ。
まぁ、水の場合でもこのケースの方が色々都合がいいんだよね、こっちの世界では。
ちょちょいっと調整して、ピントを合わせて……ほい、できあがり。
これだと、レイエルスの皆さんも見られるからねー。
「本来の大きさではなく、この魔道具を使って拡大投影しています。緑の粒が魔効素、それより小さい橙の粒が魔瘴素です。ここいら辺りを見ててください。五つの魔効素が魔瘴素に集まってきましたよね」
「……本当だわ。くっついたの? 魔瘴素に?」
「そうですね、エッティーナ様。魔効素は魔瘴素一粒の周りを五粒で取り囲んで、魔瘴素が他のものと反応してしまうのを防ぐんですよ。それでは次の箱……さっき映像でご覧いただいた『旧ジョイダールの石』の欠片をほんの少し入れてあります」
薄ーく石の欠片を敷きつめた硝子箱に、空気が入れられたものを顕微鏡にセット。
魔効素は懸命に空気中の魔効素を取り囲もうとするが、一粒、二粒がその石に触れる。
すると、魔瘴素は石の中にすーっと入り込み、空中の魔効素は追跡を諦めてまた空中に漂い始める。
魔瘴素を吸い込んだ石は、うっすらと色を変える。
するとその色に吸い寄せられるように他の魔瘴素も石を目指しはじめ、魔効素達の空中キャッチのスピードが間に合わなくなる。
ここで活躍するのが、さっき合体した『魔効素玉』である。
いや、玉って程丸くはないんだけどね。
他にいい説明が思いつかなかったんだよ。
魔効素玉は魔瘴素単体よりも更に素早く石に取り付き、魔瘴素が石に吸い込まれるのを防ぎ始めるのだ。
そうして石の中に取り込まれている魔瘴素もじーんわりと吸い上げながら、消えていく。
その時には取り込んでいたはずの魔瘴素は完全になくなっており、石も元の色を取り戻していた。
「この『魔瘴素が石や土の中に入る』という現象は、清浄な大地ではさほど問題にはなりません。ですが、もともと魔瘴素を含んでしまっている穢れた石や土では、魔瘴素は通常より多く入り込みやすいのです。だから、魔効素はそうならないために魔瘴素を取り込んで『魔効素玉』になり、大地に蓋をしつつ浄化していっている……と思われます。これは魔瘴素を取り込まない魔効素単体では、できないことみたいです」
大気中の魔瘴素を大量の魔効素で捕まえまくり、大地や植物達や動物達、そして人々にに降り注いで大地に浸透している魔瘴素の浄化を促しているのだ。
ま、この辺はまだシークレットですが。
「このように、魔瘴素は魔効素に取り囲まれることによって『有益なもの』になります。この『魔効素玉』は、多分呼吸で体内に取り込まれた魔瘴素と魔効素でも作られていると思われます。この魔効素玉こそが、魔力にも必要な要素のひとつですからね。魔瘴素が完全になくなってしまったら……魔力もなくなっちゃうかもしれないですよ?」
ざわっと皆様から驚きというか予想外だったというような声が漏れ聞こえますけどね、お渡しした資料に書いてありますってば。
まぁ……生命の書の三倍くらいの分厚さになりそうだったんで分冊したから、まだ読み終えてはいらっしゃらないでしょうけどね。
だけど、実際に魔効素と魔瘴素を見せて解説できたのは、解りやすくできたと思うので結果オーライかなー。
魔瘴素は、元々この星を『惑星』にした時に神々が押さえ込んだエネルギーの一部が変換されたもののひとつではないか……ってのが、妄想エクスプレスの停車駅のひとつなんですけどね。
それは、魔効素も一緒。
この星に魔力があるのは、神々が『この星を整えた時に生まれたもの』が生命に影響しているからだと思うワケですよ。
だから、遼遠の天からやって来た神々次第とか、元々その星にあった要素次第で『整え方』が変わるはずなので……他の星がもしも神々の手によって生命を作られていたとしても、魔力があるかどうか解んないよね。
……なんてことまで言ってしまったら、なんで遼遠の天のことを語れるのか、なんて話に飛躍してしまうのでお口にチャックですが。
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