第827.5話 ランチタイムの次代様達
▶ 試験研修生宿舎・食堂
「うん、旨いな」
「ああ……凄く美味しいね……」
「「「「「……」」」」」
「如何なさった、義姉上? タクトの料理なのだが、口に合わないのであれば無理には……」
「いえ、違うのよ、ビィクティアム……なんて言うか……本当に全く思ってもいなかった答えばかり、返ってくるのですもの……あら、これ人参? 美味し……」
「ええ、アルリオラの言う通りよ。あんな考え方をなさっているなんて、驚くに決まっているわ。まぁ、茸も美味しいわね……これ、噂の『醤油』ね。明日買えるかしら」
「なるほど。まぁ、あれでもあいつの考えの一部でしょう。これからも俺達の凝り固まった考えとは、違う見解が語られると思いますよ。それと醤油は人気があるので、事前にタクトに頼んでおく方がよろしいと思います、オフィア殿」
「ビィクティアムはあんな話をよく黙って聞いていられるなぁ。ふぉっ、この甘藍、旨いな! え、亜麻仁油ってなんだ?」
「テオだって黙って聞いていただろうが」
「何をどう口出ししていいかも解らなかったんだよ!」
「私もカルティオラ卿と同意ですよ……神々のことをあのように読み解かれているなんて……衝撃的でして……あ、本当だ、甘藍、美味しいですね」
「キリエステス卿としては『ニホンゴ』で使える方陣が描けるというのも、驚きでしたよね」
「ええ、そうなのですよクリエーデンス卿……神約文字が他にもあるなんて……目の前で方陣を起動されるまで、信じられませんでしたよ。このイノブタも凄く美味しいです……なんですか? トンカツ?」
「完璧な……道筋……全ての生命にそれがあると仰有ってましたよね、タクトさん……」
「うむ、そう言っておられたな。それはつまり、人だけではない……という意味だな、ビィクティアム?」
「だろうな。バトラムも随分と静かだったな」
「オフィア殿が色々と聞いてくれていたのでな。命の全てに道など……どういう考え方でああ思われるのかが全く解らんが……納得もしている」
「ええ、わたくしもですよ。わたくし達は……どこかで神々のお力を軽視してしまっていたのかもしれないわ……自分達の想像できる範囲で、神々に限界があるなんて思い込んでいたのだわ」
「私もその点は衝撃でしたわ、オフィア様。いつの間にか人と神々を並べてしまっていたのかもしれないと、愕然として声も出せませんでした。タクトさんがああも様々なものをお創りになれるのって、神々の『鏤められた叡智』をお受け取りだからなのね……まぁっ! これっ、玉葱だわっ! こんなに甘いなんて……もうっ、タクトさんの作るものって、どうしていつもこうなのっ!」
「ラフィエルテ、食べながら怒らないで」
「怒ってなんていないわよ、ティナレイア。美味しいだけよ!」
「これに慣れてしまうと、確かに王都の食事は味気なくなってしまうわねぇ……卵黄垂れも自動販売機で買えるのかしら?」
「買えますよ、オフィア様。自動販売機は誰でも気軽に使えますから。明日は、隠蔽魔法をかけさせていただいてからの移動となりますが、よろしいですか?」
「ええ、それも楽しみだわ! ふぅ……美味しいわねぇ……この黄花清白には卵黄垂れが必須だわ」
「全てが既にある……それに気付くだけ、か。タクトらしいと言えばそうだが、あいつの知識量はとんでもないからなぁ……一体どれほどの『道』が見えているのやら」
「【文字魔法】って、読んだ本の記憶も全て残るような魔法なのかしら? 血統魔法なのよね……もうニファレントの血統はいないのだから……継げない魔法なのよねぇ?」
「リザリエ様もそうお考えになったのね。確かに勿体ないとは思いますけど……私、【文字魔法】は、血統魔法かどうか怪しいと思っていますの」
「あら……血統由来でないとしたらなんだというの、フィオレナ?」
「私は、聖魔法のひとつだと思っておりますのよ。だって、タクトさんは今、遊文館で子供達に文字の書き方やその成り立ち、方陣まで教えていらっしゃるのでしょう? それって……予兆と経験の積み重ねをさせているということでございましょう? シュリィイーレの子供達に聖魔法である【文字魔法】の顕現があれば、と思われたのではないかと……」
「ヴェーデリア卿の言にも一理あるな。儂もその可能性は……うぉっ! この小麦、エイドリングス……大叔父上の作られたものだとっ?」
「あら、シュリィイーレで小麦を?」
「うぅむ……趣味の畑にかかりっきりだと、叔父上達が言うておったが小麦までお作りとは……旨い……」
「どうした、ラシード?」
「ああ……このパンやトンカツの上にも、魔効素は降り積もっているのだろうか、と考えてしまった。あんな風に『可視化』? というものができるなんて……一時的にあの場でだけ、私達がタクト殿の魔眼と同じ状態になったということだろうか?」
「いや、あれはおそらくタクトの視たものを共有したとか同じような目になったというのではなく、本当にその場に存在している魔効素に色をつけた……ということだと思う。あいつには色彩に対する魔法があるから、あると解っているものならば色をつけることができるのだろう」
「存在の確信と理解が、そのような魔法になるということか……」
「うむっ、どうあってもやはり根源は『知っているかどうか』だろうな、ラシード」
「そうだね、シュツルス……ああぁぁー、もっと子供の頃から勉学に励んでいたらなぁぁぁ!」
「……無理だろうな。子供の頃に知っていたとて、きっと芋作りのことばかり調べたのは変わらんと思うぞ」
「この芋も旨いね。今度うちでもこういうの、作ってもらおう……こっちの野菜の煮詰め……えーと『ソース』? というのも旨い……」
「そういえば、これはまだ売り出していなかったな。採算が取れないものなのかもしれんな」
「この周りのサクサクが、乾燥させたパンの粉とは全く思いもよらなんだ! イノブタの『カツ』というものも良いが、鶏の肉で作っても旨いだろうな、これは」
「確かそれも、タクトの食堂では出していたぞ、シュツルス。紫蘇が巻かれていて、旨かったな」
「流石、タクト殿だっ!」
「自動販売機、楽しみだなぁ」
「やっぱり君が羨ましいよ、ビィクティアム……ああ、タクトさんが、うちの小麦でどんなものを作ってくれているのか確かめに行きたい……」
「もっと考えることがあるだろうが、今回は」
「……あり過ぎて逃避しているんだよ。頭の中は大混乱さ。なんだよ、完璧に変化変容する生命って!」
「神々のお創りになるものだ。私達に全てが解ろうはずもないだろうよ、ヴァイダム殿」
「達観していらっしゃいますね、ヴォルフレート殿は。はぁぁ……」
「そう言えば……タクトはロンデェエストの
「それは本当なのかっ、ビィクティアムっ? も、もしかして、噂のぽんぽん黍にしてくれるのかいっ?」
「さぁ……そこまでは……あれは確か、玉黍でも珍しい種類の物だけだと言っていたから、別の料理かもな」
「そうか、別の料理でも食べてみたい……よぉっし! 色々な種類の玉黍を集めるぞっ!」
「……お気楽だのぅ、ヴァイダム殿は」
「楽しいことを考えていないと、全部の思考が停止してしまいそうなのですよ、ガシェイス殿。なにせ、昨日から情報が多過ぎてっ!」
▶ 衛兵隊南官舎・一階の部屋
「大丈夫か、ショウリョウ」
「ああ……大丈夫です。それにしても……タクトさんのお考えは、私達には捉えどころがないというか……理解するためには、全く違う知識が必要なのではないかと思えますね……」
「私も衝撃を受けた。今まで誰からも聞いたことのない解釈だ」
「ほれほれ、おまえ達、タクトくんが食事を持ってきてくれたぞ!」
「あっ、申し訳ございません、叔父上っ!」
「あまりの衝撃でつい……あれ? タクトさんは?」
「次代様方に菓子をお届けすると仰有ってな、ゆっくり話すのは全て終わった後にしよう」
「そうですね。まだ、全然頭が追い付いておりませんよ、僕は……」
「ははは、無理はするな、ショウリョウ。タクトくんの考え方を一朝一夕には、理解も納得も難しいわい」
「年の近い我々ならば少しは……と思っていた自分が恥ずかしいです。叔父上、タクトさんは……ニファレントのお方なのですよね? 何度も『自分だけの意見でありニファレントの総意でも一般的なものでもない』と繰り返していらしたが……」
「我々にお気遣いくださっているのだろうよ。タクトくんが故国で積んできた学問が、我々には継がれていない。いつか、我等がニファレントから皇国に帰属したと解る時に、我々が『何も継いでいない家門』と誹られてしまうのを防ごうとしてくれているのかもしれん」
「……それもあって、古代の書物から色々と探しておいでなのですね……タクトさんは」
「ご自身のこともだろう。なにせ、子供のうちに神々がこちらにお遣わしになってしまわれたのだ。ご自分の家門……『スズヤ』のことも、お調べになっているのかもしれない」
「神々は……タクトさんにどのような『道』を、示されたのでしょう。タクトさんは、ご自身がそれを選んだことを後悔なさっていないのでしょうか?」
「後悔はしていないと私は思うよ、ショウリョウ。でなければ『未来のこと』を、ここまでお考えになっていらっしゃるはずがないさ」
「うむ、そうであって欲しい。我々レイエルスはタクトくんに『同郷であって良かった』と……思ってもらえるよう、心掛けたいものだ」
「「はい」」
「ああー、いかんいかん、早めに食べねばこの後の『映像』まで食い込んでしまうぞ!」
「あっ、それはいけませんねっ! 魔獣の映像と伺いましたから、食べながらなんて見られませんっ!」
「ショウリョウ……普通に失礼だよ、それは」
「……そう、でした。ははは……」
「では、食べるとしようか。『いただきます』」
「「いただきますっ!」」
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