第825話 魔効素について

「魔法を?」

「はい。石板で【文字魔法】を皆様に。そうしないと説明が難しくて……よろしいでしょうか?」


 全員に了承いただきまして『この部屋にいる人達が魔効素が緑色に発光して見える』『この魔法が発動している間の録画では魔効素を緑色で録画できる』というものを発動させていただきました。


 レイエルスの三人が見ている映像は『一度録画されたものをモニターに映している』ので、こうしておけば映像でも魔効素は確認できる。

 ほんのちょっとタイムラグはあるけど、一秒くらいなので大目にみて欲しい。


「まずは魔効素ですね。ただいまから発動する『石板魔法』で、皆様は空中に漂う魔効素が直接ご覧いただける状態になります。この魔効素は人体に害のあるものではなく、魔力にとって必要なものであることは既にご存じだと思いますので、何があっても慌てないでくださいね」


 ぱっと突然、目の前が緑の粒子で覆われる。

「うおっ」「わっ!」「きゃっ!」「……!」「ええぇっ?」

 まぁ、驚くのも無理はありませんよね。


「今、目の前の空気中に見えている緑色の粒が、魔効素を可視化したものです。本来もの凄ーーーーく小さい粒なのですが、見やすくするために少々大きめに発光させています」

「……大気の中に、こんなにもあるものなのか……?」


「ええ、その通りですビィクティアムさん。大気中だけでなく、ありとあらゆるところにありますよ。土の中も水の中も当然、海の中にも。神々の加護のある全ての場所に存在するのが魔効素です。ま、場所や時期によって量の多い少ないはありますが、全くないということはありませんね」


「少ないのは『遺棄地』か?」

「そうとも限りません。多分供給量より使用量の多い場所だと、時期によっては少なくなるみたいですよ。シュリィイーレは錆山があるお陰で、途轍もなく多いですが」


 そう言いつつ、北側の窓の外を見るように促すと皆さんの目にも魔効素を吹き上げる錆山の様子が見えたのだろう。

 おっと、カメラもちょいと動かして……映ったかなー?


「この部屋の中にいる間だけ見えるようにしましたので、部屋から出たら全く見えなくなります。ですが、存在していることは覚えておいてくださいね」

「ああ……なんと、凄いものだな……このように見えるなんて……タクト殿は、いつもこれが見えているのか?」

「いえ、そういう訳ではありませんよ、オーリエンス様。神眼を使って『視よう』と思うか、今回のように【文字魔法】を使わないと見られません」


「そうだよね、いつも見えていたら鬱陶しいよねぇ……それにしても、こんなに纏わり付いているものなんだな……」

「息をすると入ってきますのね。吐く息には……ないみたい」


 ロンデェエストのふたりは結構冷静だな。


「はい、魔効素は身体に取り込まれ『魔力の素』になりますからね」


 俺がそう言うと、全員の視線がまたしても俺に集中する。

 ということで、皆様には『魔効素についての論文』など、お配りしましょうか。

 詳しくはそちらをご覧くださいませ。


「魔効素が、魔力の根源ということ……?」

「その一要素である、と言うのが正しいと思いますよ、アルリオラ様。魔効素だけでは魔法にはなりません。魔力不足を補うのに魔効素を多く取り込めば回復は異常に早いですが、体内で魔力になるためには『健やかな身体』や『充分な栄養』そして『身体が覚えている数多くの知識』なども必要なのです」


 皆さんが首を傾げるポイントは『身体の覚える知識』であろう。

 これは勉強で脳が覚える知識だけでは足りない『経験』を指すのである。

 そしてその経験は身をもって体験したものと、豊かなイメージによって『まるで体験したかのような錯覚』でも身につく。

 加えて、あらゆるものを口にしている経験は血肉に刻まれる『無意識の知識』になるのだ。


「生きるための全てがあらゆる知識えいようとなって、魔効素と結びついて魔力になっていくんです」


 これは【文字魔法】みたいに『魔効素を魔力に変換』という強引な指示のできる魔法がない限り、崩れない法則だと思う。

 だから魔効素を幾ら沢山取り込んでも、魔法や加護法具で魔力にするという指示がないのならば『結びつく身体の知識量』に左右されるので、魔力に変換されなかった魔効素は取り敢えず体内に留まってはいても、ゆっくりと自然放出魔力と一緒に出て行ってしまうのだ。


「おまえには、それが視えるということか……」

「神眼って視え過ぎるんですよねぇ。視えたものの理由や原理を考えて調べているんですけど、俺の解る範囲では辻褄が合わない現象も多くて『知らないことが多いよな』って溜息出ますよ」


「なるほどなぁ……タクトくんほどの知識があっても『視えたもの全ての理由』は、判断ができないってことか」

「俺の知識なんてまだまだなんですよ、テオファルト様……視えている現象は断片的なことが多いですから、仮説を立てるにも何かを閃かないと難しいです」


 俺の言った『閃き』という言葉を小さく繰り返し、ラウレイエス様が俺に問いかける。


「その『閃き』というのは……神々からの『啓示』であるのではないのかい?」


 おや、アトネストさんみたいな反応ですな。

 あ、でもドミナティアなら解らなくはない考え方だな。


 おそらく十八家門の中で一番『盲目的に信仰をしている』のは、ドミナティアだと思うんだよ。

 いや……盲目的に信仰できたらいいのにと思っている……が正しいのかな?

 だから、それが重責でセインさんが、ちょいと変な方向に行っちゃったんだと思うし。


 神々は完璧だという想いと信念に嘘はない。

 だけど、そうだとしたら自分では納得できないものがあり、それを突き詰めて考えると信仰を疑っているのではないかという自責が生まれる。

 ならばと盲目になれる人もいるだろうが、ドミナティアはそこまで愚かではない。


「啓示……というのとは違うと思いますけど、神々からいただいた『知識の一部』を『思い出す』という現象だと思っています」


 んー……俺の個人的意見だからなぁ。

 何処までこの世界の神々の意に添うているかは解らないけど、駄目なら聞いている人達から制止が入るかな。

 宜しくお願いいたしますねー、神様達ー!

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