第714話 手続き完了!
はいっ、無事にお引き受けいただけましたー!
デルデロッシ医師は両手をぐっと握り締め、まるで誓いを立てるように視線を上げた。
「頑張るよっ! 馬が好きな人も沢山いるって、解ったからね!」
リシュレア婆ちゃん、感謝。
デルデロッシ医師の本を読んでいた子達もグッジョブだ。
そんでもって、デルデロッシ医師の本を持っててくださったレイエルス家門の蔵書、流石です。
さて、ここでもうひとつ俺がお願いしたいことを伝えたら、モチベアップになるかはたまたプレッシャーになってしまうか……
「実は、このひと月半の間に馬達が町中での配達業務に慣れて、相応しいと裁定がされれば教会配務に協力していただける機会があると思います」
「ふぇっ? 教会っ?」
あ、ちょっと構えられちゃったかなぁ。
「教会関連の荷物を受けていただけるようになれば、エクウス以外の馬達にも地域貢献が認められることとなりますから、当然支援金が入る可能性もあります。皆さんの家畜医としての仕事はそのまま今まで通りで構いませんし、生活も変える必要はほぼありませんけど、衛兵隊や教会の方々との連携も加わってくるかも……」
「教会配務……とは、手紙、ですか?」
「いいえ、手紙や書簡ではなくて『荷物』ですね」
ほっとした人が半分、不思議そうな人が半分……そーか、そーか、俺と教会の関係ですね。
「これは内緒ですけどね、俺、教会輔祭として協力しているんですよ。なので、新しく聖教会となることで色々と始めることがありますから、民間として物品配務の協力者を捜しているのですよ」
ベリットスさんが少しばかり驚いた顔をする。
「……道理で……馬が懐く訳ですねぇ……聖魔法か技能がある方って、馬達が安心するんですよねぇ」
「聖魔法より、聖技能の方が馬達は好きなんだよ。そーか、君は聖技能があるから、馬達にいいお菓子が作れるんだなっ!」
ありゃ、そうなのか?
俺としては、人の食べる料理を作れる料理技能が欲しいんだけどなー。
馬向きなのかなー。
それも悪くないけど……いや、諦めないぞっ!
無事にエクウスの所有者にしていただけると言うことで、早速役所に届ける書類作成のために南門緑地内の厩舎にいるエクウスの所へやって参りました。
魔力登録をした契約書、所有証明書、そして所有徽章をデルデロッシ医師達にも承認してもらった上で連名の書類を役所提出して、所有者登録をする。
そして、エクウスには俺の所有徽章を着けておくのだ。
「エクウスー、俺の徽章付けてもいいかなぁ?」
パカパカと小走りに寄ってきてくれたエクウスを撫でながら、小さい声で聞いてみる。
ヒン
ありゃ、なんか解っていない感じかな?
ベリットスさんが優しく触れながら、なんだか語りかけているみたいに見つめる。
ヒヒンっヒンヒン!
おおお?
「喜んでますよ、この仔。タクトくんのこと、大好きなんですねぇ」
やっぱり、この方々は『ソロモンの指輪』的な魔法や技能があるのだろう……
「もの凄く嬉しいです。じゃあ……この徽章、着けますねー」
所有徽章は、俺が作った指輪印章と同じ材質『
その文字の下にエクウスの名前も入れました。
精徹鋼は鉄と炭素を少し配合すると永久磁石にもなるから、魔力保持もバッチリですよ。
そして裏側には、神約文字でもエクウスの名前を刻んでいるので……俺の【加護魔法】の対象にできる、ということだ。
守る気満々。
では、この徽章と譲渡の契約書に魔力登録して、契約成立。
徽章をエクウスの額に着けて……おおおお、スリスリが高速化したぞっ!
「……ご機嫌だね、エクウス……」
ありゃ、デルデロッシ医師がちょっと悔しそう。
エクウスのお母さん、ベリアードが慰めるように寄っていった。
さて、徽章を着けたエクウスが得意気に外の芝生に運動に出ると、その姿を緑地の柵外で見ていた人達からちょっとだけざわめきが起きた。
医師団がニヤニヤとしているので、なんだろうと理由を聞く。
「柵の外を囲んでいるのは馬をここで遊ばせている所有者達だけじゃなくて、馬を買い取ろうと値踏みしている商人達もいるんです」
「そうそう、エクウスは買いたいっていう商人が何人かいたんです。でも、絶対にデルデロッシ医師が首を縦に振らなくて」
だろうなー。
商人に売ったら別の領地に連れて行かれちゃうのが判っているし、運良くこの町の人が買ったとしても繁殖や研究なんてできなくなっちゃうもんなー。
「しかも、商人達はうちがお金がないって知ってましたから、足元を見るようなことばかり言ってきてて。本っっっっっ当に鬱陶しかったんですよ」
「タクトさんが買ってくださってよかったですーー。エクウスが一番懐いていたのが、レェリィくんだったし!」
そこ、デルデロッシ医師じゃないんだ。
そぉかぁ、またレェリィでも遊びに来るからねぇ、エクウスー!
さて、すぐにでも役所に行って手続きして、司祭様にも郵便システムと馬配便の試用期間中ということをお伝えしておかなくては!
ものすごーく心配していらしたからね。
神務士トリオには魔力的な負担も殆どないし、時間も無駄にならないし、教会内だけで作業が完結するから神官さん達にも手伝ってもらえるし、マンパワー的な心配もなくなるだろう。
役所に行って所得証明、売買契約書、支払い証明などを提出して所有手続きをし、日本での車の車庫証明みたいに厩舎証明を提出する。
それと……税金、ね。
ふふふ、一年分を一括前払いなのか……厳しいですな。
これは聖魔法所持だとしても、俺の魔法には関係ないし生活に使う訳でもない『贅沢品』なんだから仕方ない。
「タクトくん、馬なんて買ったのかね……」
「ええ、可愛くって。シュリィイーレの血統馬が生まれたんで、どうしてもこの町で育てて欲しくて家畜医の方々に預かっていただいてるんです」
魚好きで最近よく来てくれる役所の所長レオドレートさんは、やっぱり馬を持つってことはこのシュリィイーレでは珍しいことだと言う。
「馬車方陣がないからですか?」
「そうだねぇ、それもあるけど近くを走り回れるってことでもないし、ウァラクみたいに山道に強い馬があまりいないからね」
「確かに使役という点では……あまり必要ないですよね、この町では」
農耕馬も必要ないくらい、皆さん魔法での耕作をしているし。
やっぱ、牧場が近くにないということと、馬車方陣がないとなると所有まではしたがらないのかもなぁ。
飼っている方々は、南東地区の一部の傍流さん達だけということだし移動制限付きの方々が多そうだから『移動のための馬』なんてほぼ必要ないよね。
今度買った馬を見せてくれよ、と言われたので笑顔でお返事をして登録完了。
さて、では司祭様の所に行こうかな。
えーと、試験研修生宿舎二階の一番奥の部屋だよな。
あ、それとも皆さんと一緒に遊文館にいるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます