第709話 配達システム提案
「教会側の配荷部屋に設置する『書箱』に入れるだけで、所定の『辻書箱舎』に分配ができる仕組みを作らせて欲しいのです」
ビィクティアムさんが『それができたら苦労はしない』というような、呆れたような顔を見せる。
まぁまぁ、大体の予想は付いていらっしゃるでしょ?
動くのが大変で不可能ならば、動かずにできるシステムを作ればいいのだ。
「具体的には……『転送の方陣』か?」
「いえ、どちらかというと『改札』の方ですね」
店とか工房とかへの郵便は、その組合に届ければいいので中央広場から入って行けばお隣さんくらいの感覚なので問題ない。
今、問題になっているのは、個人宅宛。
辻書箱舎、というのは、環状路と貫通路の交わる所にある私書箱の設置されている建物のことである。
普通の中規模の町であれば、この個人宅宛の辻書箱舎は精々三十から多くて五十箇所。
だがしかし、シュリィイーレには百箇所もあり、ひとつ当たりの辻書箱舎に入っている私書箱数も、一般的な町より多くて領主町くらいの規模であるという。
その八割弱が南側に集中しているのは、南側の方が居住者が多くて小さい区画にびっしりと家があるからだ。
中央環状路からひとつ目の環状路『水通り』の間は、商人達や組合関連の事務所、商議場などの公共の施設が多くて居住者がいないから手紙は役所で受け取り、管理をしてくれる。
その外側ブロックから辻書箱舎があり、そのブロックに住んでいる人達の『ポスト』であり『私書箱』なのだ。
受け取りは住所の番号の書かれた私書箱に入れられ、差し出しは大きめの
設置されている様は、
そして差し出しの方も、まんまポストである。
一日に何百通とある訳ではないが、何カ所にも行かなくてはならない。
車やバイクがあったって、嫌になる数なんだから歩きなんて冗談じゃないだろう。
毎日ではないが、あるかないか解らない手紙を確認しに行かなくてはいけないんだから。
そして今後も辻書箱舎が増えたり私書箱数が増えることはあっても、減ることはないだろうからここで設備をリニューアルするのは絶対に必要なのだ。
「まずは、各辻書箱舎に『銘』をつけます」
「……おまえ、まさか【命名魔法】が……?」
「いえいえ、違いますよ! 俺がいただいた魔法は【命銘魔法】で、人に名前がつけられて神々と契約できるものではなく、物品や建物などに『銘』を入れることで繋がりを作れる魔法です」
各辻書箱舎に俺が『南東二番』『西三十番』なんていう名前をつけて、それを『銘』として付与して認識の目標とする。
そして、各私書箱もその方式で場所を『文字で表す』ことによって、魔法に場所の特定を認識させやすくする。
その際に使うのは『転送の方陣』ではなく、目標位置の名前さえ指定したら繋がる『改札システム』の応用である。
方陣だと都度魔力の充塡が必要で、しかも私書箱ごとに『目標の方陣』を描いておかねばならない。
当然、送る方も一箇所に付きひとつずつの方陣が必要になり、その都度ひとつずつ魔力で起動せねばならない。
しかし改札システムだったら、『出口』の指定は各私書箱に作る必要はあるから『目標』の方陣を置くのと変わらない手間だが、教会側の『入口』はひとつだっていいのだ。
勿論、効率を考えて四つくらいは作るけど。
「そうか……おまえの改札の魔法は、出口の切替ができるのだったな!」
「はい。いくら一日に五通程度とはいえ毎日の仕分けは手間ですし、在籍確認時期とか春先、秋の終わりはとんでもない数の手紙でしょう? 仕分けるのも大変だし、配達間違いも起きやすい。ですが、俺が『住所を銘として認識させる』ように魔法を付与してしまえば、手紙の表に書かれた住所を魔法で読み取らせると、その住所の私書箱に教会にいながらにして届けられるのですよ」
「
「【命銘魔法】のお陰ですね。銘を【文字魔法】で指定して、石板か金属板に魔法を支えさせれば……多分、その板が壊れるまで魔法は使えますよ」
衛兵隊の改札システムは『人を移動させる』ということで、繊細で確実な【祭陣】を使用して場所の確定を行って【次元魔法】なんかも使用して繋げていた。
だけど、今回は物品で重さも手で持てるくらいだ。
届けるには手や腕が出入りする程度だから、ひとつひとつの改札は小さいもので構わない。
となれば【祭陣】を使って最上級の魔法にせずとも、名前だけで小さく窓を開く指示をするだけで充分である。
そして、入れる方からは届けたものをいつでも確認できるから、全然取りに来ないずぼらな人も容易に特定できるようにしておけば確認も簡単。
取りに来ていない人へのリマインドの伝言くらいならば、遊文館で警告の張り出しなんかを請け負ってもいい。
教会と役所、そして各外門食堂や遊文館で『早く私書箱に取りに行って!』と貼り出されたら、恥ずかしくてすぐにでも取りに行くだろう。
それでも動じない鋼メンタルの人は……衛兵隊からのお呼び出しでもしてもらうと決めてくれたら助かるなー。
「解った。それならば、教会からの要請ということで関与できる」
ニヤッと笑ったビィクティアムさんに、今までもそういうものぐささんがいたのだろうな、と思わず苦笑い。
「それにしても……まさか、改札を作り直すとは思っていなかったな。移動などの方陣でのやり方だとばかり考えていた」
「『移動の方陣』だと俺がやる仕事が増えるんで、どうしたら楽かを考えただけですよ」
「その新しい【命銘魔法】とやらは、どこかに資料があったのか?」
……流石、そこんところも流してはくださいませんねぇ。
「先日、翻訳を頼まれた『旧教会で見つけられた三冊』の中に、技能と一部の特殊な魔法に関する『生命の書』の続きと思われるものがありました」
ビィクティアムさんは驚いてはいるが、やはりそんな重大な発見だったか、とワクワク顔だ。
「その中に幾つかの獲得者の少なそうな白魔法、独自魔法の記載が少しと、技能についての解説などが記されていました。もう少ししたら、訳文が書き上がりますので」
「そうか……! 楽しみにしている。配務施設整備についての魔法は、こちらで全て王都省院関連は承認を取るから任せておけ」
「ありがとうございます」
「だが、聖教会としての申請と要請は、テルウェスト神司祭とレイエルス神司祭の連名で、おまえの銘紋を入れてなされなくてはいけないだろう」
「え、俺も、ですか?」
「当然だ。おまえは『聖位輔祭』で、その輔祭の魔法を使用しての敷設なのだから、おまえ自身が了承しているという証が要る」
それもそうか。
辻書箱舎についても、建物は衛兵隊管轄だがその内部の私書箱とポストは教会管轄らしいので、どっちもに承認されなくては動けないようだ。
ふぅぅぅむ、やっぱりお役所関連は面倒だなぁ。
今、越領門が使えないから、伝令さんとのやりとりになっちゃうよね……時間掛かりそうだなー。
ま、でも使うのは俺の魔法だけで、教会も町も特に作り替える訳じゃないんだから承認は下りるだろう。
これで神務士トリオの魔力量でも問題はないな。
石板システムだと、起動の魔力も要らないからねー。
ま、細かい魔法については……これから組み上げていくのでそれからですかね。
えーと、教会の内装が終わったら、厨房と、司書室と、配荷室は俺が造って魔法付与と方陣設置……あ、越領門もか。
結構働き者だな、俺。
さーて、残るは……大きめお荷物の件だが、こっちは……ちょっと返事待ち、なんだよなー。
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