第706話 結果待ちと新規案件?
みんなで話し合って決めると言ってくれたデルデロッシ医師のところを出た途端、ガイエスが大きく溜息を吐いた。
「おまえ……色々な仕事を思いつくもんだなぁ」
「俺は『こんなことしてくれる人がいてくれたらいいなー』って思ったことを言っただけだよ」
「だけど、馬の研究に……とか、そんなことまで考えてもいなかった」
はははは……まぁ、その辺は……相手の興味を引くために言ってたという節もあるので、なんとも、ね。
「馬を手放せとか、高く買い取るなんて言うんじゃなくて、馬と一緒に仕事するなんて思いつきもしなかった」
「家畜医の方々にとっては、全然職位と関係なさそうな仕事だろうけど、馬達を人に慣れさせるにも町中を歩かせるのはいいかなーと思って」
そりゃ、馬を売ればデルデロッシ医師のお墨付きの馬なんだから高く売れるだろう。
だけど、それは最終手段だし、そんなことをしたら研究そのものが立ち行かなくなるし金が入ったって意味がなくなる。
なんせ、人のために金が欲しいのではなく、馬のためなんだから。
引き受けてくれるといいなー。
そしたらエクウスが『シュリィイーレ原産の馬』とみんなに知ってもらえるし、そうなれば『我が町の馬!』ってことで故郷愛の強いシュリィイーレの方々は、可愛がってくれたりデルデロッシ医師達に協力してくれる人も増えるんじゃないかと思うんだよね。
それに、馬もただ飼っているだけという『個人所有』でなく、この町の人々への貢献ととれる仕事のために置いているという名目になる。
そうなると、ちょっと税金が安くなるはずなのだ。
しかも、その依頼をしている俺が『聖魔法師』だから、緑地の整備などに俺の魔法を使ったとしても問題がなくなるのである。
ちょっと無理矢理ではあるけど、聖魔法の地域貢献という括りが適用できるからね。
で、もしも聖魔法を使う場合も魔法師組合管轄ではないから、無償扱い……ということで、経費削減ができるのだ。
……ここまでは、デルデロッシ医師達には言わないけどねー。
ガイエスは夕食を買って宿に戻るというので、一度うちまで来てもらった。
今日はチーズインハンバーグなので、是非食べて欲しいのだ!
それを言うと『乾酪入り……』と小さい声で呟いて、ごくり、と唾を飲み込む音まで聞こえてきた。
絶対好きだよな、ガイエスは。
「そうだ、この間のリエッツァ、リオール医師に説明しながら食べててちゃんと味わえなかったんだよ。もう一回作ってくれ」
「リオール医師……って、もしかして細身で眼鏡掛けている金髪の人?」
「ああ。知ってるのか? そういえば、おまえのところに菓子を買いに行くとは言っていたけど」
「あの日、菓子の時間が終わったすぐ後に、自動販売機のところでがっくりしている人がいたんだよな……そっか、あの人がリオール医師か」
その後、かなり沢山のスイーツを買っていたんだよな。
がっかりしていたのは、リエッツァがなかったからかもなー。
モツァレーラのリエッツァは自販機には入れないから、どっちにしても昼に間に合ってないから食べられなかったんだけどね。
ガイエスに夕飯三人前を渡した後、食堂でも夕食タイムの始まり始まりーー!
本日はチーズたっぷりハンバーグは目玉焼き付きで、付け合わせは人参のグラッセと
パンは皮が硬めのカンパーニュだが、トマトスープにつけて食べてもらえばやわやわにもなりますよ。
こういう時にさ、コーンスープが欲しくなるよねぇ。
マントリエル南部……ライリクスさん以外にマントリエルの人って誰がいたかなぁ……
ハンバーグはお子様人気も高いのだが、衛兵隊人気も抜群で特にチーズインの時は入れ替わり立ち替わり食べに来てくれる。
卵とパン粉が入っていないから、ハンバーグってよりパテなんだよね。
うちでも色相補整で、ちょっと豆腐とかホエーパウダーが入れてあるから、厳密にはパテとも少し違うのだが。
勿論、ハンバーグなんて言葉は存在しないので、自動翻訳さんとしては『寄せ肉焼き』などと表示した。
しかし、美味しくなさそうだったから、皇国語で『パテー』というのが『寄せる・纏める』という意味を持つので『パティーグ』と言う料理名にした。
最近はうちのパティーグと似たような料理を出している食堂もあるらしいけど、チーズインではないらしい。
シュリィイーレでチーズ作っているの、多分俺だけだもんな。
この町の市場で買えるハードタイプの
チーズは単品で売るほどは作れないから、販売予定はないしね。
「えっ、ディレイルさん、マントリエルなんですかっ?」
「そうそう、パルトーラってところね」
パルトーラは次官家門ゼオレステの町だ。
確かマントリエルの南側……!
「ミトアーレって近くですか?」
「んー、近いってほどじゃないけど、馬車方陣はあるよ。あの町、イノブタが美味しいんだよねぇ」
「
「え、よく柔玉黍なんて知ってたなぁ! イノブタの餌用に栽培されているね。その餌のお陰で、イノブタの肉が美味しいって言われているんだよ」
「その柔玉黍、仕入れられないですかね? あ、いや、沢山なくても……種とかあれば……それだけでも!」
あ、ちょっと吃驚された。
ですよねー、イノブタの餌なんてこの町ではまーったく必要ないもんねー。
シュリィイーレでは、畜産農家がいないからね。
「他の玉黍と掛け合わせることで甘くて美味しい、人の食べられる玉黍ができる可能性があるのですよ」
おっと、食堂内がざわわっとしたぞ。
ふほほほほ、皆さん、美味しいものは大好きですよねっ!
「……よし、解った! なんとか手に入れてみようか! 楽しみにしてていいのかなっ?」
「ご期待に添えるように、全力を尽くしますっ!」
よーーーーっし!
第一歩は踏み出せそうだぞーっ!
コーンを皆さんに気に入っていただくためには品種改良が必要と思われるが、絶対に美味しいものができるのだっ!
情報をくださったデルデロッシ医師には、本当に感謝だなっ!
今後のサボート、心を込めてさせていただきますよーー!
そしてそろそろ夕食時間も終わろうかという頃、物販スペースにテルウェスト神司祭のお姿が。
テルウェスト神司祭がひとりでいらっしゃる時って、どうしていつもちょっと泣きそうな顔なんだろう……
「如何なさいましたか、テルウェスト神司祭?」
「……ご相談したいことが、ございまして……」
うーむ、今日は相談事の多い日だな。
もう食堂の方は大丈夫そうなので、俺も一緒にVIPルームの方へ。
今日が、父さん達の飲兵衛会の日じゃなくてよかったよ。
さて、どのようなご用件でございましょうか?
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『緑炎の方陣魔剣士・続』肆第51話とリンクしています
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