第697話 お土産確認
案の定、ビィクティアムさんは仕事に夢中で食事をすっかり忘れていたので、絶対に食べきるように、と普段より少し多めの食事を置いて来た。
昔みたいに殆ど魔法を使っていなかったのならいざ知らず、今の状態で食事を忘れることができるなんて本当に信じられないよなっ!
そして出たばっかしの神星眼酷使で予想外に疲れちゃってた俺も、食事をしてからディナータイムのお手伝い。
食堂での手伝いは、みんなが美味しそうに食べてくれる姿が見られるのが楽しくて堪らない。
美味しいものを食べている時は、みんないい笑顔だしね。
夕食後、自室でガイエスからもらった『お土産』を再確認。
首飾り台座の素材は銅ではなく、所謂『真鍮』とか『黄銅』と言われているものである。
まぁ、七割近くは銅なのだから間違いではないのだが、正しくは銅合金だ。
ガイエスが銅っぽいと言っていたのは、銅は知っているが亜鉛を知らなかったので混ざりものがあって判定ができなかったからだろう。
黄銅は加工がしやすいので、こうした装飾品としても使われるし五円玉にも使われている馴染みのある合金である。
この形のまま残っていたのは、合金となってしまった銅と亜鉛を分離できる魔法も技術もなかったからだろう。
ふたつの
……少し遊びがあるが、これは外した時に爪が開いたせいだろう。
うん、間違いはなさそう……だけど、なーんか違和感?
ガイエスが『こんな感じだった』と描いてくれた紙を取り出して比べると、やっぱり少し違っている。
飾りに付けられている『葉』の枚数が……減っている。
ガイエスの記憶は【方陣魔法】に影響される『映像記憶』って感じで、見たままをその形の通りに記憶できる能力を押し上げているだろう。
と、なれば、ガイエスが認識していなかったとしても、当初はこの絵のように『葉が七枚』ってのが正解だと思う。
だけど、槻の葉じゃないんだよな、これ。
どっちかっていうと刺草っぽい葉っぱなんだよなー……だとしたら、枚数を調整する意味が解らないし……んー?
アーメルサスの神職家門とは関係ないものなのかなぁ。
何かに転用しようとして、失敗している感じとか?
その首飾りをよくよく見ていると、石の中に模様のようなものが浮かんで見えた。
台座に天藍石を嵌めると、この石がレンズみたいになって形が見えるようになっていたのか!
なるほど……屈折率とかの関係で、この石である必要があったってことかな。
では、石そのものに神々の加護を表す意味を含ませたということではないんだろう。
透けて見えたものは、ただの模様じゃなくて……記号?
自動翻訳さんが何も主張してこないから文字じゃないし、これ、この石のカットが透けて見える部分と合わさって初めて形になるって感じだ。
嵌める方向を少しずつ変えて、その記号が変化しないかを確認していく。
そして位置をずらすことで、浮き上がる形を描きとっていくと……三つほどが『文字』の形になった。
石の位置を少しずつずらして初めて文字が浮き出るという、暗号機みたいなものか?
これで得た文字は、どこかにある暗号文を解く鍵になるもの、かもなぁ。
あ、ガイエスの描いた絵にあった場所の葉っぱ、この石を動かせないように固定するものだったのかも!
だとしたら、これを『鍵』と知っている奴等がこの石の下にあるものを読もうとして刺草の飾りを外した可能性もあるな。
だけど、石のカットラインと合わさらないと形にならなかったから、自分達の目当てのものではないと判断して廃棄したのかな?
浮き出た三文字は『古代マウヤーエート』文字。
これを欲しがっていたのはタルフかマイウリアかで、持主は逃げ出してアーメルサスで亡くなったのか?
いつ頃の話かが判らないから、なんとも言えないけど……
えーと、あの洞窟の最奥の石……持ってきていたよな、ガイエス。
あ、これこれ。
今までやったことはなかったけど、神星眼さんは『年代測定』とかできるかなー?
んーーーー……
うん!
なんか、ぼんやりとしか解んない!
よし、あらゆるものを年代に注視しつつ鑑定して、比較対象として絞り込んでいく方式にしましょうか!
放射年代測定ができるようになったら無敵なんだが、無機物だから炭素フォーティーンとかは使えないからなぁ。
取り敢えず、俺がどの辺りから掘りだした物かってのが解っているものと比べて、それより新しいか古いかの鑑定ができるか……だな。
翌日、また目をしぱしぱさせつつ朝ご飯を食べていたら、菠薐草のベーコン炒めがガツッと目の前に出てきた。
どうやら、父さんが作ってくれたものらしい。
「目にいいって言うからな、菠薐草は」
ルテインが含まれているから、いいってあっちの世界でも言われてたなぁ。
こっちでもそうなのか。
「ありがとう。美味しい」
「最近、おまえが何かを鑑定しているとか、魔法を使っている時には、瞳の色が変わるからな。魔眼で新しいものが視え始める時には、そういう『チカチカした状態』になりやすい。暫くは日をおいて使う方がいいぞ。疲れが溜まると、頭痛がしてつらくなるって言うからな」
「解ったよ、気を付ける……」
しまった。
ここのところ、やっぱり目を使い過ぎているんだな。
うーむ……この『神星眼』の段位が上がるまでは、虹彩のチカチカがみんなに解っちゃうのかもしれない。
心配させちゃうから気を付けなくちゃなー。
そして、お昼の前にちょっと確認した銀色の
槻の枝が浮き出ているあの釦はどう見ても『服から外された釦』で、多分……かなり古いものだろう。
磨いた形跡はあるが、金属自体が経年によって若干黄色味を帯びている。
つまり、銀色ではあるが、銀ではない。
これは『
この釦に関しては、錫の他に微量のアンチモンと銅、亜鉛を含んでいるが銀はゼロだ。
酸化しにくく錆びにくいという点で安定した金属だし、加工もしやすいだろう。
だが、この釦に使われている物は亜鉛が入っているせいか、裏側では所謂『スズペスト』と言われるような剝離による膨らみも一部見られる。
これは極寒の場所に置かれた際に起こることの多い現象だから、短期間であったかもしれないがこの釦はかなり温度の低い場所に置かれたことがある……と推測できる。
で、あるのならば、凍土があるというアーメルサス北部で使われていたことがある……という根拠にもなり、アーメルサス司祭家門のものという可能性も捨て切れない。
この模様、アトネストさんは知っているだろうか?
今更、見たくはないだろうなぁ……皇国に帰化すると決めて、この町に在籍許可も出てのびのびと暮らしているんだし。
んーー、どーしよっかなぁぁぁ。
おっと、ガイエス達の所にランチデリバリーに行ってやらなくちゃ!
その後に教会の方々に、会いに行ってみようかなー。
*******
*次話の更新は12/4(月)8:00の予定です
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