第695話 所持品確認?
「なんか……オルツでの報告書の時に思い出さなかったこと、結構ある……」
ガイエスが自分の記憶力に対してか、少々落ち込んでいる。
ビィクティアムさんが少し席を離れて緊張が解れたのか、目の前のクッキーをポリポリと食べつつ。
俺も一緒になって、クッキーを口に放り込む。
あ、これ、紅茶のクッキーだ。
こんなものまで作れるようになっていらしたとは……流石だ。
「ひとりで思い出しながら喋るより、誰かに疑問点を質問されたりしながらの方が思い出すものだよ」
そしてガイエスを慰めつつ、もう一個。
「デルニエには、ゴシェトってところの港と行き来があるってのも、今思い出したし……」
「ほぅ、ゴシェトはディルムトリエン南部にある町の名前と一緒だな」
部屋に突然戻ったビィクティアムさんに、扉が開いたかを確認するように振り向き慌てるガイエス。
改札口を使って戻ってきたからなぁ。
扉が開いた音ってのはしないんだよねー。
「焼き菓子が気に入ったようでよかった。茶葉だけだと味の調整が難しかったんだが、上手くできてるだろう?」
そう言ってにっこり笑うビィクティアムさんと、パティシエの真実を知って固まるガイエスが面白くって堪らないけど、笑っちゃ悪いよな。
ぷぷぷぷぷ。
「扁桃豆の粉を入れるのも、美味しいですよ」
「そうか。今度それも試してみよう」
今回のは蜂蜜ベースだったので、アーモンド入れたら風味が変わって美味しいんだよねー。
おや、ガイエスくん、そろそろ立ち直っておくれよ。
きっとこれからシュリィイーレに来る度に、なんかしら出てくると思うぞ?
試作品の材料、うちからも提供しているから。
有償で、だけど。
どうやら俺達に食べさせて、反応が良かったものをレティさんに作ってあげているらしいから。
その後の質問は、拉致されていた時の待遇などについてだったのだが……これまた、とんでもないことがぽろりと飛び出す。
「は……? 四日間、水も食事も運ばれてこないで放置?」
俺は思わず驚いてしまったが、もしかして普通だったかとビィクティアムさんの表情を見たら相当お怒りモードだったので、非常識ってことでいいんだなと安心した。
「情報を言うまでとか、従わないと食わせないなんてのは、マイウリアでもガウリエスタでも割と当たり前だったぞ?」
「そんな非人道的なことが当たり前って、おかしいからっ!」
「『獄』だって、食事はちゃんと出すぞ!」
ガイエスは俺とビィクティアムさん両方からあり得ないと詰め寄られて、俺がやった訳じゃねーって、とたじたじである。
あ、そーだった。
された方だったよな。
「俺はタクトの保存食や菓子を沢山持っていたから、なんの不自由もなかったけどな」
そう言って三日目に食べたポテサラで追いマヨネーズしたらなくなったらしく、また買いに行くからと笑ってる。
この人、ちょっと危機感バグっていないか?
お気楽過ぎるだろうが!
「そんな顔するなよ。だって、タクトの作ったもの着ていれば刃物も何も平気だし、食べものは美味しいし、船底の部屋でも方陣鋼なら魔法も発動したしさ」
そういえば、と何かを思い出したように千年筆を取り出し、魔力制御と思われる方陣が描かれていたから覚えてきた、と持っていた紙に描いてくれた。
明らかに話題を変えようとしてきているな。
まぁ、乗ってやる……ほぅ?
「方陣は、皇国語のものを使っているのか……って、これ、微弱より弱いくらいに発動はするみたいだけど……制御じゃないな」
「え? だって
似てはいるが、制御の方陣で使われている単語とスペルがちと違う。
この間違え方……『
覗き込んできたビィクティアムさんにも確認してもらうと、確かに一文字、二文字の違いで全く違う意味になってしまっているな、と頷く。
「そうか……
「発動していたとしたら……きっと書き癖で『制す』が『抑える』って読める部分があるからかもしれないね」
ビィクティアムさんも少々顔を顰めつつ
「そうだな。確かにそう読めなくもない。もの凄く判りづらいが」
「……言われてみれば、ここがくっついているから別の文字なのか……」
どうやらガイエスはその場で自分が持っていたものと比べた訳ではなく、図形や文字の配置が『制御の方陣』と同じだったからそうだろうと思っていただけのようだ。
思い込んで読んでしまうと、丁寧に一文字一文字を見る訳じゃないから所謂『目が滑る』ってやつだよね。
そうかー……アーメルサスとねぇ……
だが、避難民の島にいたのは元アーメルサス人ではなくて、元マイウリアと元ディルムトリエン。
ならば、方陣はオルフェルエル諸島のもので間違いないだろうが、使用していたのがタルフと思われる人々か……
いや、全員が『元マウヤーエート』だな。
担ぎ出すにしても利用するにしてもガウリエスタ、マイウリア、ディルムトリエンから王族はいなくなっている。
だから……タルフから『調達』しようとしたのか。
もしくは『どこかの王族』が生きてて……その人のために、ガウムエスさんの持つ『聖石』が必要だった……とか?
生死厭わずならば、後者だろうなー。
うわー、腹立つー!
この辺りのことは俺の考察も伝えておくとして……きっとビィクティアムさんやファイラスさんなら、既に粗方の察しはついているはずだ。
そういった大きないざこざや歴史的誤認の訂正なんかはお貴族様達にお任せしたいところではあるが、ガイエスが今は一番危険な輩との接触が多くて面が割れている。
顔が知られているのに、相手が認識している『身の上』が全部間違っているってことが問題なんだよなー。
どうも話を聞かないというか、通じないやつらっぽいし訂正するタイミングもないんだが。
「で、ガイエス、そいつらに盗られたものはないんだな?」
ビィクティアムさんの改めての確認に、ガイエスは頷く。
「タクトの作ってくれたものは全部、俺の魔力登録がされていて俺に意識がない時だと頭覆いすら外せないみたいだ。お陰であいつらは、俺に触れることもできなかったって言ってた」
追加で超絶過保護にしちゃったせいだが、まさか昏倒させられて追い剥ぎに遭うことまでは想定外だったけどね。
あ、ビィクティアムさんがやり過ぎだろうって視線を送ってくるぅ。
だーって、冒険者って危険じゃないですかー。
防御防衛は完璧にしておきたいでしょう?
まぁ……頭部の保護は、若干甘かったと反省してますが。
おっと、違いますね、そっちじゃないですね。
賢魔器具統括管理省院登録時には、ちゃんと(魔竜くんのこと以外)言いますからそんな顔しないでくださいよー。
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『緑炎の方陣魔剣士・続』肆第40話とリンクしています
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