第684話 検証依頼
その後、現時点で火薬で穢れた土壌に対しての対応策になりそうな提案をして、粘菌くん支援魔法を組んだ石板設置をしてもらえないかとお願いした。
粘菌くんの応援に必要なものは、俺の推測では『魔効素』『ある程度の熱』そして『超微弱電気』だ。
「魔効素、とは生命の書にあったあれ、か……何処に存在しているか、解ったのか」
「実は……魔効素は『何処にでも』あるんですよ。大気にも大地にも海にも。大地の魔効素は、その粘菌が作ったり保存したりしているのです」
その辺りのことは、次期ご当主様勉強会で詳しくご説明差し上げます、と言うと、ビィクティアムさんがめちゃくちゃ楽しみだという顔になった。
全員に聞いてもらった方がいいことだし、今回の石板での粘菌くん支援が成功したらこのことも併せて知らせれば何かあった時のリカバリーに使えるだろう。
火薬はこの世界からも完全になくなることはきっとないだろうし、火薬になる成分が悪いものという訳でもない。
ただ、人が悪用するのが悪いこと、なのだ。
だから、いつ何処でおバカさん達が使わないとも限らないし、その時に穢れが出たとしても対応策があればってね。
「魔効素は神々の恵みだから、粘菌とやらが生きるのに必要だというのは解る。熱も。だが……超微弱電気……とは?」
「その電気とは……『雷』の別名と言いますか……今回、必要なのは極々極々小さーーい『雷』なのです。それは粘菌そのものに作用するのではなく、粘菌の働きを阻害するものに働きかけます」
「【雷光魔法】よりも、小さい魔法ということか?」
「はい、人が感じられないくらいの極小魔法ですが、それを発生できるものがあります」
そう、それは『電気石』……トルマリンである。
「電気石……あの、アーメルサスの石か」
「アーメルサスのものでは、残念ながら適切ではないのですよ。アーメルサス産やおそらく他国のものだと、魔瘴素が含まれています。皇国の、錆山の電気石がいいんです」
「あるのか?」
「はい。他国のものと組成の違う物が存在していますが、非常に小さい物が多くて作用が弱いのです」
アーメルサス産のものは、鉄電気石が圧倒的に多い。
だが、錆山で見つかるトルマリンは鉄ではなく、マグネシウムやカリウム、リチウムに置換されていて硝子光沢の物が多く結晶が小さめだ。
そしてそれらには、鉄電気石に見られない特徴があった。
鉄電気石は魔瘴素を多く抱え込むことができ、圧力などをかけて帯電させるとそれを分解して熱を発する物が多かった。
フォイト電気石グループに近い錆山の電気石は、鉄電気石よりも弱い圧力で帯電して魔瘴素ではなく
それはもう、小さい小さい、小さ過ぎるほどの超微弱電気だが、土中の似硼素が他のものと結びつくのを阻害する。
似硼素と魔瘴素が結合してしまうとか、火薬と結合してしまうことを防いでくれるお陰で、粘菌くんがそれらの分解をする手助けとなる。
「この『似硼素』というのも、俺が呼んでいる暫定の名前ですが、そいつは火薬の成分と結びつきやすくて、結びついてしまうと弱いながらも魔毒と似た成分になってしまいます。そして、魔法以外の『火』で焼いてしまったり、一定以上の熱を帯びると、その成分が飛び散って悪臭を放ちます。多分、この臭いを魔虫や魔獣が好むんじゃないかと思うんですよ。だから火薬に寄ってくる」
火薬があるところでは、火や熱が発生しやすい。
そしてこの似硼素と魔瘴素が結びつくと、こちらもまた魔毒の素に近いものになる。
「では、その似硼素を完全に除去した方がいいのか?」
「それはできません。似硼素自体は、この大地に必要なものなので土の中にも石の中にも、微量ですが存在しています。これと枸櫞の成分が合わさると、防腐効果がありますし」
「なるほど……だから、その粘菌が火薬を分解している最中だけ、働きを抑えるために超微弱電気を使うということか」
俺は頷き、何枚かの石板を取り出す。
どれが一番いい効果が出るかの確認がとりたかったので、幾つか違う魔法を付与してみたのだ。
まずはオーソドックスに【雷光魔法】を付与して『制御の方陣』を描いた石板で電気の大きさを変えるもの。
そして『雷光の方陣』を描いたものに【制御魔法】付与で、魔法が方陣を制御する逆パターン。
ちょっと苦労したのが石板の中にトルマリンを幾つも仕込み、重力系の魔法で圧力をかけて帯電させたもの。
だが、上手いこと外へ魔法を放出させられる方陣がなかなか見つからず、辿り着いた最も理想的な電気量になったものが『清浄の方陣』だった。
そういえば、石板の表面には『清浄の方陣』が描かれていることが多かったと思い出してやってみたのだ。
清浄という魔法には『正しく整える』という効果もあるのかもしれない。
いや、周りから干渉するようなものを取り除く作用……とか?
「どちらかの魔法を付与にしないと、方陣だけではすぐに魔法が終了してしまうんですよね。だけど、この方式ですと魔力は石板に貯めておけますし、設置の時に方陣発動の魔力を入れ込んでいただければ暫くは効果が続くはずです」
今回、魔効素ドーピングで永久機関化しなかったのは『どれくらいの耐久性があるか』ということも検証したかったからだ。
場所によっては魔効素の少ないところもあるから、それに頼らないシステムも必要かな、と思ってさ。
「解った。試してみよう。あの場所はあれ以上岩や土を削ると、近くの坑道に不具合が出そうだったんでな。あのまま、できるだけ早く回復できるように試していたんだが効果が薄かった。上手くいくといいんだがな」
「もうひとつ、お願いしてもいいですか?」
「まだ試したいことでもあるのか?」
「実は、設置してすぐの時と、十日ごとくらいに『写真』を撮って欲しくて」
「『写真』……?」
「はい。『静止映像』のことです。俺が料理の献立表とか、作り方の本に載せているもののように『その時の状態を写し留める』ものです。撮影機をお渡し致しますので」
「……動かないものを写し取る……ということか。【複写魔法】の応用ってやつか」
ちょっと違うけど、似たようなものでーす。
よしよし、これでデータが集まったら、火薬で汚れた部分の除去に有効な魔法の使い方が確立できるぞ!
やっとこれで、ゆっくり本に向き合えそうだな。
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