第674話 サプラーーイズ!
さてさて、朝食後に参りましたは、遊文館!
いや、警備や見守りなどをしていただいてる方々全員が集まれるタイミングが、ここしかなくてですね。
本当はもう少し早めがよかったんだけどねー、全員に『遊文館徽章』も早めに差し上げたかったし。
だけど……丁度いい日だからね、と皆様からのご提案で。
実はスタッフ達だけで行おうと思っていたのだが、第一回ということと遊文館徽章を施設に掲げる式典込みということで図書館内のオープンスペース的なところで行うことになったのだ。
表彰式に来てくださったのは、テルウェスト神司祭とレイエルス神司祭、そしてレイエルス侯とビィクティアムさんはオブザーバー的にご列席いただいた。
この日のことは事前に告知していたので、見物客もそこそこ居る。
子供達もいつもと違う雰囲気に、ワクワクドキドキしつつもお行儀よく見学態勢。
まずはスタッフ全員に遊文館徽章を配り、これを着けている人達が職員さん達ですよーと認識していただく。
おお、皆さんなんとなく誇らし気だぞ。
それもそうか……なにせプレゼンターが神司祭様だもんな。
続いては子供達へのサポートなど、本来の役目以上に頑張ってくださった方々への表彰。
特別徽章に金糸で刺繍が入ったチーフが、何人かの左肩に着けられた。
胸や襟に着ける徽章や勲章は、国として認められた勲章の位置なので民間団体のものは基本的に腕なのだ。
……まぁ、遊文館は俺の私設とはいっても、国の認可施設だからどっちでもいいらしいのだが、特に制定された叙勲的なものではないので腕の方がいいだろうということで。
ラストに発表されたMVPは、勿論マダム・ベルローデア。
特大の『んっまぁぁぁぁ!』を期待していたのだが、それが発されてもおかしくないリアクションなのに声がまったく出ていない。
吃驚しすぎて呼吸が止まりそうな勢いだったので、慌てて周りの人達が倒れないように支えていたくらいだ。
ビィクティアムさんが笑いを堪えてて、レイエルス侯もニヨニヨしちゃってて、なんだかマダム・ベルローデアって、存在が周りの人達を和ませることについても達人なのかもしれないって改めて思ったよ。
そしてレイエルス神司祭から『おめでとう』と、腕章と飾りチーフを着けて貰うとこれまたとんでもなく美しい礼をなさった。
……マダム・ベルローデアもやはり、貴系傍流の方なのだろう。
マジもんの『マダム』なんだなー。
俺にとっては、尊敬できる『第二の師匠』でもあるしね!
マダムの授賞にぼろぼろ涙を流して感激しているおじ様がいるぞ……あ、ご結婚なさっていたんだったよな。
おおお、めっちゃ『イケオジ』じゃないっすか。
ちょっと気弱そうではあるが、ちょいと陛下に似ている感じでイケメンおじ様……もしかして、皇系の傍流さんかな?
背はそんなに高くはないけど、がっしり目で格好いいおじさんだなぁ。
この方と一緒に、登山をなさっていたのだな。
ううむ、流石マダム・ベルローデア……何処までも侮れない方だ。
あ、走り寄っていったのは孫娘さん達だな。
お嫁さんご夫婦と思われる方々も、涙ぐんで祝福している。
仲も凄く良さそうなご家族だなー。
全ての受賞者への表彰が終わり、式典もそろそろお開き……かと思いきや!
本日に限り、特別演奏!
シュリィイーレ楽団の方々による『祝祭の鐘』という曲が、ファンファーレと共に流れ出しました!
子供達は、大はしゃぎ。
大人達も式典ムードからお祝いモードに。
それは当然……
「テルウェスト神司祭様、昇位とご生誕日、おめでとうございます!」
俺がそう声を上げると全員から祝辞が投げかけられる。
テルウェスト神司祭は何が起こったのかと呆然としているし、勿論何も知らされていなかったビィクティアムさんとレイエルス侯、レイエルス神司祭も吃驚顔だ。
「タ、タクトさん、これは、一体……」
ちょっとオロオロしているテルウェスト神司祭に、皆さんを代表して説明させていただきましょう!
「昇位が決まった時から、みんなでお祝いがしたいと子供達が計画していたんですよ。楽団の方々とか、子供達の親御さん達とかにも『協力してください』って、子供達が全部頼んでくれたんです。それならば、テルウェスト神司祭の生誕日のお祝いと一緒にやりましょうってことで、遊文館の皆さんも力を貸してくださったのです。教会の方々に内緒にしちゃって、申し訳なかったですが」
神官さんや神務士トリオ達にも内緒じゃないと、吃驚させられないから、と子供達に口止めされていたのだ。
そう、この計画はぜーんぶ子供達主体で行われてて、俺もただの協力者である。
俺自身は、サプライズというのを計画するのも、されるのも苦手である。
……シュリィイーレに来てから意図せず色々な人を驚かせていたことは……あるかもしれないが。
それに子供達が自分達で計画するから、と始めたことなのでサポートに徹したのだ。
俺が最初のかけ声を発することも、お子達からの指示である。
なかなかしっかり計画された『パーティ』なのだ。
ただ、神官さん達と神務士トリオがお引っ越し荷物運びでここにいないというのは……ちょっと想定外だった。
何があるかは言わずに『来てください』くらいは、俺の方から頼んでおけばよかったかも。
「僕達ね、お祝いに色々かいたり、作ったりしたんだよ!」
「そうなの、しさいさまにおくりものなの!」
「おめでとー!」
「お誕生日、おめでとうーー!」
次々に子供達が、テルウェスト神司祭に贈り物を手渡す。
まだ文字の書けない小さい子達や、マダム・ベルローデアから絵を習っていた子達は似顔絵とかテルウェスト神司祭に似合う物とかの絵を描いたみたいだね。
何枚もの手紙や、刺繍した手巾にメッセージを入れている子もいる。
成人の儀を済ませている人達からも、木工の飾り箱や石で作られた扉に飾るリースのような物まで。
レザムとエゼルは……おお、苺を使ってお菓子を作ったのか!
他にもクッキーみたいなものを作っている子は結構いるな……あ、簡易調理魔具お子様バージョンを使ってくれているのか!
なんて素晴らしい。
あの子達……夜にずっと屋上に居る子達だ。
抱きついて、お祝いを言っているみたいだな。
よかった、テルウェスト神司祭のことは怖がっていないんだ。
受け取りながら、テルウェスト神司祭はそりゃもーボロボロに泣きっぱなしだ。
子供達とプレゼントを抱きしめて、テルウェスト神司祭は嬉しすぎて言葉も出ないのだろう。
さてさて、お子様達からのプレゼントが落ち着いたところで俺からも。
……よーく考えたら、俺もまだ子供枠か?
「おめでとうございます、テルウェスト神司祭」
「タ、クト……さん……っ」
目は真っ赤だし、擦っちゃった顔中がぐちゃぐちゃだけど貰ったプレゼントをしっかりと抱きしめている。
では、それらは纏めて大きめトートにお入れいたしましょうね。
落とすといけないからね!
……一番大きいサイズのこの袋で、三つ分くらいありますね。
大人気だな、テルウェスト神司祭ってば。
そして、最後に俺から手渡した透明な水晶の飾り箱の中には、青真珠の釦飾り。
あ、吃驚なさったのか、一瞬涙が止まったぞ。
青真珠、なかなかないもんねー。
夕食時にあるだろう生誕祝いは『家族で祝う』ものなので、俺がお邪魔するのはちょっと違うかなって思っていた。
だから俺としても、このパーティに便乗させていただけてよかったよ。
「中央に集まるように煌めく
受け取ってもらえた途端に拍手が起こり、またひときわ大きく音楽が響く。
テルウェスト神司祭の周りには、子供達が集まってまたまた司祭様は泣き虫さんに逆戻りだ。
本を読みたい子達にはちょっと申し訳ないけれど、今日だけは子供達主催のパーティだからね!
あーあ、全然泣き止まないなぁ、テルウェスト神司祭……
小さい女の子達に慰められちゃって、更に号泣モードだ。
俺の横に寄ってきたバルテムスが、ぼそりと呟く。
「神官さん達もだけどさ、神職の人達って泣き虫だね」
「嬉しい時は、みんな泣き虫になるものなんだよ」
「タクトにーちゃんも?」
「おお、泣くね。そりゃもー、めちゃくちゃ泣きそう」
「かっこわりー」
「嬉しい涙は、格好悪くなんてないんだぞ」
そんなことを言いつつも、バルテムスも他の子供達もみんな笑顔だ。
テルウェスト神司祭は、この町の子供達にこんなにも愛されている司祭様なのだ。
「このような光景、シュリィイーレでなくば見られまい」
「そうですねぇ……感動的です」
レイエルス侯とレイエルス神司祭は、王都ではあり得ないことだと話している。
王都だけでなく他の町でもないことだ、とビィクティアムさんが言うと、おふたりも頷く。
……ちょっと、レイエルス侯が涙ぐんでいるみたい。
確かに、そうかもしれないなぁ……ここまで子供達が、司祭様のお祝いをしたいと思うことは珍しいのだろう。
こんなに神職の方々とは、近しい関係ではないだろうからね。
特に、男性司祭様と子供達って。
三人がちょっと羨ましそうにテルウェスト神司祭の背中を眺めていて、なんとなーく俺が得意気な気分になっちゃっているのは……内緒だ。
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