第673話 遺棄地からの届け物
冬場は体力増強メインだったせいで、お預かりしていた本は殆ど訳せていない。
だが、あらゆる本がずんずんと積み上がっていく。
そろそろプレッシャーになってくるのではないかと、整理して優先順位を再確認するために秘密蔵書部屋に入った。
……プレッシャーどころか、ワクワクが跳ね上がったぞ。
あれ?
ミューラの本を手に取っても、マイナス感情は湧いてこない。
この間ガイエスから受け取った時は、なんだか憂鬱にさえなる本だったのに……?
もしかしたら……『揃った』のだろうか?
あの時『なんだか手を付けたくない』と思ったのは、まぁ、不愉快そうな内容もあるかもしれないが『その時点で訳文を作り考察に入っても間違えた答えにしかならないよ』という『神々通信』をキャッチしていたのか?
と、なると、ビィクティアムさんからさっき預かった本は、その鍵か。
そんなことを考えつつ自室に戻ると……『転送の方陣』にモリモリと袋が大量に届いていた。
ガイエスくんは遺棄地で見つけたものを全部、場所別に袋に入れて送ってくれたようである。
そーか、これが俺の手元に来たから『揃った』のかもしれない。
しっかし、こんなに沢山……あいつのトレジャーハント能力が向上し過ぎてて俺のデスク上だけでは受け取りが難しくなってきたぞ。
地下の一角に『転送品部屋』を作った方がよさそうだ。
さて……ちょっと机の上のものを片付けなくては。
えーと、俺が頼んだ遺棄地の植物は……枯れかかっているものもあれば、根だけが生き生きとしているものもある。
土も付いたままというのはナイス判断だよ、ガイエスくん!
あ。
粘菌くんがいたぞ!
エーロア付近の植物の根の周辺、その近くの森の中を掘った時に見つけた石の中だ。
枯れかかっているものの根っこ付近にもいるが、数は少ないな。
そして不思議なことに、意図して入れたものではないようだが保存袋の中に少しばかり入り込んでいる『砂』にも、その粘菌が存在していた。
砂に粘菌……もの凄くミスマッチな気がするのだが……?
いやいや、この辺は後回しだ。
お片付けしなくては、何にも手が付けられない。
他の袋を開けていくと、デカ目の『岩』とも言えるようなものが現れた。
どう見ても人が切り出したような石なのだが……と、ひっくり返してみて更に驚愕した。
『神の緑の瞳に加護を
マイウリア語で掘られていたその言葉に、以前ガイエスが来た時にサラーエレさんが言っていた言葉を思いだした。
きっとこの文言が彫ってあったから、ガイエスはその部分を刳り抜いて送ってくれたのだろう。
一緒に入っていたメモ紙には『ハムト教会の壁』と書かれている。
以前、サラーエレさんが見たと言っていたものに間違いないだろう。
しっかり『緑の瞳』って彫られているけど……少し大きめに刳り抜いてくれているが、壁の他の部分には繋がるような言葉とか某かの痕跡なんてものは、特に見あたらない。
ひとつの大きい岩から加工した壁ではなくて、石を組み合わせてくっつけて壁にしているので綺麗な煉瓦積と言うほどではないが、彫られた文字とほぼ並行に継ぎ目らしきものがある。
となれば、これが彫られているのが『この教会の仕様』であって、誰かが悪戯や嫌がらせなどの目的で彫ったものではない。
もしそうだとしたら、教会側が放置していたはずもないだろうし。
あ、あ、あ、どーしても考え出しちゃう。
これじゃいつまで経っても片付かないでしょ!
今はまだ駄目だぞ、俺!
気を取り直して……ほほぅ、こちらはマイウリア王宮の隠し扉通路奥の……部屋……にあった、祠の中の石板んんんんんっ?
何処まで入り込んでいるんだよ、この冒険者さんは!
ああ……でも、さらっと遺跡への通路見つけちゃったりする人だったよね、うん。
うわぁ、この文字見たこと……あれ?
あるな。
見たぞ、つい最近。
てか、ほぼ今……あのビィクティアムさんが持ってきた『個人的に訳して欲しい』って言った本と同じ文字だけどっ?
東の小大陸とマウヤーエート……タルフだけでなく、もっと色々と繋がっているのか?
だとしたら……ミューラ関連の毒ってのも……この文字の時代とかからの繋がりなのかもしれない。
ホントにもうっ!
ガイエスからのものは『お宝』が多過ぎる!
片付けが全然、進まないじゃないかぁぁぁぁーっ!
いやいや、笑っていないよ?
楽しくなんて、なっていないってば。
ふほほほほほっ!
なんとか、なんとか体裁を整える程度には片付け終わり、優先順位と興味順位の高い順でやることを設定した。
よし、今日のところは眠ろう。
明日は、テルウェスト神司祭のお誕生日だ。
全部、それが終わってから、だ。
でないと何もかもが中途半端で、モヤモヤしたままになってしまう。
折角のお祝い事なのだから、全力でお祝いをするのだ!
だが……その夜、俺は遠足前の子供状態というか、遠足用のお弁当をどうしようかと考えるお母さん状態というか、楽しみと悩みがごっちゃになった感じのまま、ちっとも寝付けなかった。
……ふっ、朝陽が眩しいぜ……
朝ご飯、今日は俺が作るか。
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