第671話 誕プレを作ろう
明日は
教会の皆様のお引っ越しと、テルウェスト神司祭のお誕生日です!
神務士トリオの移動目標設定は完了したので、
作るものは釦飾りと決まっているのだが、組み合わせる貴石も問題になる。
真珠はカタエレリエラの象徴とも言える品だから、カタエレリエラの扶翼テルウェストに相応しい。
しかも今回使う青真珠は、テルウェスト家門の賢神二位の瞳の色だ。
この真珠をより美しく際立たせるために使う貴石と、それらを支える貴金属が重要になる訳だ。
テルウェストは賢神二位家門なのだが、炎系の魔法が血統魔法に多い。
ならば、と自慢のコレクションから使うのはこれだろう。
じゃじゃーーん!
取り出したるこの石は、光りによって色が変化する『神秘の宝石』としてあちらの世界では希少なもので、こちらでも採掘量は多くはない。
錆山でも少ししか採れない『
緑と赤、相反する輝きを持つこの石は、賢神二位で緑の加護色でありながら赤い炎を操るテルウェストに相応しいと思う訳ですよ。
大きいものが殆どなく魔石としてはあまり適さないせいか、皇国での価値は高いとは言い難い。
価値基準って、本当に違うものだよねー。
こっちだと綺麗なだけの石は、見向きもされないんだから。
ダイヤだって、魔力保持力の高いイエローダイヤが一番グレードが上なんだもん。
さてさて、そのイマイチな評価の小粒アレキサンドライトですが、綺麗であることは間違いないし魔力はカットと磨き次第で保有量も高められる。
だが、今回使用するのはあくまでブルーパールの引き立て役であり、テルウェスト血統魔法の象徴としての役割だ。
ドーム型の銀の台座中央に穴を開けて、そこに真珠をセット。
その銀ドームをアレキサンドライトで埋めていくのだが……石の向きに注意せねばならない。
小さいながらもキャッツアイ効果のある石をランダムに配して、キャッツアイの縦ラインが真珠からの放射状になるように置くのだ。
ドーム型なので光りが均一にあたらないというのも、不思議な燦めきを作る演出になるだろう。
それと、真珠は炭酸カルシウムが含まれてて酸に弱いので、どうしても手で触れれば皮脂などが付いて酸化の原因になる。
だから照りと輝きを保持するために、薄ーーーーく水晶の保護膜を付けました。
真珠の輝きを損なわず、魔力保持力もグン、と上がる保護方法ですからね。
勿論、銀の台座の方もガイエスの『
ふっふっふー、でーきたっと!
聖神司祭様だから、最高級の加工でもぜーんぜん問題ないのがいいね!
今回は昇位のお祝いも込みだから、いつも着けてて欲しいなってことで『加護』もプラスしておきましょう。
王都の大聖堂や式典会場なんかに入る時、魔法付与だけのものだと持ち込めないらしいからね。
……ビィクティアムさんにも報告しておかないと。
俺の『神具創錬師』としての、初仕事だしなー。
早速、東門詰め所に行こうかと一階に下りたら、裏口からビィクティアムさんがご来訪。
あれれ?
こんな真っ昼間に……まさかの『休日』?
「ああ……強制的に休めと言われた。ドルーエクス医師は、少々慎重過ぎる」
ははぁ、俺と同じで魔法を使いまくっているから、ドクターストップがかかったのですね?
俺と違ってまだ体力的には問題はないんだろうけど、ビィクティアムさんは俺より食べないからなー。
「すまんな、まだ昼の食事には早いだろう? 保存食、買って戻るから……」
「いえ、俺もご報告したいことがございますので、お食事をお持ちしますよ!」
今日のランチはハンバーグのピリ辛赤茄子ソース仕立てと、
昆布出汁を使ったしゃきしゃき
「それは、旨そうだな。タクト、おまえの分も持って来いよ。紅茶は、この間レイエルス侯がいい茶葉をくださったから」
はいっ!
誕プレ作ってちょっとお腹が空いているので、ランチ持参で参りますー!
ついでに備蓄食料に、保存食も持って行っておこう。
明日と明後日、うちの食堂はお休みだからね。
連休だったら可哀相……いや、連休ではないかな?
はー……食後のティータイム、サイコー。
レイエルス侯からの紅茶は、春一番のファーストフラッシュですなぁ。
いい香りぃ……
「それで? 何か、作ったのか」
ビィクティアムさんの声色は、興味半分呆れ半分だろうか。
「今回は神具創錬師として作ったものですので……多分、加護法具登録などしていただいた方がいいかなーと」
「初めて『自覚して作った』ということか。何を?」
「テルウェスト神司祭の、生誕日の贈り物です。昇位のお祝いも含んでおりますから、ちょっと気合いを入れてしまいました」
俺が箱を開けようとするのを止めて、名付けをするのか、と聞いてきた。
……それは考えていなかった。
「事前登録だと名前が要るな。『
あ、そーいう感じのお名前で登録するのか……
むむむ、名付けは……苦手なんだがなぁ。
「だが贈り物ならば、おまえが事前に加護法具としての登録はしない方がいいぞ」
「え、しておかないと面倒なことになったりしないんですか?」
「いや、多分、おまえが作る加護法具の場合は、登録なんてした方が面倒になる。おまえが登録をしてしまうと、一度は賢魔器具統括管理省院で預かりとなる。その効能や効果が認められたら、紋章章印議院内の法具管理登録院での加護法具登録をしてから、陛下の認定を受けて、おまえから譲り渡す者がその法具を持つに相応しいかの審議がされるだろう。だから、その全ての認可が下りた後でないと、その本人に渡せなくなる」
うわぁ……なんですか、そのお役所ツアー!
つまり、前日にちゃちゃっと作って『ハイ、加護法具のプレゼント!』なんてことはできない上に、渡す人が相応しいかまで見ず知らずのなんの関係もないお役人さん達に審査などということをされるのだ。
ジョーダンじゃない。
「だが、渡された本人から『素晴らしいものを貰ったので財産登録をします』ってことならば、その時に加護があると解っても登録申請は簡単だ。その場合は所有資格云々などという下らない審査はされないし、名前は、貰った本人が付けたければ付けるということになる」
「そっちにします」
そりゃ、もー即答だろうよ。
名前付けなくていいし、すぐ渡せるし、絶対そっちだろ。
「そうだな。その方がいいと思うぞ。法具としてか贈り物としてか、どちらを優先するかということになるからな」
ビィクティアムさんは二杯目の紅茶を注ぎつつ、にこりと笑う。
「おまえが俺やレティにとくれたものも全部、俺の方で法具登録しているからな」
そう言って、俺が以前作ったケースペンダントとか天青石の袖釦飾り、誕プレの千年筆なんかも全部財産登録しておいて欲しいとナルセーエラ卿に言われたと教えてくれた。
「おまえのご両親とメイリーンが持っているものも、教会で登録してもらった方がいいかもしれないな。ああ、でも、今度ナルセーエラ卿がいらした時に、目録登録で平気……か?」
「そ、それって、今後俺の作るものは全部、そーいう扱いになっちゃう……と?」
「素材と形状による……かな。身に着ける装飾品は、その確率が高いだろう。『神具創錬師』の作り上げたものには、加護が顕現するだろうからなぁ。おまえも誰かに贈ったら『何で作ったどんなものを誰に贈った』くらいは、事後でいいから報告を入れた方がいいぞ」
神々も、なんて面倒な職をくださったのだろうか……
いや、面倒なのはこの社会のシステムだな。
人が『社会的に生きていく』ってのは、そーいうシステムが必要なのだろうから仕方ないんだけどなー。
加護法具ってやつも、なかなか面倒なものなんだなぁ。
……あれ?
もしかして『俺』が、面倒なのかな?
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