第668話 きっかけ作り

 家に戻った俺は、方陣とそれを利用した魔道具作りの大体のプランを練った。

 簡単な方陣の書き方を覚えて、それを使った魔道具を作るところまでセットでやってみよう。

 勿論、まだ【加工魔法】とか木工などの技能を持っている子は少ないと思うから、嵌め込み式の簡単なプラモデルみたいな物を作るのだ。

 何にするかはまだもう少し考える時間があるから、みんなにどんな物が作りたいか聞いてみよう。


 そして、計画していた『感想カード』を書いてもらう件についても着々と進んでいる。

 常時開催イベントを作ることで、本を読むきっかけになったり別のジャンルにも興味を持つ手助けになったらいいんだけどな。


 感想カードを書いてくれた数でもらえる景品と、違うジャンルの本をどれだけ読んだかでもらえるご褒美が変わるようにしたのだ。

 読書感想の数だと、チェーン付きのチャーム。

 ハンバーガーとかフライドポテト、目玉焼きの載ったランチプレート、うちの自慢のお菓子達を千年筆に付けられるチャームとして作ったのだ。


 一センチくらいの大きさのちっちゃいものからサイズ違いで何種類かあって、達成数によって選んでもらえる。

 千年筆だけでなく、身分証ケースの鎖とか、鞄のベルト部分とか、衣囊ポケットのボタンにも付けてもいいかなって。


 本当はそのものズバリの立体ミニチュアもいいかと思ったのだが、大きくなっちゃうとちょっと邪魔。

 だから、アクリルキーホルダーみたいな、ちょっと厚みのある金属板にカラーレリーフをしてみました!

 アクリル、存在してないからね。

 ふふふ、カメラと簡略化のシルエット画法が役に立ちましたよ!


 だけどジャンル制覇は、月ごとにビンゴカードのような物を作ってマス目には本の名前かジャンルが書かれていて感想を書いてくれたらスタンプぽん!

 縦横斜めを揃えられたら、ご褒美をあげるシステムだ。


 おそらくだが、魔法や技能顕現には『相反するような知識』も必要なのだ。

 だからどんなに好きでも、同じジャンルの本ばかり読んでいては結果に結びつきにくい気がする。

 予兆はあっても試行が足りないと、成果まほうが出ないのは『多角的に捉えること』ができていないからなんじゃないかって。


 火をおこすことばかり学んでいても、どうやったら火が消えるかを学ばなければ『火の特性』は理解できない。

 更に火というものが、何とどう関わって燃えたり熱を出したりしているのかの『理解が深まった』時に『魔法に届く』のではないかと。


 そういう知識は、一見関係ないと思われるところからもたらされるということも少なくない。

 だからこそ、まずは広く浅くでいいからあらゆる本を手に取って眺めるのも大切なのだ。


 何かを調べたり知りたくなった時に『何処を調べたらいいか』を思いつくためには、自分の中に『知っている言葉のインデックス』が必要だ。

 検索するためのワードをより多く知っていた方が、求める知識に辿り着きやすくなるのは紙の辞書でも検索サイトでも一緒だからね。


 だから、子供の時には多くの言葉と考え方に触れた方がいいと思う。

 でも、過去に書かれた本や検索して見つかったものが、必ずしも正しいとは限らないから、判断できるようになるためにも多角的に調べて欲しいし考えて欲しい。


 魔法や技能はそうして『知ろうとしたこと』『やろうとしたこと』のご褒美な気もするしね。

 知ったから、できたから、ではなくて『予兆と試行』なんだから。

 その最大のインデックスが、遊文館にあるのだから片っ端から本を開いていって欲しいのだ。


 一冊を全部を読めなくていい、完璧に覚えてなくたっていい。

 なんとなく聞いたことがある気がする、という『ひっかかり』を作るためでいいんだ。

 そうして自分で調べたら今度はそれが身に付いて、魔法や技能に繋がると思う。


 だけど最初は何から手を付けていいか解らないと思うから、こんなゲーム的にしてみたのだ。

 一ヶ月で難しかったとしても、時間をかけて一枚のカードが埋まるまで頑張ってくれてもいいし、毎月カードを取り替えて気分を一新してチャレンジってのもいい。

 感想は、全部読まなきゃ書いちゃいけない訳じゃないしね。


 シートは四マスのちっちゃい子用と、九マス、十六マス、二五マスの三種類で、ひとりにつきひと月に一枚の挑戦だ。

 どれに挑戦してもらってもいいが、マスの数が多ければ選べる景品が増えるのだ。

 二十五マスのものは、二ヶ月か三ヶ月に一枚とかの方がいいかな?

 そしたら、他のマス数のものと並行でチャレンジしてもいいか。


 大体五センチくらいの食べ物とか乗り物とかのミニチュアシリーズなどで、揃えるラインごとにひとつずつ毎月違う物をゲットできる。

 しかもコレクションしたくなるように、二五マスシート一枚フルコンプすると専用飾り棚なんかも貰えるのだ。


 この景品用のチャームとミニチュア、フルコンプの景品以外は俺ではなくてあちこちの工房に作製を頼もうと思っている。

 木製、石製、金属製、革製品や布製品もあっていいんじゃないかと思って。

 月によっては飾り釦とか、徽章でもいいよね。

 ガチャガチャの中身を考えるみたいで楽しーい!


 適性年齢以上の大人の方々は、子供達と同じだが二五マスシートのみチャレンジ可能である。

 こちらのビンゴカード、残念ながら感想を書くだけでは大人にはコンプリートできない仕組みになっている。

 三領地以上の蔵書が必ず含まれるから、クリアできないマスが必ずあるのだ。

 それと、大人はシートに有効期限を設けようかなー。


 この常時開催イベントは、子供のためのお楽しみ企画なので大人に本気を出されてしまっては意味がないからね。

 だけど、大人の皆さんも手に入れられない訳ではない。

 ……買え。

 ということだ。


 その売上げは勿論、遊文館で子供達のために使わせていただく。

 俺の私財がなくなったとしても、この施設が保たれ続けるための財源確保の道は多いに越したことはないのだ。


 しかし、大人への販売はひと月に三種類をひとつずつだけである。

 毎月内容が変わるので、ちゃんと感想を書かねばフルコンプはできないのだ。

 大人は、文字数制限とかしよう……『面白かった』だけとか、同じような感想を機械的に書いていたら却下しちゃおう。

 ま、そんなにムキになって集める人もいないだろうけどねー。


 これで子供の頃からコレクションの楽しみを覚えてもらえたら、ゆくゆくは【蒐集魔法】を獲得できる子も出てくるかもしれないよねっ!

 でも、あれだけ色々集めていたセラフィラント公が持っていないみたいだったから、難しいかなぁ?


 シュリィイーレが『レア魔法を獲得できる町』になってくれれば、更にこの町のブランド力がアップすると思うんだけどなー。

 家系魔法や血統魔法が獲得できない人達であっても、レアな『在籍地魔法』があったら……ってね。


 他の領地では、この町のことを良く思っていなかったり下に見ているやつらも大勢いると聞く。

 だけど、折角シュリィイーレはこの皇国で『唯一』といえる特殊な町なのだ。

 それが引け目とか隠したいことなどではなく、他領に行って誰かに何かを言われたとしてもこの町で育ったことを誇りに思って胸を張っていて欲しいんだよ。


 これもまた、俺にとっては壮大な『実験』なのかもしれないなぁ。


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