第663話 第二回絵本二次選考会
本日は『第二回絵本コンクール』の二次選考です!
ビィクティアムさん、テルウェスト神司祭、レイエルス神司祭、そしてなんとなんと、レイエルス侯もいらしてくださいましたよ!
いやぁ、司書書院管理監察省院の省院長閣下に参加いただけるなんて、光栄ですなぁ!
どうしてセインさんと違って当主であるレイエルス侯がそのまま役職に就いているか、といえば『貴族』ではないからだ。
そしてもし貴族認定されたとして『絶対遵守魔法』があると解ったところで、現時点ではまだ『次代に聖魔法がない』状態なので『仮階位』扱いだからってのもある。
レイエルス侯は少なくとも次代に聖魔法が出ないうちは『絶対遵守魔法』があるということは明かさないつもりのようだし、もしご自身の系統家門ではなく別系の『絶対遵守魔法』持ち家門で該当する次代が出たら、そちらに『当代』を譲るおつもりだろう。
だが、どの傍流家門の次代もまだ適性年齢前なので、最短であってもあと六年は当代が決定できないということだ。
「タクト、今回は面白い作りのものはあったか?」
ビィクティアムさんがワクワクなのは、立体造形ものが見たいのだろう。
「ありましたよー。まずは、紙製ですが……なんと、開くと絵が飛び出すように出て来る『折り畳み絵』が使われているものです」
飛び出す絵本は、何種類も出てくると思っていたんだよね。
「おお、これはなかなか面白い! 絵が本の上で立ち上がるとは!」
レイエルス侯は前回のものをご覧になっていないから、余計にはしゃぎっ振りが新鮮である。
「それと……この取っ手を、枠に添って横にずらしてみてください」
俺がビィクティアムさんに手渡したのは木工で、木枠の中にレリーフが作られているものだ。
だが、ただのレリーフではない。
厚めのフレームに幾つか付けられているレバーを左右に動かすことで、物語の場面転換がされて違う絵が出て来るのだ。
「なんと手の込んだ……本と言うより、まるで舞台のようだな!」
「今回はこういう『動く絵本』がとても多いのですよ。こっちのものは円筒の中に『採光の方陣』があって、こう……くるくる回すと……」
「光で絵が浮き上がってくるのですか!」
「色が付いているから、透けて見えるととても美しいですね!」
サイズ的に
これらのような『止まっていない絵』は、子供達に大ウケだろう。
勿論、前回のような木版画とか、ステンドグラスとか、刺繍などで『本』の形になっているものも優秀な作品が数多く集まった。
「これは……前回以上に選考が難しいですねぇ」
「ええ、どれも素晴らしい技術で、子供達に解りやすい『絵』を心掛けているようでいいですね」
皆さんが真剣に選考態勢に入られましたので、おやつとお飲み物の準備をいたしましょうね。
応接室にVIPを残し、俺は厨房へ本日出す予定のスイーツを取りに行く。
今日いらしている方々は馴染みもあるし無茶なことを言ったりしたりする方々ではないから余裕があるのか、金証四人の護衛で付いて来ている衛兵隊の皆さんもおくつろぎのようだ。
皆さんお疲れ様ということで、全員にお菓子を振る舞いましょう。
衛兵隊員達の分は、ビィクティアムさんとレイエルス侯からの奢りだからね。
「やった、苺だ!」
ゼオルさんは苺が大好きなんだよね。
「はい、今年最初の収穫分で作りました、苺ルリィと苺冷菓です」
クリームたっぷりの苺のロールケーキに苺のアイスクリーム添え。
アイスはピンクにしたのではなくて、ドライフルーツを作っておいた去年の苺チャンクを混ぜ込んでいるバニラ味だ。
ランタートさんもアイス好きだからか、めっちゃニコニコ。
氷系の魔法を使う方々は、アイスや氷菓が好きなのかもしれない。
ライリクスさんには、後で届けてあげよう。
応接室の皆さんにも提供し、俺は選考が終わるまで外で待機。
今日はランチタイム・スイーツタイムは貸し切りなので、母さん達もまったりだ。
そうだ、今のうちに自販機の在庫補充しておかなくちゃ。
補充品が転送で送られる部屋に入ると、凄い勢いでお菓子が減っている。
いや、それだけではない。
保存食もシシ肉料理を中心に随分と少なくなっているぞ?
慌てて補充品をセットし、物販コーナーを覗き込むと……来た来た来たーーっ!
爆買い娘ヒメリアさんであるっ!
いや、どうした?
なんだかいつも以上にとんでもない勢いで、ストレス発散的に買いまくりだけどっ?
おかしい。
なんだかいつものヒメリアさんと違って、思い詰めているような表情で機械的に自販機に金を入れ、ボタンを押し、商品を【収納魔法】に放り込んで、また硬貨を投入……
いやいや、本当にどーした?
思わず俺は、その動きを制止するように声を掛けた。
「ヒメリアさんっ! そんなに同じものばかり買って、どうするの!」
はっ、と我に返ったようなヒメリアさんは、四十個目になるシシ肉の赤茄子煮込みをポチる寸前だった。
「……も、申し訳、ございません……えっと、わたくし……」
「本当に必要な分だけで、返品も交換も構わないよ? 大丈夫?」
小さい声でもう一度、すみません、と呟く彼女に、何かあったのかと聞くと、困ったような泣きそうな『への字口』の顔で俺をちょっと睨む。
え、何?
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