第660話 希望的観測に対する要望
どうやら俺の脅しでガイエスはすっかり怖くなっちゃったのか、二個目のトローメロババロアケーキを食べつつ今回はカバロを牧場に預けていこうと決めたようだった。
だけど、廃墟になって『様子が変わった町』に、方陣の『門』が繋げられるのか?
「いや、多分繋がらないと思う。だから、アーメルサスの元国境門から『遠視の方陣』で視ながら動く」
「……目、疲れるんじゃないのか?」
「あ、そうだ! あの目がひやってするやつ、何枚か買えないか? 『寒風の方陣』とか使うと、身体中が冷えちゃうんだよ」
どうやら寝る時に四半刻ほど使うと、次の日はすっかり回復しているそうだ。
そりゃよかった……あれは冷感の微弱回復だからね、というとしまった、って顔していた。
微弱回復は思いついて欲しかったが、俺が作っているものを信頼してくれているってことか。
追加で作っていた分は、方陣じゃなくて付与だったから気付かなかったのかもなぁ。
そうだ。
これも頼んでおこうかな。
「西側に行って、もし植物が残っていたら『根から抜いて土が付いたまま』何種か保存袋に入れて送ってくれないか?」
「……今度は草まで……? 何するんだ?」
「魔毒が何処まで影響するのか、視ておきたくて」
不殺の迷宮の中には全く植物はなかった。
ガイエスが入った迷宮でも、植物は見た記憶がないと言っていた。
それは地下で岩盤が固いからだとも思うのだが、迷宮の入口付近ですら『中に入った途端に植物はなかった』と言うのだ。
ならば、オープンタイプの迷宮はどうなのだろう、と思った次第。
大峡谷でも倒されてしまっていた真珠の石板の周りに短い草のようなものがあったが、俺が【極光彩虹】と【雷光砕星】のコンボをぶっ放したら芝生くらいの長さに成長していた。
あれは『何もなかった場所から生えた』のではなく、おそらく『成長できずにいたものが芽吹いた』だけだと思う。
だからきっと、遺棄地であっても植物の根とか種とかは死なずに休眠状態になるだけなんじゃないか、と考えた。
まだ頑張っている植物が調べられたら、その過程とか魔毒が動植物にどう影響するのかも解りそうかなーって。
それってガイエスがユグム山脈で修理した『石板浄化システム』や、南の泉で見つけた石板で作られる『育成水システム』が関わっていそうじゃないか?
そのシステムを国境沿いの山の中や、魔虫が見つかった森林などに導入できたら魔毒の予防とリカバリーになると思うんだよねー。
湧き出る泉や支流の上流の方から清浄水にできたら、魔鳥の排泄物由来の魔線虫も対応できそうじゃないかって。
コーエルト大河だって上流にそういうシステム作っておけば、逆流は防げないけど魔魚の遡上をマントリエルまで寄せ付けずに済むかもしれない。
これは、水量や逆流の勢いで変わるかもしれないけど、何もしないよりはいいと思うんだ。
データが集まってみないとそんなご大層なことができるかどうか解らないので、希望的観測程度のことは言わずに依頼だけしておいた。
今回は、首を傾げる回数が多いな、ガイエスくん。
そんなに不思議かなぁ。
あ、保存袋の予備、いっぱい作っておこう。
ガイエスが何か送ってきたら、すぐに新しいのを送ってあげないとな。
危険だと解ってはいても、なんだかんだ言ってガイエスは大丈夫な気もする。
勿論ちょっとばかし加護は強くして、怪我とかしにくいようにはしてあげよう。
おかわりのスイーツも綺麗に平らげ、ガイエスが明日は朝のうちに出発するという。
「また、来るんだろ?」
「来るよ。いい宿も見つかったし、ここの食堂の食事も旨いし、遊文館の本もまだ読みたいものはある」
「夏くらいになったら、カルティオラの本が増えるから、セラフィラント在籍のおまえならそっちも読めるからね」
「……カルティオラも多いのか?」
「んーと、セラフィエムスの半分くらい、かなぁ。カルティオラは文化史とかそれ系の本が多いって感じだったなー」
まだ全部は来ていないから、今回届いた三千くらいだけの印象なんだが。
現代文字のものも多かったけど、他の家門があまり気にしていないような本が多くて面白そうだったんだよねー。
「まだまだ、本は増えるからね。いつでも読みに来いよ」
「方陣の本をまとめて置いてくれると、助かるんだがな……」
「そしたらそれだけしか読まないだろ? 探している時に『気になる本』ってのを見つけるのも、楽しいんだよ」
本棚の本を眺めて目に止まるのも、町中で偶然すれ違う誰かと言葉を交わすのも全部『出会い』だからね。
自分からそれを狭めちゃうのも、勿体ないでしょ。
本当に欲しい知識や、一生付き合える人に出会うのも『自分が知っている範囲』だけに存在しているとは限らないんだからさ。
ま、これも『希望的観測』のうちのひとつだけどね。
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『緑炎の方陣魔剣士・続』肆第3話とリンクしています。
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