第646話 憶測考察とアフターフォロー
「ところで、なんでそんな山奥っぽい所に行ったんだ? 迷宮の噂があった訳でもないんだろうに」
皇国だと、迷宮ができる訳ないしなぁ。
他の土産物を出してくれていたガイエスの手が止まる。
「色墨が値上がりしてて」
……?
どうしてそのポイントが、山奥の谷底探検に繋がるんだよ。
「理由を聞きに行ったら、ブロキュス村って所の土砂崩れのことを聞いて」
はいぃ?
「『遠視』と『門』でそこに行って、村の人達を外に連れ出して」
レスキューか!
普通に災害救助だよな、それって。
オレンジのツナギ、作ってあげたくなっちゃうじゃねーか。
「土砂が谷にまで入り込んでた場所があって。一緒に居た衛兵隊隊長に『誰も入ったことのない谷』って聞いたから行ってみた」
そんな『偶々行った所の近くが観光スポットだったからついでに見てきちゃった』みたいなノリで、未踏の谷底歩きに行くやつ初めて見たよ。
こいつ、ペルウーテであんなことがあったもんだから、警戒危険度レベルがバグっちゃってんじゃないのか?
いや、冒険者さんってみんなこうなのかな?
土砂崩れがあった場所の谷底なんて、いつまた上からドバーーって土砂が来るか解んねぇじゃん!
今気付きました、みたいな顔をするなーーっ!
「まー、なんともなくって良かったよな」
「……おう」
ううむ、ガイエスはいざとなったら『移動の方陣』でオルツかラステーレの国境近くに緊急避難ができる。
越領のことを咎められるかもしれないけど、命の危機ということであれば考慮はされるはずだ。
だけど、カバロはその方式では移動できないんだよなぁ……
もし何かあって緊急避難をしたい時でも、カバロのことを考えたらガイエスは一瞬躊躇うかもしれない。
いや戸惑うどころか、こいつ、絶対にカバロをおいてなんか逃げなさそうだし!
できれば越領させずに、退避できる方法があると一番いいんだけどなぁ。
そんな魔法は無謀かもしれないけど、方陣魔法師であるこいつだったら俺の【祭陣】で組んだ方陣の全部が使えるかもしれない。
カバロも一緒に緊急避難できる方法……それができたら、ガイエスはもっと危険な場所に行くかもしれないけど。
……ちょっと考えよう。
改めてその崩落事故のあった採掘村の話を聞くと、道路が半年前に寸断されて馬車方陣や教会門での移動で村の三分の二くらいは避難済みだったようだ。
なんで三分の一の人達が残ってたのかって理由も気になるところではあるが、そもそもどうしてそんな風に崩れるほど、無茶な採掘をしていたんだろう?
昔からっていうなら余計に、どこをどう掘ったら危ないってちゃんと鑑定とかされた上で、錆山みたいに計画的に採掘場所が決められるはずだ。
熟練の採掘師だって適切な魔法や技能がなかったら、そんな危なそうな場所では勝手に深く掘り進めはしないはずだから、小まめに鑑定しながら進めていただろうに。
……元々は……さほど危険じゃない、崩れる心配の少ない山だった……とか?
あれ、なんか……やな予感がするなー。
「さっき言っていた『泉と祠』の近くに……魔虫っぽいのとか、いなかったか?」
俺がそう聞くと、思い当たることがあったようだ。
「岩の扉の前は少し広場みたいになってて、そこにだけ短い丈の草が生えていた。カバロが入りたがらなかったんで、殲滅光を撫でるようにあてたら……何かが消えたんだが、それが何かはよく解らなかった」
「そうか……殲滅光は魔虫特化ではあるけど、他の毒虫に汚染されたものを分解しない訳じゃないからな。それだと、魔虫かどうかの判断はできないか……」
「魔虫がいると、どうなんだ?」
「その辺は、まだ全然資料が集まっていないからなんとも言えないんだけどね。崖崩れの原因に……魔力溜まりがあって、魔虫が入り込んでいたら……とはちょっと思ったんだよな」
皇国には、魔獣はいない。
大樹海は解らないけど、あそこは境域結界があるから人も魔獣も行き来はできないだろう。
今の俺の仮説だと、魔獣は『某かの動物が変化したもの』ではない。
魔獣は初めから魔獣、なのだ。
だから、魔虫が魔力溜まりを見つけて、せっせと穴を掘って行ってもその穴が魔獣によって広げられて迷宮化することは皇国内では『ない』と言っていい。
でも……その状態だからこそ、誰からも見つけられずに虫食い状態になっている場所があったとしたら?
それを知らずに、正しく鑑定もできずに掘削してしまったとしたら……思わぬ所から崩れてきても仕方ないんじゃないだろうか。
「そう、いえば、ブロキュスを見た時に、初めてシュリィイーレに来る時抜けてきた少数民族の村を……思い出した」
「それって、土砂に埋もれていたからっていうことじゃなくて?」
「おそらくそれもあったと思うが、少数民族の村では屋根まで埋まっていたんだ。プロキュスとは全く違う光景だった。だけど……なんだか、なんとなく似ているって、思ったんだよ」
なんとなく、という感覚は、意識していないが記憶の片隅にある、ということか。
状況というより、なんらかの要素?
空気感とか、臭いとか……
「土の色とか、瓦礫の大きさとか?」
俺がそう言うとちょっと考え込み、瓦礫じゃない、と呟く。
「岩壁……だ。岩壁の色が、そういえば、似ていた気がする。変に黒っぽくて細かいひびがあって……だけど、ブロキュス村には全く魔毒とか魔虫の気配はなかった」
「その辺も併せて、コレイルに知らせた方がいいかもな。おまえの名前、出しても平気?」
「ああ。イシュナの衛兵隊長も知っているから」
それでは、その辺は俺の憶測的考察も一緒にビィクティアムさん達に連絡しておこう。
セラフィラントの方陣魔法師の言うことであるのなら、セラフィラントの次期ご領主様からの方がいいもんな。
うまいことアフターフォローができるといいんだけど……まぁ、なんだか大丈夫な気はしているんだよなー。
全部、ガイエスくんの大活躍で。
衛兵隊とかに、そいつを確かめに行っておいて欲しいってくらいなんだよね。
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『緑炎の方陣魔剣士・続』參第109話とリンクしています
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