第644話 友、来る
一昨日は思わぬ文化的違いに少々ダメージをくらったが、まだ立て直しはできるぞ頑張れ、俺!
ということで、新たな文化を『食』で確立していくべく明日から始まる春祭りの店頭販売準備です。
方向性は違うが心の平静を、そして高揚を呼ぶには『美味しく楽しいもの』は大変有効なのである。
今回の店頭販売は……中華まん!
コンビニの定番!
冬だけでなく春でも夏でも売って欲しい肉まんあんまんを、目の前で蒸し上げる。
今回のために作った『蒸し籠』を開けた時のぶわっと立ち上る湯気は、視覚効果抜群なのである。
名前は『中華』の説明はできないから『蒸しパン』の一種ということで『まんじゅう』としたかったのだが、似たような音の単語があって諦めた。
そして『◯◯まん』も『まん』の説明ができなくなっちゃうので、素直に『包み蒸しパン』ってことで落ち着いた。
あんこ包み蒸しパン、肉包み蒸しパン……言いづらい。
やっぱり個別の名前を付けよう。
えーと、パン……というよりは、包むとか蒸すっていう方に重きがある気がする。
【言語魔法】と【音響魔法】を使って皇国文字を『音』にしてみると、『蒸す』は『ヴァー・プルゥ』って聞こえるな。
文字にすると『プルパン』とか『プルパネ』って読むのが『蒸したパン』……『ル』が、ほぼ聞こえないから息遣いレベルの音なんだろう。
相変わらず発音難しいよなぁ、皇国語は。
よしっ、じゃあ『プパーネ』とかにしちゃうか!
おまんじゅうは中身を包み入れた『◯◯プパーネ』って呼んで、ただのプパーネだと中身を入れていない蒸しパン!
きーまりっと。
でも、そうすっと『あんこプパーネ』と『肉プパーネ』……しまった、なんかちょっと面白い名前になっちゃったけど、まいっか。
春祭りの下準備もほぼ整って、本日は祭り前日だから食堂はお休み。
だが、自販機に補充に行かねば、と一階に下りるとそこに人影が見えた。
俺が声をかけると、丁度買い物を終えたらしくこちらに向き直った。
「思っていたより遅かったなー、ガイエス。今日来たのか?」
「いや、昨夜……ちょっと遅かったから、食堂が閉まっててさ」
どうやらカバロは宿の厩舎が大変お気に召しているらしく、お留守番だそうだ。
ちぇっ、撫でたかったのに。
宿は南・橙通りの緑地近くにある所が取れたらしい。
「いつまで?」
「一応、十五日まで。あとは……カバロ次第だな。あいつ、この町が結構好きみたいだから」
相変わらずのカバロファーストか。
昼飯をご馳走しつつ話でも……と、小会議室で待っててもらおうと案内したら母さんと鉢合わせた。
「あらら、ようこそ。えーと、ガイエス、だったわねー?」
「なんか使ってた?」
「やぁねぇ、言ったでしょう? 今日はご近所さんみんなでお昼にするって」
あ、そうだった。
朝聞いたのに忘れていた……それで二階の台所でプパーネ作っていたってのに。
応接室は飲兵衛会が開かれていて、祭りの前夜祭とばかりに父さんとおっさん達が盛り上がっている。
酒は……魔法師なら、止めておいた方がいいよな。
俺も得意じゃないし。
「ガイエス、俺の部屋でもいいか?」
「俺は構わないが……」
じゃ、俺の部屋でちょっと早めのお昼ご飯にしよっか。
俺の部屋もちょっとだけ整頓したんで、小さい文机があっても食事をするふたり掛けのテーブルと椅子くらいなら入れられる。
今年の冬の体力増強時にコレクションに再度入れた鉱石を戻しながら、部屋の飾り棚も整備し直して綺麗にしたのだ。
本や大きめデスクも隣の書斎だし、ベッドはぱぱーんと跳ね上げておけば更に広々。
招き入れると、前回この部屋に入った時には見向きもしなかったコレクション鉱石の飾り棚を見ている。
あ、そうか、自分が採ってきたものが並べられているかもって気になったのか。
勿論、飾ってあるぞー。
「全部、何処のどういう石か、書いてあるんだな」
「そりゃあ、ね。記録は大切だからな。おまえが持って来てくれたやつもあるし、他の人からもらったものもあるし」
「……おい……この『ビィクティアムさんから』って書いてあるの……セラフィエムス卿から、なのか?」
「あー……そうそう! 随分前だけどさー、錆山で採ってきてくれたんだよ。あの頃は俺、まだ錆山に入れなかったから嬉しかったなー」
あ、吃驚してる。
それもそうか……大貴族様が自分で採掘するなんて思わないものな。
ビィクティアムさんって、なんでも取り敢えず自分でやるんだよなー。
しかも、結構何もかもできちゃうもんだから……まぁ、そういう人はお貴族様では珍しい方だとは思うけど。
ガイエスは、他にも色々な送り主や鉱石の名前の書かれているカードをまじまじと眺めている。
組成分解して色々抽出する前に、コレクションに入れておくためのものも複製していたんで、ここにあるのは複製品の方なんだけどねー。
他のも単一素材にもしておきたいし、そのまま取ってもおきたいじゃん?
オリジナルの方は……特にガイエスから貰ったものは、ちょっと調査中なんで別の場所に置いてある。
そして、ガイエスは眺めていた棚に自分の名前も見つけたのか、ちょっとによによってしてた。
では、食事運んでくるからちょっと待っててなー。
色々冬の間に連絡はとっていたけど、直接聞く話ってのもありそうだから楽しみだよなー!
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『緑炎の方陣魔剣士・続』參第107話とリンクしています
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