第641話 みんなで確認
取り敢えず……叙位式をそのままなんとか終了し、俺は神職コスプレから解放された。
ビィクティアムさん、俺の着替えなんて持ってきてたんだ……ローブって、畳みにくいなぁ。
でも、神職ルックはビィクティアムさんから『この服は持っていろ』と言われてしまったので、今後ももしかしたらこんな儀式的なものがあるのかもしれない。
そして神官さん達は解散、ふたりの聖神司祭様とビィクティアムさんと一緒に……この教会で一番誰にも聞かれない、覗かれない場所へ。
「……ここまでなさらなくても、ビィクティアムさんの【境界魔法】使ってくださったらいいのにー」
「おまえのことについて、賢魔器具統括管理省院で話せなくなるのは困るからな。ここなら、間違いなく何処にも聞こえないし、視られない」
四人で入ったのは、司書室地下のあの『秘密部屋』である。
いつの間にか中から開け閉めができるようになっている上に、壁も剥き出しだった岩じゃなくなっている。
リフォームしていたのですね、いつのまにか。
本棚はそのままだけど応接セット的なものが入れられているので、本格的に『密談部屋』として整備したのかもしれない。
監視カメラ、撤去しておいてよかったなー。
それにしてもこの調子だと、きっと既存の今隠している魔法とか技能とかもとんでもないことになっていそう。
早くおうちで確認したいところではあるのだが……まずは、この四者面談を乗り切らねばならない。
でもまー、特に隠さないといかんものはないと思うんだよなー。
俺が説明が面倒だっていうだけのことだし、ゆくゆくは全部本にして遊文館に入れるしなー。
「タクト、もう一度、身分証を見せてもらってもいいか?」
ビィクティアムさんに改めて言われ、四人で腰掛けた丸テーブルに俺の身分証を置く。
「……素晴らしい……のですが、どうしていいか解らないくらいですね」
レイエルス神司祭は、身分階位再認証の時に俺のものを見ているからその時と比べていらっしゃるのだろう。
多分、【星青魔法】のことや練度などはビィクティアムさんから聞いていたから、さほどインパクトはないって思っていたんだろうなぁ。
俺もそう思っていましたーー。
ひとつひとつ、確認していくか、とビィクティアムさんが覚悟を決めたかのように短く息を吐く。
「二次職……と言っていいかすら疑問だが、この『神具創錬師』は……散々、加護法具の加工やら作製やらをしてきたせいだろうな」
「宝具師、法具師は存じておりましたが、神具師……神話と伝承の中のものでございますよねぇ」
「それだけでなく『創錬』となると、賢神一位の加護職で神聖属性、ということでしょうか?」
テルウェスト神司祭の問いかけに、ビィクティアムさんとレイエルス神司祭がそうだろう、と頷く。
賢神一位・賢神二位は、今までのものを改造して新しい道具や便利な物を作り出す者達を祝福するとされており、三柱の聖神達はそれを多くの人々が使えるように汎用化して広めることを喜び守護する神々である。
完全に『無から有を創る』のは、主神と宗神の役割である。
その二柱(四柱?)の創り出したものを、ウキウキ改造して違う物品を作り上げるのは賢神一位。
賢神二位は……生物系というか、物品とは言い難いものを作り上げる神だ。
ただどっちの作るものもきっとピーキーすぎて、人々のためとなるものは聖神三柱の更なる改装が必要なのだろう。
俺、最近はちゃんと『みんなに使いやすく』を心掛けているんだけどなぁ。
もう少し頑張ろう。
そして俺的にこの職で一番問題なのは『魔工』って項目なんだが、当然ビィクティアムさんもスルーはしてくれない。
「……思い当たることが、あるのか?」
「ガイエスにもらった、迷宮の魔獣から取ったっていう素材があったんですよね。それを使って、あいつの道具を幾つか作りました」
「迷宮の、ですか」
ちょっと怯えたように、テルウェスト神司祭が『迷宮』と口にする。
皇国では馴染みのないものだし、怖ろしい魔獣の犇めく場所って認識だから当然だけど。
不殺の
「大型魔獣からとれた『鱗』みたいなもので、硬さもあり弾力にも優れていましたが魔法以外での加工が一切できないものでした」
「何を作った?」
「外套とか、天幕とかですね。あ、あとは馬の肢巻とかで、使い切っちゃいました」
「そういえば、あいつが踏破したっていう迷宮から、やたら大きな鱗を持ち帰った記録が載っていたな……それか」
流石ビィクティアムさん、冒険者組合の記録を調べたのか。
アーメルサス滅亡で混乱していたから、皇国の冒険者達のデータ再確認があったって遊文館で会った時にヤハウェスさんも言ってたからその時だろうな。
そして、ガイエスの持ち込んだ素材をガイエス自身のために使ったのあれば、なんの問題もないと認めてもらえたようだ。
よし、これであいつの持ち物を『神具』なんて理由で接収されることもないな。
そして、ここまでは前哨戦だ。
本番はーーーー勿論、神聖魔法の【聖生充育】であろう。
「これは……どういった魔法かすら私には解らないのですが、間違いなく神聖魔法の一種ですよね?」
「ええ、そうでしょう、テルウェスト神司祭……以前見た時にあった【神聖魔法:育】と関わりがあるものなのでしょう」
「その魔法表記がなくなっているということは、タクトが言ってた『お纏め』ってやつか?」
皆さん、なかなか要領を得ていらっしゃる。
「そうだと思います。今まであった、幾つかの魔法や技能の表記が消えていますから。ある魔法の獲得をきっかけに纏まって、上位魔法に変化したと見ていいと思います」
「何と何が纏まったかは……解るか?」
全部は解りませんが、と、俺は表記されていたものでなくなっているものを上げていった。
聖魔法である【治癒魔法】がお纏めされたことは、皆さんには結構な衝撃だったようだ。
それもそうか……つまりこの魔法は……【治癒魔法】を含んでいる上位魔法ってことだからな。
治癒の上って、なんだろう?
全快……とか?
「【神聖魔法:育】は、植物特化でした。でも、この【神聖魔法:聖生充育】は多分、人や動物、魚介を含んでいる……気がします」
俺の言葉に、ビィクティアムさんは少し身を乗り出して考え込むように呟く。
「『獣類鑑定』や『身体鑑定』が纏まっているのならば……そうかもしれんな」
心当たりはあるのかと聞かれたが、解る範囲だと色々なお肉とか魚を全部必ず鑑定しているということや、珊瑚とかアコヤ君達とかを育てているとかくらいしか思いつかない。
あ……いや、もしかして……魔獣の体内確認や分析も込みか?
だとしたら、魔竜くんも?
あーーーーそーだった、魔竜くんなんて記憶の一部までお預かりしちゃってんだった!
そのことまでは、言えない……コンプリートには、『魔獣鑑定』とか『魔竜鑑定』みたいなものまで必要だなんて知られたら大変だ。
うん、ある意味纏まってくれてて助かったな!
「ですが、もしもこの【神聖魔法:聖生充育】が顕現したばかりということですと、段位が初めから『完璧』というのも……」
「それ、段位や練度というより『状態』なのではないかと思うんですよね」
「状態……ですか?」
「そうです、レイエルス神司祭。最高段位に到達した魔法や技能が纏まって、その上位魔法に成長していくのだと思うので。だから、纏まることができる可能性があるものだけに、成長を示す『練度』が存在する。でも、必要な魔法全てが揃った状態でこれ以上の上位魔法がない……という状態に対して『完璧』と表示しているのではないかと」
おそらく『このツリーで獲得できる魔法の最上位』だよ、というお知らせじゃないかなーって考えている。
神斎術は全くの別体系だから、段位や練度表記が違うような気がするんだよね。
言えないけどなぁ、そこまでは……ん?
あれ?
するってーと……神斎術と練度表記が同じ『神具創錬師』って……まさか……
うわぁぁぁぁっ!
早くうちに帰って全部確認したいよぉぉぉっ!
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