第640話 叙位式

 という訳で、やって参りました久々のビィクティアムさん宅。

 いや、朝食デリバリーなんですけどね。


「は? 正装、ですか?」

「ああ、叙位式だからな。ほら、これだ」

 いやいや、俺、以前誕生日にもらったものがありますから……と断ろうとしたら、あれとは目的が違うから駄目だ、と無理矢理新しいものに……その場で着替えさせられた。

 今までのものって騎士風というか、ちょっとカッコイイ感じのものだったんだけど今回のは全然違う。


「なんか……法衣みたいですね?」

「当たり前だろう。聖神位輔祭の叙位なんだから、教会式になる」

 それでこんな、もったりしたローブっぽいやつなのかっ!

 いや、ローブっつーかゆったり目のカソックコートというかの上に、ポンチョみたいだけどポンチョと違ってふわっとした袖があるカズラみたいなものを被る。

 刺繍が金糸だし、色は俺の加護神だから蒼。

 後ろはマントみたいに長くて布面積があるせいか、騎士服より派手だなーーっ!


「……意外と似合うな」

「気のせいだと思います。結構、重いですね、これ」

 ちょっと軽量化しちゃおう。

 このままだと、歩いた途端に服の重さに引っ張られて倒れそうだ。


「よし、教会に行くぞ」

「ええっ? 今ですかっ?」

「こういうことは朝一番なんだよ。ほらっ、移動の目標鋼、置いてあるんだろう?」


 試着じゃなかったのかよっ!

 いきなり本番って何ーーーーっ!

「俺、全然やり方が解りませんっ!」

「平気だよ、シュリィイーレ教会での叙位だから、辞令の受け取りだけだ」

 そんな簡単にーー!

 作法とか、あるんじゃないんですかーっ?


「レイエルス神司祭とテルウェスト神司祭だから、緊張しなくていいぞ」

 あ、それは嬉しい……って、そーではなくてですねっ!

 てか、だったらこんな正装要らなかったのではっ?

「形を整えるってのも、必要なことなんだよ」

 式典だってことだからか……もう着ちゃっているし、諦めるか。



 仕方なく、俺は慣れない『神職的』格好で教会のカタエレリエラ越領門の部屋へ。

 既に、超ニコニコのテルウェスト神司祭がお出迎えで待機くださってました。

 なんか、後ろをズルズル引き摺っている気がする……ちょっとは背が伸びたんだけどなぁ。

 この服の規格、長身のサラレア神司祭に合わせたりしていませんかぁ?


 隣のセラフィラント越領門の部屋からビィクティアムさんも現れ、全員で聖堂に入る。

 ビィクティアムさんもいつの間にか祭服……とはいっても、衛兵隊の礼服に祭祀用のマントを羽織るだけなんだよね。

 金糸刺繍バリバリだとしても、そういう方がいいよぉ。

 俺が着せられてるこれ、今までの人生で身に着けたことがないジャンル過ぎて、恥ずかしいよぅ。


 聖堂にはレイエルス神司祭が既に主神像の前に、そして両サイドに神官さん達が勢揃い。

 神務士トリオは……いないのかな。

 ちょっとよかった。

 こんな姿を見られちゃうと、もの凄く距離を感じられてしまいそうだしこれ以上フィルター付けられたくない。


 俺がキョロキョロしていたのを察してくださったのか、テルウェスト神司祭が『司祭以上の叙位式には、第三位以上の神官でなければ臨席できないのですよ』と教えてくれた。

 そっか、既に距離、できちゃっているってことか。

 だけど、やっぱり見られたくはないよな。

 絶対に似合っていない自信があるし!


 儀式的な要素の強い辞令の受け取りだが、身分証への登録が込みなのでどうしても成人の儀を思いだしてしまう雰囲気だ。

 あの時はもっと『普通でちょっといい服』だったのだが。


 そしてあの時と同じように、司祭様達の前にある真っ白な登録の石板。

 銀証に偽装していることはみんな知っているから、それを解く振りをしつつ金証にしておく指示と、神斎術の表記替えとか聖称非表示とかヤバイ系の隠蔽だけはちゃんとできている確認をしたから大丈夫。

 身分証を開き、裏返しにして石板に載せると金色に仄かに光る。

 よしよし、大丈夫だな。


 今回は職名と職位の修正書き込み、そして聖魔法以上の魔法についての再確認が必要なので司祭様ふたりには身分証を開示せねばならない。

 ゆっくりと何度か繰り返された祈りの言葉は、相変わらず美しい音楽のようだ。

 輝きが落ち着いた身分証を表に返して、司祭様達に提示……


「え……?」

「こ、これは……?」


 ……な、な、な、に、か……?


「……『完璧』……?」

 そう聞こえたテルウェスト神司祭の言葉に、俺は慌てて自分の身分証を覗き込んだ。


 ふおぉぉぉーーっ?

 なんなんだぁ、こりゃあぁぁっ!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前 タクト/聖文字魔法師カリグラファー

 家名 スズヤ

 年齢 29 男

 殊勲 イスグロリエスト大綬章

    教会偉勲章

 在籍 シュリィイーレ 移動制限無

 養父 ガイハック/鍛冶師  

 養母 ミアレッラ/店主

 仮婚約 メイリーン/調薬師

 保証人 イスグロリエスト・シュヴェルデルク

     イスグロリエスト・アイネリリア

 証明司祭 ドミナティア・セインドルクス

 魔力 85091


 魔眼・蒼


 【輔祭 聖神位階級】

 書師・聖位


 【神具創錬師 正階】

 錬成・真 鍛造・真 改変・真 

 看破・真 付与・真

 調整・正 修復・正 分解・正

 解呪・正 評定・正

 魔工・準


 【神聖魔法師 一等位】

 神聖魔法:聖生充育・完璧

 神聖魔法:光・極冠

 星青魔法:地/柔・極位


 収納魔法・極冠 文字魔法・極冠

 付与魔法・極冠 加工魔法・極冠 

 耐性魔法・極冠 冶金魔法・極冠

 音響魔法・極冠 造型魔法・極冠

 臨界魔法・極冠 迅速魔法・極冠


 建築魔法・極位 複写魔法・極位


 烹爨ほうさん魔法・特位


 稍療しょうりょう魔法・第一位

 風制魔法・第三位 


 【適性技能】 

 〈極冠〉

 鍛冶技能 金属看破 神詞操作

 鉱石看破 鉱物操作 魔眼看破

 液体鑑定  

 〈極位〉

 木工技能 表象技能 土類鑑定

 土類錬成 海洋鑑定 

 〈最特〉

 造営技能 普請技能 映写技能

 〈特位〉 

 創図技能

 〈第一位〉

 調律技能 覚感技能

 〈第三位〉

 隠密技能

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 職業が新しく出ちゃうことなんか、警戒していなかったぁぁぁぁ!

 しかも、この位置に出ちゃってるし『神』とか付いちゃってるし、間違いなく神聖属性だー……

 いや、最近は意識的に『加護法具』として作っていたから、仕方がないと言えば仕方がない。

 だがーー、もっと、なんか、ヤバめなものが、いらっさってますけれどぉぅーー!

 心の声なのに呂律が回らんくらいの衝撃……


 これっ!

 この【神聖魔法:聖生充育】って、何っ!

 しかも【完璧】って、何ぃぃぃぃぃーーーーっ?


 身分証の段位は、練度が高いもの順に表示位置が変わる。

 神様達は小まめに調整して『頑張っている魔法や技能』を上の方に表示してくれるのだが……一番上に出ちゃっているということは『完成』の上。

 完璧なんて段位まで用意されてたとは、思ってもいませんでしたがぁっ!

 ……まさか、まだ上があるのだろうか……


 だが、この神聖魔法はどうして……あれ?

 前々から【神聖魔法:育】で表示させていたはずなのにないってことは、【麗育天元】さんが消えているってことか?

 他にも表示されているものでは【治癒魔法】もなくなっている。

 技能の方も『動体操作』『身体鑑定』『魚介鑑定』『魚介育成』『獣類鑑定』が……ない。


 ……新しいのに『育』が入っている……と、いうことはっ!

 まさかの『お纏め機能』発動でのグレードアップか!

 神聖魔法も、おまとめの対象素材ってことなのかーーっ!


 このポイントもノーマークだった……まさか、神聖魔法が纏まるパーツになっているなんて考えてもいなかった。

 他のものが纏まって最終形態が『神聖魔法』ってことで、これ以上の纏めなんかないと思っていたのに……


 つまり……これは『神聖魔法にも上位・並位などの区別がある』ということなのかもしれない。

 もしかして、上位神聖魔法になると『完璧』なのかな?

 そうだとしたら、これ以上はない……か?


 神聖魔法の隠蔽工作は、別名表記にしているものがあるから全部を隠す指示は【天翔空軸】だけにしか適用させていない。

 だから新しいものが出ちゃうと、消えもしないし名称変更もされないってことだよな!

 なんでこのタイミングで出してくれちゃってるんですか、神様達ぃっ!

 あと半日遅ければ、隠せたのにーー!


 いや、神々的には『隠しておかないでちゃんと言いなさい』ってことなのかもしれない……

 そうですね、こうなっても仕方ないくらい大っぴらに加護法具を直したり、改変したり、新しい素材まで作ったり……してましたもんねっ!

 神具創錬師なんてやつは、甘んじて受け入れますが……【神聖魔法:聖生充育】の方は、一体何がどーしてどーいう訳でこーなったのかくらいは教えて欲しい!


 司祭様達だけでなく、いつの間にか俺の真横にいたビィクティアムさんも表示を見て固まっている。

 神官さん達は、興味はあるけど近づけないからなんだろう? って、ドキドキしている感じだ。


 ビィクティアムさん、そして神司祭様達がすっ、と姿勢を正すと、にっこりと俺に向かって微笑む。

 よっしゃ、質問タイムですねっ!

 いいですよっ!

 なんでも答え……は、しないけど、言える範囲で答えますので!

 どーーんと来やがれっ!


 ……でも、お手柔らかに……

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