第639話 意識統一……?

「……とまぁ、そんな訳で、皆さんの職位はお話しした通りで、ビィクティアムさんとテルウェスト神司祭もご了承済です。近々、ファイラスさんが戻れば王都での承認と制定も完了ですからご心配なく」


 粗方の説明を終える頃には、やっと全員が通常モードになってくれたようだ。

「あの、質問、よろしいでしょうか」

 はい、なんでもどうぞミオトレールス神官!

「えっと、テルウェスト司祭が聖神司祭となられて……タクト様との、その職位的な兼ね合いとは、どのように?」


 あ、そこらへん……実は、俺もよく解っていないぞ。

 テルウェスト神司祭に応援を頼むように視線を送ると、お任せくださいとばかりに軽く咳払い。

 ちゃんと聖神司祭様の口から、説明していただいた方がいいよな、教会的職務階位については。


「タクト様は」

 いやいや、聖神司祭様が『様』付けしちゃ駄目でしょ、輔祭は聖神位とは言っても教会所属の神司祭じゃないんだから。

「民間輔祭ではありますが、貢献度は教会所属神職の中でも最も優れていらっしゃる上に我々が獲得できていない『神聖属性』をお持ちですので」

 なんか、嫌な予感のする前置きだぞ。

「『聖神位輔祭』という、教会所属聖教会神司祭と同等のお立場です」

 うぉっ、皆さんの視線がとんでもないキランキラン状態にっ!

「ですが」

 え、まだ続くのですか?

 一体何が……


「タクト様は『イスグロリエスト大綬章授章』と『正典完訳』『大陸史編纂貢献』と、数々の偉業をなされていらっしゃいますし、現在も多くの素晴らしい加護法具を生み出され続けておりますので」

 ……嫌な予感というのは、的中率が高すぎる。

「神司祭の中でも総括である聖リンディエン神司祭と同位であり、魔法階位ではセラフィエムス卿に続く皇国第二位でいらっしゃいますから実質、神司祭の上……ということです。私みたいな末席とは、天と地ほどの差ですよっ!」


 ああ、お友達候補が、遠のいてしまった……折角、年が近い神務士さん達なのにー。

 だけど、教会内ではそういう扱いにされてしまうのも仕方ないと諦めますが、町中ではどうか普通に接してください……しくしくしく。


「……大袈裟にしすぎですよ、テルウェスト神司祭は……」

「これでも抑え気味だと思うのですが」

 神官さん達っ、頷かないでーー!


「あ、タクト様、正式な階位確定叙位につきましては、近々レイエルス神司祭かセラフィエムス卿からご連絡があろうかと思いますので、身分証の更新をお願いいたしますね」

「はい……教会で登録更新すればいいんですよね?」

「勿論です。これからも、タクト様とこの町のために貢献できると思うと、嬉しくて堪りません」

 それは俺も同じですよ、テルウェスト神司祭。

 衛兵隊といい、シュリィイーレ教会といい、信頼できる方々ばかりで本当に良かった。


「あの……い、今更なのですが……遊文館の所有者……というのも、タクトさ、まなのです、よね?」

 アトネストさんがおずおずと尋ねてくるのは、やっぱりまだ信じられない気持ちが残っているからなんだろう。

 俺が頷くと、今度はシュレミスさんが尋ねてくる。

「この間いただいた野菜、とても新鮮で大変美味しゅうございましたが……その、どうして、まだ閉ざされていた時期に他領の物が……?」


 あー、そっか。そうだったよなー。

 遊文館のオーナーからってことで、お野菜と調味料セットをお渡ししたんだったよなー。

 以前テルウェスト神司祭達がばらまいてくれた『噂』みたいに、皇系貴系の人がオーナーだったら『王都にいるかもしれない』から他領の物も手配できて不思議ではない。

 だけど、冬のシュリィイーレでどうやって外部と連絡を取って、俺自身に全く関係のない領地の食品の手配ができるのかってのは確かに不思議だろう。


「あれらの野菜は、俺が作っているものなのです。原産は別の場所ですけど、全てシュリィイーレで採れたものなんですよ」

 実は植物プラントについては、お貴族様次期ご当主大集合の時に公開しちゃうつもりだった。

 元々、ビィクティアムさんは既に俺の家の地下に茸の栽培部屋があったことは知っているし、それはヴェルテムス師匠もセルゲイスさんも見ている。

 硝子温室のことも、プランターでルッコラや芥子菜を作っていることも隠してはいない。

 こういうことが技術的にも魔法的にも可能ですよってことで、ビィクティアムさんとナルセーエラ卿には『遊文館地下植物栽培プラント』を見てもらうつもりだったから、先に教会の皆さんに知っててもらってもいいだろう。


「作っている……とは、畑をお持ちだとしても冬場のシュリィイーレで、ですか?」

 レトリノさんが驚くのは無理ないけど、なんでアトネストさんやミオトレールス神官までが……?

 ガルーレン神官だって、うちの裏庭の温室、見ているじゃないですか。


「えええー……あの硝子の家は、そういうものだったのですかぁ……」

「私も、全然思い至りもしませんでした……」

 なるほど、冬場まで使えるとは考えてもいなかった……と。

 まぁ、そうかもしれない。


「正式にシュリィイーレ在籍となられた皆様には、今後の協力もお願いするということで……野菜を作っているところも含め、遊文館の施設内総てをご覧いただいた方がいいかもしれないですね」


 おおおっ、急に皆様が前のめりにっ!

 だけど『悉く全て』ではなく『ほぼ総て』ですよ。

 当然、お子様専用施設への立ち入りは認めません。

 地下も秘密の蔵書部屋は……秘密、なので誰にも言いませんしね。

 夜のことも……もう少しだけ、秘密にしておこう。


 では、遊文館については近々見学ツアーをすることにして、新しく作りました『職位徽章』をお配りいたしましょうか。

 カラーチタン製の『遊文館銘紋』を象った『袖章』である。

 これは後日、テルウェスト神司祭から遊文館職員の皆様に配って欲しいものですのでどうぞヨロシク。


 俺が配っちゃうと、知られたくない町の方々にまで俺が輔祭だって解っちゃうかもしれないからね。

 それに、適性年齢前の魔法師に過ぎない俺が渡すより『聖神司祭様』から受け取る方が、ぜーったい皆さん喜びますからねー。

 ご協力くださいませ!


 そして解説というかナレーターというか、俺の役目も終わりましたので後は皆様で、と俺は家に戻った。

 夕食準備には……ちょっと遅れたが、開店前には戻れたからセーフだな。


 神務士さん達も残ってくださることが決まり、遊文館スタッフ問題も一気に解決。

 はぁー……気持ちがかなり楽になったぞー。

 これで、夜の子供達も泣かせずに済むかなー。

 きっと教会では今頃、みんなでお祝いの真っ最中だろう。



 勢いよく開いた食堂の扉から飛び込んできたのは……なんと、王都に行ったはずのファイラスさんだ。

「あー、お腹空いたよぉ。今日はなんですかー?」

「……いらっしゃい、ファイラスさん……お早いお帰りですね?」

「だって、食事はシュリィイーレが一番美味しいからねっ! あっ、イノブタの甘辛焼きぃーー! やったぁ!」


 ファイラスさんがさっぱりした表情をしているので、諸々の手続きがどうやら上手くいったみたいだな。

 それにしても……毎回、よくこんなに早く承認が取れるなぁ。

 裏技……?

 いや、なんかおっかないから、敢えて聞かないでおこう。


「うぅーーん、仕事終わりのイノブタはサイコーだねー!」

 色々お疲れ様でしたー。

 明日は、お魚……うん、鮭にでもしてあげ……


「あ、タクトくーん、ちょっとやってもらわないといけないことあるから、明日長官の所に行ってねー」

 含みのあるようなファイラスさんの微笑み……何があるというのですかっ?

 お魚提供は、それ次第にしようかな。



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『アカツキ』爽籟に舞う編 23▷三十一歳 新月五日 - 4とリンクしております


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