第638話 確認事項

 ここで冷静なガルーレン神官が、色々と確認し始めてくれた。

 よかった、このまま本当に『気持ち的な大団円』で終わっちゃうのかと思ったよ。


「テルウェスト司祭、我々の意思確認はいいとしましても、どうして急にこの教会で神従士が認められるようになったのですか?」

 そうそう、その大前提をちゃんと説明しなくちゃね、テルウェスト司祭。


「あ、実はシュリィイーレ教会が、正式に直轄地の教会として王都中央教会と並び『第二位聖教会』となりましたのでね。今まで通り、神官でここへの異動希望が出せるのは第三位以上ですが、神従士第四位以上の神職教育をすることも、必須になりまして。勿論、この町の在籍者であれば第六位から受け入れますよ」


 あ、皆さんが固まっていらっしゃる。

 ですよねー。

 教会法だと『聖教会』の第一位は王都皇宮聖教会で、第二位がふたつの王都中央区教会。

 皇系・貴系の方々の住む中央街区にある、ふたつの教会が王都中央教会ですよねー。


 第一位教会は、席次のトップとしては皇王陛下でそれに仕える形で聖神司祭様って構造だけど、権威的なものと奏上の儀とか国家行事が執り行われる場所だから一般の教会とは違う。


 だから、実務的な教会としては第二位の王都中央教会の二教会が今まではトップだった。

 ふたつあるのは男性神官教会と女性神官教会に分かれてて、実務的トップとしては第三位以上の上位神官数名が行う訳なんだけど、どちらも一番上の司祭様ってのは『神司祭』に決まっている。

『聖』は敬称みたいなものだから、正しい階位は『神司祭』だ。


 男性神官の教会は男系家門の聖神司祭様で、女性神官の教会は女系家門の聖神司祭様という配属らしい。

 女性の神司祭がいる時は、その方は男系でも女性神官の教会になるようだ。

 どうやら、今みたいに男性しか居ない世代というのが、実は珍しいみたいでそのための措置のようだ。


 そこと同等ってことは……このシュリィイーレ教会の司祭もまた『神司祭』なのだ。


「……あれ……? ということは……?」

 意味を掴みかねているのか、ヨシュルス神官がちょっとくるくるしているみたいだ。

「はい、正式に辞令もいただいてますし、叙位式も済ませましたので聖神司祭としてこれからも私がシュリィイーレに居ることになりましたよ」

 驚いていただけだった皆さんの顔が紅潮し、お祝いの言葉が飛び交う。

 照れっ照れだな、テルウェスト神司祭。


「いや、実に喜ばしいことです! が、確か二位教会というと……聖神司祭様がふたり以上でございますよね?」

 そのアルフアス神官の声に、ぴたりと皆さんの動きが止まる。

 にっこりと笑う、テルウェスト神司祭。

「もうおひと方は、レイエルス神司祭です。聖シュリィイーレ教会は、男性神司祭で男系と女系それぞれひとりずつと決められましたのでね」

 そして歓声。


 うん、うん、一番シュリィイーレに相応しく、そして最強の布陣である。

 ……何に対して強いのかって、そりゃレイエルス神司祭はお気楽聖神司祭様達の中で一番冷静で、一番……この町の方々の心情に近いものを理解できる方だから、王都の皇系貴系に対してもこの町の銀証の方々に対しても、全方位に向けて、ですよ。

 衛兵隊や自警団のおじさん達並みのムキムキボディだし、フィジカル面でもシュリィイーレ向きかもしれない。


 おおお、神務士トリオの瞳がキラッキラだな。

 そりゃそうか、聖神司祭の第二位教会なんて望んだってなかなか入れない教会だもんなぁ。

 王都中央教会に入るには、王都中央区に住んでいないと駄目だから在野の神従士達が聖神司祭の教会に所属できるのは唯一このシュリィイーレだけってことだ。


 でもー、外部からは受け付けないーってテルウェスト神司祭は宣言しちゃっているからー、今後このシュリィイーレ聖教会に所属できるのはこの町在籍の人だけってことですなー。

 女の子の場合は……ちょっと可哀相……と思っていたら、どうやら王都聖教会の女性教会へ特別推薦で入れるらしい。

 色々条件はありそうだが、道がない訳ではない……ということのようだ。


 そして教会の増改築のことも決定したと情報が共有され、もう一度神務士トリオにこの町以外の教会に移れなくなるかもしれないが構わないかの確認。

 三人ともノープロブレムとばかりに、キラキラ笑顔のままで了承してくれた。

 よかったーーーー!


 シュレミスさんとレトリノさんは、司祭様の保証書と転籍承認書を持って一刻も早くとばかりに役所に走って行き、その後を神官ふたりが追いかける。

 証明と変更には、同行した方が確実で早いから……だろうな。


 アトネストさんには、テルウェスト神司祭の初仕事『帰化誓約許諾司祭』の変更が行われた。

 元々仮籍の保証がテルウェスト司祭だったのだが、正式に『仮在籍シュリィイーレ』と表示されて全ての証明司祭が聖テルウェスト神司祭になった。

 これで、帰化の時に間違いなくシュリィイーレ籍が取れる。


 アトネストさんの顔が、ニヨニヨしている。

 嬉しい、と思ってくれているのだろう。

 俺ももの凄く嬉しい!

 ……なんか、ごめんね、セインさん。


 そして、あっという間に隣の役所で在籍変更を終えたふたりと追いかけて行ったラトリエンス神官、アルフアス神官が戻って……やっとここで、俺が姿を現せる状態になった。

 ふぅ……解説サポート要員が要らなくなったから、本当にこのままこっそりお帰りコースかと思っちゃいましたよ。

 今日中に全部クリアになるとは……流石に思っていなかったけど。

 テルウェスト神司祭から、実はですね、とちょっとムフフって感じで皆さんに種明かし。


「今、ここに、この教会の輔祭様にも、いらしていただいているのですよ」

 皆さんチラチラと越領門の部屋の扉とか、待合の方の扉に視線を送るが何処も開かれることはない。

 全ての隠蔽と錯視を解除。

 じゃじゃーーん!


「えっ?」

「うわわっ!」

「はぁっ?」

「あーーっ?」

「なんとっ!」

「ふぇあっ?」


 うーむ、リアクションがみんな違ってて面白いなー。

 声も出ないのは神務士トリオ。

 だよねー、神官さん達は俺が輔祭と知っているけど、彼らは知らなかったから吃驚の度合いが違うよねー。

 てへへへっ、そうなんですよ、俺ってば教会輔祭なんですよ。

 あ、内緒ですからね?


「お、驚きです……なんという完璧な『隠蔽』……技能だけではなく、魔法も?」

「はい、そうです、ヒューエルテ神官。光を使った『迷彩』ですね」

「流石です……賢神一位の加護魔法ですね、光ですと」


 あれれ?

 まだぽかんとしたままだぞ、神務士トリオ。

 これから皆さんのことについてのお話をしますから、しっかりしてくださーい。


 *******


『アカツキ』爽籟に舞う編 22▷三十一歳 新月五日 - 3(9/8 12:00UP)とリンクしております

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